福島誠
今日、学校の机がまた一つ空になったらしい。机の上には見慣れた花瓶が置いてあった。恐怖で青ざめるものもいれば恐怖を忘れてしまったものもいるようだ。俺はどちらかというと後者かもしれない。どうせ俺は生き残れない。きっと(怪物)が半分人を消すなら俺は消されるほうに行く側だ。俺の人生はそうなっている。だが卑屈には思ったりはしない。それが運命だから。
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「えー、、、皆さんの中には知っている方も多いかもしれませんが、先日うちのクラスの佐々木がいなくなりました。現場には血痕と佐々木の腕が残っていたため、、、。」
担任の牧原は涙を流しながら状況を説明しようとするものの、感情が膨らみすぎて、話の内容が嗚咽で生徒が聞き取れなくなっていた。
朝礼が終わるチャイムがなると牧原は話をやめて「必ず何かあったら大声を出して助けを呼びなさい。」といい教室を出た。
「なあなあ、洋平。今度はうちのクラスから死人出たぞ。」
洋平に妙にテンション高く小声で不謹慎なことをいう彼女の名は福島 誠。洋平とはクラスメイトでなおかつ比較的仲のいい友達である。
「おいおい、、、そんなこというなよ。聞こえたらどうするんだ。」
誠はニヤニヤしながらいいじゃんいいじゃんといい次の授業の用意をしていた。誠は客観的にみてこの異常事態を楽しんでいるようにみえることから周りから一つ線を引かれている変わった女学生である。しかし、洋平はこの性格を不思議と嫌いになれなかった。死ぬときは死ぬし仕方がないと笑い飛ばしている彼女に少し共感を得ているのかもしれない。
「そもそも周りの奴らが夢見すぎなんだよ。だってよぉ、全寮制で敷地内から出たやつは帰ってきたやつ一人もいねえじゃん。しまいにゃ何人かが固まって外に出て大体三日後にいつもどおり丁寧に 腕だけ 人数分校門の前においてあったし。もう逃げ場ねえじゃん。まぁうちの学校無駄に広いから隠れるところはあるかもしれんけどね。」
誠は少し声を大きくして言った。誠のいうことは間違っていない。誰もがそう思う。「もしかしたら」という感情を捨てきれないのはおかしいことではない。しかし、それを「逃亡」「戦闘」など行動におこしたものはもうここにはいない。行動を起こせない腰の引けた連中ばかりであるため、誠の言った「諦める正論」に誰も前に出て批判することはできなかった。
その上、今の生活は人が消える恐怖はあるもののそんなに悪くないものである。洋平たちの通う学校は特殊であり、学部が他の学校とは比べ物にならないくらいある上に、それぞれの設備もとてつもないモノがある。広大な地と沢山の家畜を飼っている農学部、採れた食料を調理する家政学部、調理するために必要なエネルギーを効率のよい再生可能エネルギーの理論発明した物理学部、それを使用できる形にした工学部、形をデザインした建築学部。などと入学時生徒数が6000人その敷地内で暮らしていた(今は半分もいないが)。いくら減ったとはいえどそれぞれの学部の先生もいるため衣食住には困ることない場所であった。そのうち洋平らは経済学部であるため本当に手伝い程度で特に何もしなくてもいいということもあり、他学科の生徒と比較すれば一番楽と言っても過言ではなかった。
「あたし達は、なにもできねぇからなー。」
笑いながら誠は用を足すために教室を出た。誠がいなくなって一緒にいた洋平にきつい目が向けられたため、こそこそと教室をでてなんとなく屋上にむかった。
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きっとこの選択が間違っていたのかもしれない。
屋上に一人で行ってはいけなかったのかもしれない。
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「お前が次の怪物。」
身長の低い小悪魔が屋上の扉を開けたすぐ先で洋平そう言った。すぅと消えた気味の悪い小悪魔の言葉を理解することができなかった。いや、洋平は理解したくなかったのかもしれない。