俺は怪物なんだ
次の日の朝、未羽は物理学部で研究があるからと早くに出てしまい一人で洋平は朝ご飯を食べていた。いきなりガンガンと玄関を叩く音が聞こえた。何かあったのかと急いで洋平は玄関を開けると同時に、
「僕と一緒に学校行ってください!!」
と勢い良く頭を下げて上ずった声を出した男がいた。またコイツか、と洋平は思いあきれた口調で言った。
「別にそこまでせんでも行ってやってもいいけど、、、」
「え!?あっ!!洋平さん!?なっ、なんで!?」
「なんでって、、、」
彼の名前は天野悠。昔からの幼なじみで未羽のことが好きらしいが妙にすれ違いばかりであまり喋ることもできず、いつの間にか未羽に対しかなりの緊張感を持つようになりこのような奇妙な行動をするようになっていた。洋平は悠に対し、伝えてやろうか、など手引きをしようとするものの、いや、俺の問題っすとかいい断る良くいえば男気あふれる青年だが、最近の奇妙な行動からただのヘタレという認識に洋平はなりつつあった。
「洋平さんっすかぁ、、、。まぁいいや。一緒に学校行きますか。」
「お前の学部とは逆方向なんだが、、、。」
「じゃあ、送りますよ。行きましょう。」
校舎まで一キロ未満の距離をなぜこんなやつと行かなくてはならないのか、と洋平は思いつつも、分かったと返事し経済学部の棟まで向かった。
「よぉ、洋平。なんか今日遅いじゃん。」
誠が手を振り洋平の所に向かってきた。
「あれ?今誰かいなかったか?」
「いや。誰もいないよ。」
そっか、みまちがいかなー、といい誠は上に伸びて欠伸した。この学校で誠と仲良くなってから知った事だが、悠と誠は従兄弟同士らしく親からよく二人でいさせられたことがあったらしい。その時に、破天荒な誠の遊びについていけず、いつの間にか苦手な人になってしまったらしく誠とは極力顔をあわせないようにしていた。誠自体は嫌いとか無いのだが、悠の所属する建築学部で誠は自分のことが嫌いだみたいなことを言ってたりしているらしい。洋平はまだ悠に対し可能性を見つけようとしているが、悠は正真正銘のただのヘタレだった。
「なぁなぁ洋平。今日、お前の部屋のポストに怪物撲滅新聞あった?」
「そんなもん、なんかあったかなー?」
怪物撲滅新聞は怪物やっつけるぞー、と意気込んでいる奴らがまだいた時に号外のように玄関の前で配っていた新聞、というよりカルト宗教の広告みたいなものである。今では不定期に誰かがポストに入れてくる程度で内容はいつも同じようなものだった。
「今日のアレ、なかなかやばいこと書いてあったらしいぜ。怪物が出来上がる方法とかなんとか。」
洋平はドキッとした。もしかして自分が小悪魔と喋っている所を誰かに見られたかと思い、少し目を泳がせながら、
「そんなもん、どうせ記事書いたやつの妄想だろ。」
そういい嘘笑いをした。洋平はバレていないかと内心ドキドキしていたが、誠はあっけらかんと笑い、
「そんなことわかっているって。でも面白いのはこの心霊写真みたいなのを堂々と記事にだすことだよ。」
といい記事を見せてもらったら愕然とした。写真はぶれているものの小悪魔の姿が写っていたからだ。洋平は少し見せて、と誠から新聞を受け取り記事を読んでいった。
「「怪物はもともと人間であり、わたし達は得体のしれない生物に弄ばれている。」」
その記事を見て驚いた。洋平は、同時にこれを書いた人は誰なのか気になってしょうがなかった。誠に新聞を返しその場は、得体のしれないものってなんだよなど笑いながら教室に向かったが、衝撃的な記事に頭を悩ませていた。ただ嬉しくもあった。真実を知るものは自分だけではないことが。この記事を書いている人は誰も知らないということで有名なため詮索のしようがなかったとしても。
授業が始まり数学の先生が黒板に文字を書き出した。チョークを持つ腕の筋肉が見え隠れしていた。洋平は目が離せなくなり、無意識自分の頭の中で先生の腕の筋肉のつき方を分析していた。どこが一番鍛えられているか、鍛えられていないか、そして、どこが一番美味しいかを。自分の怪物化が始まっていると思うと恐ろしく思ったが、時間は少ないということは直感でわかった。もし自分が動き出すなら今しかないと。
授業が終わり洋平は誠に話しかけた。
「この記事書いたやつ探そうぜ。」
素っ頓狂な顔をして誠はいった。
「なんだよいきなり。何よりこの撲滅シリーズ書いてる奴って過激派だろ?そんな奴らに会いたくねえよ。」
時間は少ない。誠なら信頼できる。誠なら俺と一緒に危険を渡ってくれる。誠を信じ、洋平は放課後誠を空き教室に連れていき、意を決して彼女にいった。
「俺は怪物なんだ。」