転成の予感
世界の理を意識し始めたのは何時だろうか。自分が存在する意味、内に秘めた力、目には映らない幻影を探し追い求めたのは何故だったのか。そんな事はもう忘れてしまった。ただ、今在るのは刺激が無く面白味の無いこの世界と、力の無い自分だけ。
三月も終わりに近付き、春の風が吹き始めた頃、夢見春人はそんなくだらない事を延々と考えていた。
所謂中二病と言う奴で、この病を発症したのは中二の夏。友人が家に泊まりに来た時に見た深夜アニメが原因だ。
「くっ、闇結界に光が生じている……天使の仕業か」
とある休日、遮光カーテンに覆われた部屋で目を覚ました春人は、カーテンの隙間から漏れ出る朝日を眩しそうに目を細め、そうつぶやいた。
すると、床にドカドカと音が響き近付いて来るのが分かった。この音は恐らく妹の由美だろう。
「……来るっ! ダークネスウォール、発動ぅ!」
そう叫んだ春人は、布団を頭から被り身を丸めた。由美に起きているのがバレたらショッピングと言う名の千年戦争に駆り出されるからだ。
バタンッと勢いよく開けられる扉。よくわからない置物で埋め尽くされた春人の部屋に光が差し込む。
「お兄ちゃん! いい加減起きてよ、買い物行くって約束したじゃん!」
丸まった布団に怒鳴る由美。しかし、布団からは何も返っては来ない。
そんな兄の態度に考えがあると不敵に笑う妹。
徐々に近付き口角をより上へと吊り上げる。そしてその手はワキワキしている。
「おっきろーい、こちょこちょこちょ」
「くははははは、や、やめろ由美……あははは」
薄暗い部屋に笑い声が響き渡る。
その声は由美をご機嫌にし、自分をより苦しくするとも知らずに。
数分前続いた擽りが終わり、肩で呼吸をしていた春人に由美は笑顔で「おはよう、お兄ちゃん」と言った。
その屈託の無い笑顔に対し、春人は目を逸らし中二病とは関係無く素直に挨拶を返す。
「…………おはよう、由美」
春人は中二病だが、それ以前にお年頃の思春期ボーイであった。
着替えた春人は、朝食を取るため一階のリビングへ向かう。階段を降りる頃に丁度由美が一旦戻った部屋から顔を出し、一緒にリビングへ向かう。
「やっぱお兄ちゃんは面白いねー」
「ふん、明日の朝、脇に気を付けるんだな」
「私より先に起きれない癖にーあはは」
そう言って笑う由美。そして、悪戯顏で続けて言った。
「それに、知ってる? それってセクハラって言うんだよ、お兄ちゃんっ」
「なん……だと。お前、そんな言葉誰から聞いたんだ!」
「えへへ、ドラマー」
去年中学に上がって以来、急に大人びて来たと感じていた春人。女子の成長スピードは侮れない。身体も以前より膨らんで来た。何がとは言わないが。だが、甘い。膨らむのは我が下半身に宿る聖龍とて同じ事! 勝ったと思うなよ由美! はーはっはっはー。と脳内でくだらない台詞を高笑いしながら吐いていると、空いた腹を刺激するベーコンの香りが漂って来た。
「由美よ、そんな事よりエネルギー補給だ!」
そう言い残してタッタカ走り去る春人。それに続くように由美もパタパタと追い掛けた。
「待ってよ、お兄ちゃーん」
なんだかんだ言っても、やはり中身は子供のままだ。
そんな妹を兄らしく守れたらと思う。
「全く、ドタバタして。もう少し落ち着いて行動しなさい」と言う母の右から左のお説教から始まる朝食を終え、ソファの上で一息つく春人。休日の窓から照らす朝の木漏れ日に身体を預ける。そんな優雅な一時は直ぐに由美によってブレイク、タイム。
「それじゃあお母さん、行ってくるね!」
「はいはい、気を付けてね」
由美に引っ張られ、家を飛び出た。全く忙しない妹である。
行き先は近所に一昨年出来たショッピングモールだ。
