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●受難、現在進行形 7


「暗殺された?」


 内容の割には平静な声が響いた。我ながら緊迫感の欠片もない声を出してしまった、と鷹晃は後悔する。


 フライスの執務室に通された鷹晃は、開口一番こう聞かされたのだ。


「オーディス様が暗殺されました」


 乾いた声で言うフライスの口調が、まるで夕食のメニューを知らせるような平淡なものだったからかもしれない。鷹晃もマルグリットも、すぐには何の反応も返せなかった。


「オーディス殿が?」


 もう一度、確認として問う。


「はい。今朝のことです」


 フライスの応答には無駄が一切無い。ドライアイスのような声からは、本当に主君の死を悼んでいるのかどうか探ることは出来なかった。


 オーディスは鬼族の力を持つ、筋骨隆々の偉丈夫だった。コーヒーのような褐色の肌をしていて、額の左右から生えた二本の角は、それぞれが螺旋を描きながらまっすぐ伸びていた。見た目から想像するよりも遙かに膂力があり、稲妻を操ることが出来た。


 そう。ウォズが〝クライン〟最大の魔女なら、オーディスは〝クライン〟最高の戦士だった。


 そのオーディスが殺されてしまうとは。すぐには信じられない。夢にも思わなかったのだ。不死身だと錯覚するほど、頑丈な男だったのに。


「一体どのような手口で……?」


「胸の真ん中を、まるで炎の剣で貫かれたような形でした。そう、まるでガイエルシュバイク殿のデストリュクシオン・アンペラトリスのような」


 低く押し殺した声を聞いた瞬間、鷹晃はフライスが自分たちをここへ案内した理由を知った。


「なっ……!? 余の仕業だと言いたいのか貴様!」


 案の定マルグリットが火中に放り込まれた栗のように弾けた。


 フライスはマルグリットの怒声にびくりともせず、ただ金属で出来たような灰色の瞳でこちらを見据える。鷹晃とて友人がこのように言われては、黙っていられない。


「待つでござるよ、フライス殿。マルグリット殿がオーディス殿を殺す理由などござらんし、アリバイもあるでござる」


「アリバイ? それは一体どのような?」


 〝クライン〟最高の戦士の参謀は、もちろん無能という言葉から縁遠い。鋭い質問の剣が、喉元に突き付けられる。


「犯行は今朝でござろう? その時マルグリット殿は──」


「御門殿、小官はガイエルシュバイク殿に聞いているのです」


 鷹晃はマルグリットの顔を見やった。苦虫を噛みつぶしてしまったような渋面がそこにあり、刹那、胸内に霜が降りるのを鷹晃は感じた。まさか、という想いがあった。


「余は、今朝は家におった」


 短い答えに対して、フライスはさらに舌鋒を尖らせる。


「それを証明できる人物はいらっしゃいますか?」


「…………」


 マルグリットは答えない。不安になって鷹晃は口を差し挟んだ。


「スターゲイザー殿がいるでござろう?」


 しかしマルグリットは首を横に振った。


「あの者は今朝、鷹晃が出た直後、同様に出て行ったのだよ鷹晃……」


 とすると少年のアリバイを証明する者はいない、ということになる。マルグリットの渋面はそれがわかっていたからこそだったのだ。


「それではアリバイは証明できませんな」


 空気が嫌な重さを持ち始めた。まるではじめからシナリオが用意されている軍法会議のような、不穏な空気である。見えない魔の手が金髪の少年を絡め取り、断崖へ押しやっているかのようだった。


 鷹晃はそんな雰囲気を打ち払うように声を高めた。


「いやしかし、動機がないでござるよ」


「オーディス様は今や〝クライン〟を二分する大勢力の筆頭です。理由などいくらでも考えられるでしょう」


「いや、それを申すなら、炎を扱う者は他にいくらでもおるでござろう?」


 ロボットのようなフライスの灰色の眼が、この時、鋭い光を放ったかのように見えた。


「そうですな。ただし、オーディス様を殺害出来る程の手練れとなりますと、随分と限定されてしまいますが」


 今度こそ鷹晃は言葉を失った。


 状況が悪すぎる。まるで見えざる悪魔がマルグリットを罠にかけたかのようだった。


 確かにオーディスを単身で倒す程の実力を持ち、炎を扱う者と言えば真っ先にマルグリット・フォン・ガイエルシュバイクが思い浮かぶ。と言うよりも、それ以外に候補者が見あたらない。フライスが消去法で彼に容疑をかけるのは、この際やむを得ない話だった。


