真実の予感
「え? マカが居なくなった?」
メグミルクと一緒に戻ると、ユミィが心配そうな顔で告げた。
「何処に行ったのかしらね?」
「多分、あっちの方……」
メグミルクの呟きに返答するシュガー。
「ハルトが走って行った後、マカロンもそっちの方に走って行くのを見た」
「マジかぁ、俺結構適当に走ったからなぁ……」
「何でそれで、精霊契約の場所まで来れるのよ……」
ハルトの言葉に呆れながら言うメグミルクだが、ハルトの「精霊の導きだな、ふっふっふ」と言う台詞にもっと呆れるのであった。
「そんな事言ってる場合じゃないですよ。探さないともう夕暮れが近いですから」
ユミィの正論に皆頷き、捜索を始めた。
ハルトは来た道を戻り、再び精霊の契約をしていたと言う場所へと走って行く。
シュガーと一緒に居るのが照れ臭かったハルトは一番で森の中へと消えた。
「何だかんだで、あいつも男の子よね」
「えへへ、ハルト君の魅力に今更気付いちゃいましたか」
残ったメグミルクが、ハルトの背中を見つめながら言った。
すると、ユミィが自分を褒められた様に喜んだ。
「ば、ばっかじゃないの。あんな奴、かっこ良くて魔法適性が高くて、一緒にいて楽しいだけじゃないの! って何言わせるのよ!」
「それはもう……恋してるレベルじゃないですか……?」
ユミィがジト目でメグミルクを睨むのだった。
森を当てなく走って数十分。
途中で会った他の生徒に聞いても見て居ないと言う。
ただ他の生徒と話しているのなら良いのだが、迷子だったら大変だ。
額の汗を拭って捜索を続ける。
湖が見えなくなって来た頃、変な感覚をハルトの全身を襲った。
「な、なんだ……?」
魔力の様で魔力じゃない。それに、何だか嫌な感じがする。
もしかしたら、そこにマカロンがいるかもしれない。
ハルトは自分に鞭打ち、再び駆け出した。
祠から出て来た霊気は八体。
それらは一つと成り、神体を形成する。
蒼く龍の様な鱗。七又八本の首。
日本で言う八岐大蛇の姿を取った精霊が、この禍々しい霊気の正体だった。
『おいおい、出て来て早々餓鬼が居るとは運が良い』
八本の首の内、一番右の首が一人の少女を見付けて笑い声を上げる。その表情は厳ついが今は上機嫌らしい。
「……ひっ、な、何……え……?」
目の前の少女マカロン•サンドは怯えた表情を作り、現状を理解出来ず、困惑する。
それは仕方無い事だろう。目の前にいるのは、この世界に置ける神と呼ばれる存在だからだ。
呼び名を分かりやすく「オロチ」として置こう。
オロチは、二つに別れた長い舌をチロチロと出して、何やら会話をしている。
『おい、さっさとやっちまおうぜ』
先程の右端の首が言う。あ、こっちから見て右ね。
『まぁ待て八ッ湖』
『あんだよ、六ッ湖。俺は暴れてぇんだよ!』
ムツコと呼ばれる右から二番目の首が静止し、それに怒鳴るヤッコ。
『あら、それなら丁度良いんじゃ無い?』
『あん? どう言う事だぁ二湖』
『来るわ……』
左から二番目の首、ニコの言葉で静まり返るオロチ達。
風がざわつき、草木が揺れる。
『其処か!』
ヤッコが何かを感じ取ったのか、木々の間に水のブレスを放つ。その協力な水鉄砲は、木々を薙ぎ払うが其処に倒れぬ影が一つ。
「よお、随分なご挨拶じゃないか……」
それは額に血を垂らし、オロチを睨み付けるハルトだった。
✳︎✳︎✳︎
オロチの霊気を感じたのは、ハルトだけでは無かった。
魔法学校の教師や生徒も、その狂気とすら言える霊気に気付き、教師は生徒に避難を促した。
「契約は一旦中止だ、皆避難しろ!」
「先生は逃げないんですか!?」
「ああ、俺にはお前等を守るという使命があるからな」
「先生……」
生徒が教師に感動した瞬間、盛大な咆哮と巨大な水の柱が立った。
オオオオオオオオオ!!
