魔法の予感
中二病にとって魔法とは、炎であり、雷であり、氷であり、そして
「闇である! ククク、アーハッハッハ!」
魔法適性検査を受けたハルトは、ランクAの闇属性と判定された。そして、この様である。
封印すると決めた中二病が心の底から蘇り、ハルトの思考を汚染していた。それを見ていたクラスメイトで隣の席のメグミルクが辟易しながらハルトに言う。
「はぁ、何であんたより適性ランクが低いのか、謎だわ……」
魔法には、それぞれ主属性が一つ決まっていて、それ以外は殆ど伸びない。副属性でもう一つの属性が伸びる事が有るが、主属性と比べると半分にも満たない。
メグミルクが持つ紙には、水属性、ランクBと書いてあった。
この世界では、Cでそこそこ、Bでエリート、Aは天才と言うレベルでBでも凄いのだが、ハルトがAランクなのが気に入らないらしい。
「ハルト、すごい……」
絶賛勘違い恋愛中のマカロンは、検定書を胸に抱き、ハルトを褒めた。
「マカはどうだった?」
上機嫌なハルトは笑顔でマカロンに聞いた。だが、マカロンは見せたく無いのか「う、うん、そこそこかな……」と誤魔化した。
「いいじゃん、見せてくれよ。ほっ」
「あっ……」
奪い取った紙には風属性Cランクと書いてある。
ハルトは元からCランクで良い方と考えていたから、素直にマカロンを褒める。
「いいじゃないか、それに風か、竜巻は胸が踊るな」
しかし、マカロンはAランクのハルトの言葉が褒め言葉と捉えられず、走り去ってしまう。
「ごめんハルト、出来の悪い彼女で!」
バッと紙を奪って行ってしまった。
死角から、渾身の一振りがハルトの顔面を捉える。
「ばっかもーん!」
「っ!?」
その場で崩れ落ちたハルトに、メグミルクが追い打ちを掛ける。
「あんたねぇ、好きな人に駄目な所見られて喜ぶ女の子なんかいないわよっ! さっさと追いかけなさい!」
その言葉を聞いたハルトは、好きな人? と疑問を感じたが、取り敢えず追うことにする。
「はぁ……そうだ、お前もそうなのか?」
溜息を吐きながら立ち上がったハルトは、さらっと疑問に思った事を聞く。
メグミルクは、顔をほんのり赤くして怒鳴った。
「うっさいっ、早く行け!」
魔力量検査に間に合わせるため、早く連れ戻さなきゃな。そんな呑気な考えと共に、廊下を走って行った。
✳︎✳︎✳︎
人気の無い廊下を只管に走って行く。
目の端に涙を溜めたマカロンは、行く当ても無いが、止まる事も出来なかった。
Cランクは悪くない。
それは分かっているのだが、Aランクで容姿も良い彼とは不釣り合いなんじゃないか。
そんな情けの無い考えが、延々と脳内を巡る。
「きゃっ!?」
碌に前も見ずに走った結果、誰かにぶつかってしまう。
「すいません……」
マカロンが謝りながら視線を上げると、下卑た視線を浮かべる巨漢達の姿だった。
「よう、その制服一年だな。俺にぶつかるって事がどういう事か、わかるかぁ?」
その嬲る様な視線にひたすら謝るマカロン。
だが、男達はそれを受け取る気は無いらしい。
「俺たちは謝って欲しい訳じゃねぇんだ。分かるな? まあ答えはその身を持って知らしめてやるよ。このカルビ様がな」
「牛肉キーック!」
「ビーッフ!?」
巨漢のカルビがマカロンに手を伸ばした瞬間、一つの影がマカロンの横を通り過ぎ、カルビを吹っ飛ばした。
「何だ!?」
巨漢の一人が叫んだ。