 だがまだ光明はあった。自らの無実を証明するために、マルグリットがこう言った。


「ふん。余がやったという明確な証拠はあるのか? 余が今朝ここに来たときの目撃者がいるとでも? 状況証拠だけで余を断じるというならば、それこそ望み通り貴様ら全員を消し炭に変えてくれるぞ!」


 苛烈な意思が叫びとなって放たれた。恫喝でもあるそれを叩き付けられた<鬼攻兵団>の参謀は、流石にたじろいだのか表情筋をミリ単位で動かした。マルグリットの性格を考えればあながち冗談でもなく、また、少年にはそれを実行せしめるだけの実力があった。


 数瞬の沈黙を置いてから、フライスは舌を動かした。


「証拠はありません」


「それ見ろ! ただの推測ではないか!」


「しかし状況的にはあなた以外に考えられません」


「黙れ! それ以上ふざけた口を利くならば余の手でオーディスの後を追わせてやるぞ!」


「マルグリット殿、落ちつくでござる、マルグリット殿!」


 マルグリットが剣を握ったので、鷹晃はその肩を掴んで制動をかけた。ここでフライスに手を出してしまったら、それこそどうにもならなくなってしまう。


「しかし鷹晃!」


 怒りに顔を染めたマルグリットが猛然と鷹晃に振り向き、激情が渦巻く瞳で訴える。


「ここは堪え所でござるよ」


 言い含めるように鷹晃はマルグリットの両肩を掴んだ。腰を屈めて視線を合わせると、真摯にライトブルーの瞳を見つめる。マルグリットの瞳の奥で憤怒の炎が燃えさかっていたが、それは鷹晃の視線を受けると、次第に落ち着きを取り戻していった。マルグリットが平静を取り戻したのを確認すると、鷹晃はフライスに向き直り、


「とにかく、証拠も無しに犯人扱いするのは無茶な上、極めて無礼でござる。気持ちはわかるが謹んでくだされ、フライス殿」


 フライスは無言をもって答えた。まだ疑いが晴れたわけではない、とその顔が語っていた。鷹晃はそんなフライスの表情を斬り付けるように、


「さもなければ」


 と、凛とした声を放つ。そして腰の刀に手を添え、


「拙者がおぬしを斬る」


 と宣言した。


「「──!?」」


 無音の落雷があったかのようだった。


 愕然としたのはフライスだけではなかった。庇われたはずのマルグリットでさえ目を剥いて驚愕していた。


 例え<鬼攻兵団>全員を相手取ろうとも、必ずマルグリットを連れて家に帰る。鷹晃は既にその覚悟を決めていた。


 眉を立て、貫かんばかりの視線をフライスに射込む。


「拙者と斬り結ぶ覚悟があるならば、マルグリット殿を拘束するもよかろう。だが、そうでなければ引いていただきたい。明確な証拠が出て容疑が確定するまで、拙者は決して戦友を意味なく拘禁させることを許さぬでござる」


「鷹晃……!」


 マルグリットが涙に溢れた眼で鷹晃を見上げた。彼は感激で滂沱していた。


 フライスは真っ向から鷹晃の視線を受けていたが、やがて諦念したのか、静かに目を伏せた。


「わかりました。不躾なことを申しました。大変申し訳ございません」


 ロボットの如き動きでフライスが低頭する。きっちり三秒後に彼は面を上げ、小気味よく指を鳴らした。


 いつの間に囲まれていたのだろうか。部屋の外からいくつもの気配が離れていくのを、不意に感じた。殺気になる一歩手前の重圧感が遠のき、鷹晃は急に気分が楽になった。いつの間にか神経が緊迫し、息苦しさを覚えていたらしい。要塞内の雰囲気が常と違うことがわかっていたため、表層面で受け流していて気付かなかったが、彼女らが部屋に入った瞬間から<鬼攻兵団>の人間が部屋の外を固めていたのだろう。おそらくは、マルグリットを拘束するために。


