これに懲りたらもう二度と異世界人を召喚しないでください
城の前には多勢の軍馬が陣取っていました。
クーデターです。
私の父はなんていうか人の話を聞かない人で。
夏に起きた数百年に一度という大洪水で国土の半分近い農家が被害を受けたというのに例年通りの税を徴収して国民に恨まれました。
一部の心ある臣下に、これは不味いんじゃないかと忠告されてもすべて無視して信用を失い、クーデターをおこされました。
父王に阿り耳に心地いい言葉で堕落を促した忠臣達は、三日前から姿が見えず。
その一部はクーデター軍の先頭に立っています。
彼らにとっては、聞き分けの悪い上司には忠言するのではなく、堕落を促してサクッと首を狩るのが国に対する忠義の道らしいです。
色々ふざけんなと思います。
ぶっちゃけ、血の繋がらない王女である私にとって、国民もこの国もどうでもいい存在ですし。
というか、一方的に異世界から召喚して戦争に行かせたこの国も貴族も民も敵ですし。
ボロボロになって戦場に転がっていた私を拾って、当時の王を弑し簒奪して戦争を終わらせ、私を助けてくれた義理の父王以外、憎しみの対象でしかないのです。
だから、いいですよね。
「簒奪者ライクス王よ! 民の怒りを、我らの怒りを思い知れ!! 全軍突撃!!!」
バルコニーから城下を見下ろすと、城門前に陣取った軍馬が一斉に動き出した。
民を省みない悪逆非道の王を成敗する為に。
大義を掲げて。
「もういいですよね。あの人達、私が貰って」
弑逆の王に貴族は従わなかった。
挨拶に来る事なく領地に篭り、その一部は忠誠を誓うふりをして傍に侍り王命を捻じ曲げ、大洪水の後は全てを王の命令と偽って民を騙し搾取した。
騙された民は弑逆の王を殺せと叫んでクーデターに加担した。
弑逆の王を殺し、前王の王子に王冠を渡せと。
私をこの世界に召喚し、戦場に投げ込んだ鬼畜を王にしろと、この国の民は叫んでいる。
その叫びの、一から十までが気に触る。
勝手なことぬかしやがって、と。
お前らまとめて、送還の贄にしてあげよう。
うん、もう止められないし。
十万の人の命と召喚者の命を贄にしないと、この国の魔術では召喚者を送還出来ない。
だからこの国では召喚された異世界人は、戦争で使い潰された挙句に殺される。
殺す為に召喚するのだ。この国は。
だから仕方ないよね。
私を殺そうとした十万の民を、私が還る為の贄にする。
クーデターも鎮圧されて、父王への義理も果たせる。
万々歳。
空前絶後の大虐殺に世界は震撼するかもしれない。
そうなればいいと思う。
右手を上げると王城を中心とした魔法陣が光を放つ。光は地平の先まで広がり贄の生命を吸い上げていく。
生命をなくした人の身体が、王城を中心にバタバタと花が開くように倒れて行く。
自業自得。いい景色。
これに懲りたらもう二度と異世界人を召喚しないでください。