開店時間ギリギリに着きそうなので、人も混んで無さそうでいい。しかし、本音としてはもう少し寝ていたかったな。身体も同じ事を考えていたらしく欠伸を一つ。
すると、そんな春人の気持ちを察してか、由美がしおらしく謝る。
「眠そうだねお兄ちゃん。ごめんね、こんな早くから付き合わせて」
「ふん、我が龍の血を宿しこの身体、六徹は余裕」
「あはは、死んじゃうよ。でも、お兄ちゃんのそういう所好きぃ」
「ブフ」
妹の思春期ハートをちくちく攻撃する言葉に動揺し、水魔法「鼻水」を放出する。
由美は、それに爆笑し、笑ながらティッシュを春人の顔に近付ける。
「あはは、ほらお兄ちゃん、チーン」
「んばか、恥ずかしいだろうが」
道端に二人、傍から見れば恋人とも見れなくないやり取りを交わす。本人は気付いてはいないが、もう既にそのやり取りが小っ恥ずかしい。
すると、そのラブコメオーラに怒ったのか、一台のトラックが二人に向かって走っている。車線から外れているのに物ともしていない。
「なんだ、トラックが……危ない由美」
反対を向いていた春人が一早くその事に気付き、声を跳ね上げる。春人の言葉に漸く振り向き確認する由美。トラックはもう目前だった。
「……え?」
由美の声が漏れる。それは、トラックに対する言葉では無く、自分の身体が横に押された事による驚き。
体が反転し、地面に尻餅を付いた由美の目に映ったのは、自分の兄がトラックに跳ねられる所だった。
「お兄ちゃんっ!?」
トラックは民家の壁に衝突し勢いは止まった。
しかし、物凄い衝撃を受けた春人はもう既にこの世から生を経っているだろう。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
住民が音に驚き家から出て来た時、その場には、兄を何度も呼ぶ少女の姿だけが映った。
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「はっ、今日は由美と買い物に行く約束を……て、ここ何処だ?」
知らないベットで目を覚ました春人、辺りを見渡すとやはり自分の部屋では無い。
「そうだ、俺引かれて……」
徐々に蘇る記憶。咄嗟に由美を庇って、その瞬間から意識が無い。自分は死んだ物だと思っていたのだが。
「七つの大罪を従えし悠久の亡霊、ダークネスファントム復活!」
お気に入りの台詞を口に出しポーズを決める春人。
此処が何処だかは知らないが、命が助かった事に浮かれてしまう。
その声に気付いたのか、足音がこの部屋に近付いて来るのが分かった。また由美だな。そう結論付た春人は扉に近付き驚かす体制を取る。手には布団を持っている。
カチャ……扉が音を立てて開かれる。
「フハハ、ブラックフィールド!」
「きゃ!?」
両手で掴んだ布団で、由美を自分毎包み込む。
暗闇が支配する。さぁ、仕返しの時!
「エターナルくすぐり、おりゃおりゃ」
「あはは、ちょ、何ですか、やめ、んんっ」
由美をくすぐっていると、どうやら声が違う気がする。それに何時もより柔らかい。由美はもっと骨ばって硬い……え?
気付いた瞬間、バッと布団を追っ払う。闇が光へ、そこに映し出されたのは、見たこと無い少女の姿。
「えと、誰だ?」
脇を抑え、顔を赤めながら息をする少女に向かってそう聞くのであった。
誤字脱字等がありましたら、どんどん教えてください!
ノリで書いたので粗末な作品ですが、一話を読み切って下さってありがとうございます。
一応10話まで書いたので、しょうがねぇ、取り敢えず読んでやんよ。と言う方はこれからもお願いします!
ごめん、もう無理だわ。と言う方は覗いて下さり有難う御座いました。
感想の返信は慣れて無いですが、良ければ送って貰えると嬉しいです!