 とにもかくにも鷹晃は安堵し、刀にかけていた手をほどいた。鷹晃は口元に微笑をたたえ、


「わかってもらえて何よりでござるよ」


「全くだ。第一、余がオーディスを殺したというのなら、ここにいること自体が道理に合わないではないか。犯人は必ず現場に戻る、などと言っても暗殺者がそのような愚行を犯すわけがない。発想が稚拙に過ぎるのだ! 猛省するがいい!」


 まだ感情が燻っているらしいマルグリットは、もはや石像と化してしまったフライスに辛辣な言葉を浴びせかける。その瞳にたまっていた涙はもう乾いていた。鷹晃が呆れるほど、喜怒哀楽の激しい性格だった。


「オーディス様の件が関係ないのだとすれば、御門殿とガイエルシュバイク殿はいかなるご用で? よりによってこのタイミングで」


 そう言われてみれば、フライスの言い分にも一理ある。鷹晃とマルグリットの来訪はあまりにも時機が悪かったのだ。彼が警戒するのも無理のない話である。


 こうなると長居は無用だ。鷹晃は手短に用件を済ますことにした。


「実は拙者、〝プリンスダム〟のエノル代表から依頼を受けて来たのでござるよ。最近、貴殿らが随分乱暴な方法で〝プリンスダム〟を引き入れようとしているので、止めさせて欲しい、と」


「そうですか」


 フライスの反応は淡泊なものだった。特別、彼に派手なリアクションを期待していたわけではないが、否定も肯定もしないのが気になった。


「今朝も五人の男が〝プリンスダム〟の女性に危害を加えようとしておったが、事実でござるか?」


 そう問うても、彼は頷きもしない。


「事実です。しかし残念ですが、御門殿の要望を聞き入れるわけにはいきません。これは<鬼攻兵団>の方針です。失礼ですが、彼らからはいかほどの報酬を約束されているのですか? よろしければ倍額お支払いさせていただきたい」


 明らかな買収発言だった。鷹晃の返答は神速で放たれた。


「断る」


 厳然と彼女は言い切った。


 刹那、室内は微動しようものなら爆発が起こる、気体爆薬が満ちたかのようだった。


 信義を踏みにじる行為は彼女の最も忌むべきことの一つだった。一度交わした約束を反故に出来る鷹晃ではない。


 フライスがなおも言い募ろうとするならば、その時は斬ろう──。鷹晃はそう決意した。下衆は容赦なく斬り捨てるべきなのだから。


 刃の如く研ぎ澄まされた眼光が、フライスの鉄面皮に突き刺さる。


 しかし冷徹犀利が服を着ているような男は全く表情を変えずに、こう言った。


「そうですか。残念です。ただ、現状では当方もそれどころではない事態ですので、しばらく〝プリンスダム〟には手出しはいたしません。余裕が生まれ次第、〝プリンスダム〟とは別の手法で話を進めさせていただこうと思いますが、それでよろしいでしょうか?」


 こちらを人間扱いしていないかのような態度だった。押して駄目だったから引いてみただけ、というのが見え見えだった。だが、妥協は妥協であったから、鷹晃はそこで満足するしかなかった。