「先生、本当に残るんですか?」
「うん、無理無理、撤収だーーーーー!」
「………」
✳︎✳︎✳︎
「ハルト……っ」
マカロンが感涙を浮かべ、ハルトの名前を呼んだ。
「おう、来るのが遅れたな、悪いマカ……」
「ううん、大丈夫。信じてたから」
瞳に掛かる涙を払い、震える声で言った。
『少しは暴れられそうだぜ、壊れるなよ人間!』
ヤッコの言葉にハルトは堂々と返す。
「はっ、俺の名前はハルト……神殺しの称号を持つ男」
『はんっ、今からぶっ殺す相手の名前なんざ、憶えてられねぇよ!』
その台詞を皮切りに戦闘は始まった。
「闇魔法、グラビティフィールド!」
薄暗い魔力の層がハルトを覆う。
すると、ハルトは重力に逆らって地面を離れる。
「これで、同じ目線だ……」
そう言うハルトに無常にも、八本の光線の様な水鉄砲が放射される。
ハルトに当たる瞬間。半径約一メートルのフィールドに当たった水鉄砲は上空へと向きを変えた。
『なんだと!?』
そのオロチの驚く声にニヒルに笑うアルト。そして、子供が玩具を自慢する様に説明を始めた。
「ククク、この魔法は重力を操る魔法だ。この狭い狭い半径約一メートルのフィールドの中で俺は、重力を操る神となる!」
『なんて野郎だ……』
『でも実際、これじゃラチが空かないね』
『ニコ姉、心理攻撃宜しく』
『えー、面倒臭いわ』
『早くしやがれ!』
『はぁ、ヤッコにはお姉ちゃん困っちゃう……“心見”』
同じ様な顔同士のやり取りに戸惑うハルト、すると突然頭痛にも似た痛みが頭を襲う。
「……ぐっ」
「大丈夫、ハルト?」
苦しむハルトの肩を抱き、心配そうに声を掛けるマカロン。
『いゃ〜ん、何々、この子面白〜い! それに、お姉さんの好きな恋バナもキュンキュンしちゃう』
蛇顔の首が一本、くねくね動く。
『あ、あの、ニコ姉さん。気持ち悪いからやめて』
『何よ、三湖ったら失礼しちゃう。そうだ、そこの女の子もちょっと見ちゃうけど、ごめんね』
「ふぇ?」
行き成り、神クラスの存在に声を掛けられ反応出来ないマカロン。直ぐにハルトと同じ痛みが襲う。
『きゃー、もう青春っていいわん。でもハルト君は罰が必要ね』
『もういいだろ! 鼻血出してねぇで戦うぞ!』
『だーめ、て言うかあんたうっさい。ちょっと六ッ湖、あの技ハルト君に掛けてあげて』
『……はぁ、分かりました。“回帰幻夢”』
今度は意識を持って行かれるハルト。次に目を覚ました時、そこはマカロンの記憶の世界だった。
『此処は、マカちゃんの記憶の世界。貴方が何れだけ愚かだったか教えて上げるわ』
群青色の人型の影がハルトの意識に話し掛けた。
そして、言い終わるや否や、モニターが現れ上映が始まる。
「 私はマカロン•サンド。サンド家の次女です。見た目はピンクの髪が特徴で良くサイドテールに纏めてる。
今日は魔法学校の入学式。必死に勉強したお陰か、魔法学校の中でも規模の大きい所へ入学出来たの、えっへん。
教室に入ると、もう席に着いて居る生徒が多い。遅れちゃった?
大丈夫大丈夫。最後じゃ無いし、私の後ろの席の人は騒がしそうにしてるもん。
それにしても、後ろの席の人格好良いな。すらっとした輪郭にシャープな黒髪。それに身長も高くて憧れちゃうなぁ。でも高嶺の花だー。
席に着いたは良いけど、隣の人は違う人と喋ってる。友達早く作りたいな。
そう思っていると、真横に後ろの席の人の顔が。
何!? 近い!? いい匂い!?
何故か小声で話してくる。何だろう? って、え? 特別な人? ムリムリムリッ、だって私なんか可愛く無いし……ってえぇぇぇ、魅力無くなんて無いよ! 今会ったばっかりの私だって、百個は君の魅力言えるよ?
だからって、行き成りお付き合いするのは……うぅ押しに弱いんですぅ。やめてぇ、そんな子犬みたいな顔しないで! 可愛すぎる!
……あぅ、結局頷いてしまった。
マカ? 始めて呼ばれたけど、ハルトだけの呼び方なら嬉しいな。
今日は魔力適性検査の日!
ハルトにいいとこ見せるぞ、うん!
デーン、良くも悪くもないCじゃないですか、そんなぁ。
ハルトは……A!? 容姿もよくて頭もよくて、その上Aなの……ごめんなさい、出来の悪い彼女で。って見られた! そんなお茶目なハルトも好きだけど今は駄目!
堪らず走り出しちゃう私……はぁ。
いてぇ、誰かにぶつかった。
って何この人、牛みたいに大きくて鼻息が洗い……。
謝っても許してくれない。それに、明らかにランボーしようとしてる!?
駄目! 胸はハルトにきゃああああ何でも無いよ!
絶対絶命。そんな時、綺麗な髪を乱してハルトが先輩を蹴飛ばした。
そして、習わなければ使えない魔力を使って追い払ってくれた。すごい。
私なら、先輩の魔法に竦んで絶対動けないよ。
ハルト、私、心の底から好きになっちゃったよ……。
好きだよ、ハルト。」
俺の瞳に涙が溢れた。