「てめえ等の悪は悪じゃない。本当の悪は群れず明かさず高貴で居るものだ。覚えておけ」
「ハルト!」
「てめぇ……」
ハルトの蹴りを食らったカルビが、のそりと立ち上がりながらハルトを睨み付ける。
常人なら竦み上がりそうな睨みを物ともせずに、ハルトは気丈に言い放つ。
「マカは俺の唯一の(友達)人だ。絶対俺が守る」
「ハルトぉ……私、私……うぇぇぇ」
ハルトの言葉に涙を流すマカロン。
それを聞いたカルビは「ははぁん、そいつはてめぇの女か、いいぜ、てめぇの前で泣かしてやんよ!」と声を張り上げる。いやもう泣いてはいるのだが。
「火炎魔法、ファイヤーナックル!」
カルビは自分の腕をこんがりと焼き、ハルトに向かって肉薄する。
あれをくらったら、焼きごてみたいに拳型の火傷が残るに違いない。
それをいち早く勘付いたマカロンは悲鳴を上げる。
「ハルトッ!」
だが、慌てるマカロンとは裏腹にハルトは冷静に分析していた。
「……成る程、これが魔力か」
ゾワリ……ハルトの周囲に黒い魔力が流れる。
「な、こいつ一年だろ!? カルビさんの魔法を見て魔力門を開けやがった!」
後ろの取り巻きの一人が叫んだ。
カルビも足を止めてしまう。その純粋なまでの闇の魔力に。
「こいつ、なんて魔力量だ……」
魔力と戯れていたハルトは、カルビを睨む。
「失せろ、常闇の制裁を受けたく無ければな!」
その言葉を聞いた取り巻き達が、慌てて逃げ出した。カルビも「お、覚えてやがれ!」と尻尾を巻いて帰って行く。
「はぁ、ちょー怖かった……」
「ハルトっ!」
巨漢達の背中を見送ると、マカロンはハルトに抱き付いた。縋る様な乙女の抱き付き方だ。
「うぇ!? ちょっ、マカ? ……えーと、どうしよ。よしよし……?」
ぎゅっとしがみ付くマカロンにどうしていいか分からず、泣いた由美によくしていたように頭を撫でるだけであった。
元の魔力の測定の為に設けられた部屋に戻ると、大半の生徒が魔力検定を終わらせていた。
次は魔力量測定の筈で、既に移動し始めている。
こっそりと戻って来たハルト達に気が付いたメグミルクが近付いて声を掛ける。その表情は、何所か安心した様な表情だった。それもその筈で、ハルトの右腕には頬を幸せ色に染めたマカロンが引っ付いていたからである。
「あら、幸せそーね」
顔をニヤつかせたメグミルクが冷やかしに行く。
マカロンはより頬を染め俯くが、方やハルトは馬鹿にした様な表情を作る。
「はぁ? お前、こっちは先輩達に襲われて大変だったんだが……」
「いいじゃない、そのお陰で進展したんでしょ?」
「あぁ? ああ、そうだメグミー。俺魔力が使える様になったんだぜ、ほら」
左手で黒い魔力を操るハルト。それを見たメグミルクは、自分の可笑しな呼称と一緒に驚いた。
「二重の意味で驚きだわ、メグミーって何よ? はぁ、まあいいわ。次は魔力量測定だしさっさと行きましょうよ」
「……ククッ」
メグミルクの言葉に喉を鳴らす様に笑うハルト。「……何よ」と訝しげな視線でハルトを見つめるメグミルク。
「お前に馴れ合う気があって良かったなって思ってさ。クククッ」
「にゃ、にゃに言ってのよーーーー!」
そんなの在る訳無いわ、とブツブツ呟きながら一人で行ってしまう。その行動にも笑いながら着いて行く。
やっぱり友人とは良い者だ。
ハルトは心の底からそう思えた。
此処まで読んで下さって、大変嬉しく思います。
もし良ければ、アドバイスお待ちしております。感想も、待ってるぞっ♪