「その時はまた拙者も噛むでござるよ。無法な行いはさせぬが、よろしいか?」


 釘を刺した鷹晃に、フライスは無言で一礼した。単なる儀礼的なものである。


「それではなにとぞ、オーディスの件は他言無用にお願いします」


 いっそ鮮やかとでも言うべき、それは無視だった。ガイスト・メルゼクス事変の時からいけ好かないとは思っていたが、ここまで非情な男だとは思わなかった。


 マルグリットが口を開いて喚き出す気配がしたので、鷹晃はその手を引いて踵を返した。別れの挨拶は必要ない、と判断していた。


 だが、執務室を出る直前で彼女は立ち止まる。


「鷹晃?」


 突然、凍り付いたように止まった少女を、マルグリットは不思議そうに見上げた。


 氷が軋り合うようなその声を、鷹晃のものだと少年はすぐに理解出来ただろうか。


「言い忘れておったが、被害者に謝罪だけはきっちりしておくでござるよ」


 そこで鷹晃は言葉を呑み込んだようだった。台詞の後にどのような言葉が続けられるはずだったのか。余程の鈍感でなければ空気でわかった。


 そしてフライスは鈍感という単語とは無縁の男だった。


「は……」


 頭を下げ、そうやって声を出すのが精一杯だったようだ。彼の表情がここに来て初めて変化を見せていた。急に噴き出した汗が頬を伝い、瞼の辺りがピクピクと震えていた。礼をしたのはその表情を隠すためだった。


 もはや隠さずに放たれた殺気は、『斬る』と宣言した時や『断る』と断言した時とは、比較にならないものだった。


 例えるならば、刃どころではなく、斬撃そのものだった。


 それを受けたフライスは、間違いなく自らを切り裂く剣閃の幻影を見たに違いなかった。悪魔の爪に心臓を握られたような顔を、彼はしていた。




 鷹晃とマルグリットが退室し、扉が閉められた。


 後に残ったのは静謐な氷室のごとき、冷え切った空気だった。


 フライスは扉に向かって頭を垂れたまま、身動きが取れなかった。


「……流石は」


 呟きが生まれる。自嘲にまみれた鉄面皮の声だった。


「ガイスト・メルゼクス事変の英雄。敵に回したくないものだが……」


 体の芯を貫かれたかと思うほどの殺気だった。骨の髄から恐れおののき、何も出来なかった自分がいた。


「……危険だな」


 その単語を舌の上で転がすと、はたと彼は己の吐露に気付き、唇を引き結んだ。


 感情の残滓を振り払うように軽く頭を振ると、フライスは仕事に戻った。オーディスがいない今、彼を待つ仕事は山の如く積み重なっていた。






「久々に見たぞ、余の鷹晃の勇姿を……!」


 陶然とした顔で歩くマルグリットの手を、転けないようにと鷹晃は引っ張った。


「拙者はマルグリット殿の所有物になった覚えはないでござるよ」


「痺れたぞ鷹晃……余はここがキュンとしたぞ……!」


 自分の世界へ羽ばたいて行ってしまったマルグリットの心は、鷹晃の言葉など聞いてはいなかった。


 鷹晃は苦笑するしかない。今更だが、大人げないことをしたと思っている。マルグリットに沈着な態度を求めておきながら、自分は一体何をしていたのか、と。あれではいつもと立場が逆ではないか。ただマルグリットは鷹晃を止めようとはしないため、自分が走り出すとどうにも止まれないのが難点ではあるが。


 フライスと対峙していた終始、どうにも相手に対する不愉快さが先立っていた気がする。『斬る』だの何だの、思い出せば出すほど尋常ではない。だが、相手も悪かったのだ。言うこと全てがこちらの神経を逆撫でする事ばかり。熱くなるな、と言うのが無茶な注文だ。


「しかし、彼が逝ってしまったでござるか……」


 オーディスのことに思い至り、しかし鷹晃はその名を呟かない。


 まだ信じたくない、と言う想いがあった。死者の名として口にしてしまえば、心が現実を認めてしまい、記憶にある彼の姿が風化してしまうような気がした。


 わずか半年のみではあるが、彼は確かに〝クライン〟で輝きを放った巨星の一つだった。本来なら英雄という称号は彼のような男にこそ与えられるべきだった、と鷹晃は今でも思っている。最初の頃はガイスト軍との戦闘が始まっているにも拘わらず、ウォズといがみ合っているのを愚劣だと思っていたが、それもフライスのような男を参謀に置いていたからだった。オーディス本人は戦略的判断力には恵まれなかったものの、人の上に立つ者としての要素は十分に持ち合わせていたのである。


 気が優しく、人道をよく識り、時には泣いて馬謖を斬ることの出来る男だった。戦場にあっては、それこそ雷神の化身だった。雷撃で敵を撃ち砕き、大胆な突撃を仕掛けたと思えば、退却の際は部下を護るために自らが殿を務める。指揮官の鑑とも言うべき、立派な男だった。


 それが暗殺されたのだという。


 よほどの手練れか、そうでなければ稀代の卑怯者だろう。そうでなければあの男がそうそう倒されるわけがない。


 激しくはないが、沸々と込み上げる怒りがあった。


 今の〝クライン〟が乱世とは言え、一度ならず心を交わした人物が死ぬことには、抑えがたいものがある。


 思えばフライスに遺体との対面を申し込めば良かった、と鷹晃は後悔した。手遅れとはいえ、別れの挨拶も無しでは寂寥に過ぎる。


『主よ』


 今からでも引き返して頭を下げた方がすっきりするだろうか、などと考えを巡らせていたため、鷹晃はその声に気付くのが遅れた。


『問題発生』


「……ガルゥレイジ?」


 その地響きのような重低音で声の主は判別出来た。〝プリンスダム〟の監視兼警護を頼んでいるガルゥレイジだった。正確にはそれは音ではなく、頭蓋の中に直接響く意思だった。


 ガルゥレイジは特定の相手と精神感応で交信することが出来る。その現在の『特定の相手』こそが鷹晃である。彼女は声に出さず、言葉を念じる。


『何事か?』


『非常事態。我の力の解放、許可願う』


 いきなり、全力を出す許可が欲しい、と彼は言う。その時、鷹晃の脳裏に蘇ったのはガイスト・メルゼクス事変の末期に見たガルゥレイジの比類ない威力である。街中であれが再現されれば、一体どれほどの犠牲者が出るのか。鷹晃はぞっとした。


『待て。一体何があったのか説明を──』


『戦闘中。許可が不可能ならば至急応援要請』


 解放の許可を願い出るほどなのだから、のっぴきならない状況だというのは容易に予測がついたが、まさか戦闘中だったとは。


 鷹晃はマルグリットの手を引いて駆け出した。


『場所は!? 相手は誰だ!?』


「ふをおぉっ!? な、何事かね鷹晃ッ!? あ、あし、足がもつれ転けおおおおお引きずられておるぞォォォッ!?」


 冷水を浴びせられたかのようなマルグリットの悲鳴にも頓着しない。地面に引っかかるので邪魔だと思い、思いっきり引っ張り上げて宙に浮かせると、そのまま抱き留めた。眠る幼子を抱えるような形である。


「こ、これは……! お姫様だっこという奴ではないか鷹晃! 余は嬉しいぞ!」


『〝プリンスダム〟近辺。相手は戦闘ナース』


『!? 〝プリンスダム〟の人間ではないか!』


 となれば単純な話だろう。監視と警護を兼ねて〝プリンスダム〟周辺にいたガルゥレイジを見咎めた戦闘ナースが、不審者と断定して攻撃してきたのだろう。無理もない。ガルゥレイジは見た目が奇怪に過ぎた。まだ見ぬ彼女が警戒を通り越して敵対感情を得たとしても、それを責めることは出来ない。


『とにかくすぐに向かう! それまで持ちこたえるか、場合によっては退避を許可する。決して相手を傷つけてはならぬぞ!』


『了解した』


 ガルゥレイジの承伏を最後に精神感応は途切れた。


 鷹晃はマルグリットを抱えて、街並みを縫うように疾走する。ようやく鷹晃の表情から事態を理解したらしく、マルグリットが胸元から、


「何かあったのかね鷹晃? 突然走り出すとは」


「ガルゥレイジが攻撃を受けているでござる。急ぎ向かわねば」


 マルグリットは瞬間的に顔を真っ青に染めた。コマ落としの映像かと思うほど鮮やかな変化だった。


「何だと……!? あの者が戦闘状態になったらとんでもない事になるのではないかね!?」


「そうでござるよ。だから控えるように言いつけてはおるのだが……ただ、急がねば話が妙な風にねじくれてしまう可能性がござる」


 急行して戦闘ナースの誤解を解かなければならない。鷹晃はさらに足の回転速度を上げた。


 ラップハールとウォズの話の間にある『ズレ』。オーディスの暗殺。ガルゥレイジの起こす騒動。何かが起こるときは決まって重なるものだ、と鷹晃は思わずにはいられなかった。



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