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引きこもりはがんばって生きている  作者: 風三租
1話 御嬢様式復学法
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引きこもりになるのは変?

「せなああああ!」

「うわ! 入ってこないで!」


 引きこもりの聖域であるわたしの部屋に、わざわざわたしの名前を叫んで侵入してきた兄がうざい。しかも今は深夜二十八時だ。ふつうのひとなら寝ている時間。

 変な時間に大声を出して侵入する兄は極悪。さらに他人の部屋に無断で入るヤツは非道。

 極悪非道なひとの相手をしてあげる理由なんてあるワケがないでしょう。


 怪しく光るメガネに、狂気の笑みを浮かべて駆け寄ってくる兄。部屋が広くてよかったと思いつつ、手元にあるボタンをポチッと。

 ハイテクな改造を施されたわたしの部屋の機能の一つ、圧力検知システムが作動する。兄の真下に「どこでもダストシュート」が開いた。


「でっきったっぞおおおお!!」


 意味不明な断末魔をあげて沈んでいく兄を、冷ややかな目で見守る。

 なんかの研究者であり、様々な発明品を生み出す兄はアタマがおかしいのである。

 この部屋のハイテク機能である「どこでもダストシュート」を作ったのは兄だ。自分の発明品にやられるなんてお気の毒。

 花も恥じらう少女の部屋に、奇声をあげて不法侵入したのだから当然の報いである。ホントにびっくりしたんだからね。


 もう来んなと念を込めて、ボタンを押す指に力が入る。

 間違ってひとが落ちた時のために、下に選別装置があるらしく、兄は自室に強制送還されるだろう。壁の中とか地下とか、家中にネットワークが形成されているから、ヘタに廊下を歩くよりもダストシュートから目的地に行った方が効率がいいかもしれない。

 でもダストシュートに自らつっこんでいく勇気は出ないよね。


 ダストシュートが閉じるのを見守り、部屋に夜明け前の静けさが戻った。

 なんだかやる気が起きなくなった。もう寝よう。




・・・・・・・・・・・




 我が咲蘭さくら家の朝食は厳かだ。

 とある島国の、国王的なポジションにあるウチ。咲蘭家。

 中枢であるっていう実感はあんまり湧いてないんだけど、とにかくすごいらしいのだ。


 そんな咲蘭家の朝食部屋は、なんかすごい儀式ができてしまう程飾られた大きいホールだ。

 遠く離れた天井には日の出と人類誕生の想像図が描かれており、壁は入り口以外のほとんどガラス張りで、朝日の光を逃がしてなるものかと言わんばかり。

 この国の最高権力を握る咲蘭家としては、こう見えない所にもオカネをかけて、見栄を張りっ放しでなきゃダメらしい。


「家族よ!! 朝食を摂るぞ!!」


 一国を背負う者にして私の父、咲蘭英雄えいゆうが元気よくいただきますをしている。重低音の声でこれから一戦交えてくるかのような号令だ。

 これが単身で国を引っ張っていく偉大な姿。ありがたやー。

 テニスコート二面分位の広い部屋に、父のおっきな声が隅から隅まで響き渡って、実は寝起きのアタマにわるい振動である。

 あまり睡眠時間がとれていないわたしには頭痛のタネだ。

 完全に引きこもりになりたくても家族が許さず、朝昼晩だけは食事のために外に出されるのが現状だ。最後の一線ってやつ?


「お父様! 例のアレがついに完成しました!」


 父と同じくでかい声で空気を汚すのは、兄の博士はかせ。ひろしとは読まない。名前の通りなんかの研究をしている。頭が良すぎて何考えているか分からない。数時間前にダストシュートに落とした不法侵入者だ。

 例のアレとやらが完成とか言ってるけど、嫌な予感が凄まじい。不法侵入の件からして、わたし関係の何かだ。引きこもりであるわたしに何かするとなると、未来に希望が持てない。


「クックック。これで世奈を更生させられるざます」


 更生とか言っちゃったよ。

 国の主のマダム、ウェルシー。他国出身で、旅行に来たときに勢いで移住したらしい。金髪縦ロールの母は昔、この国に旅行に来た際、リーダーシップを発揮して国を引っ張っていく父の姿に一目惚れ。現在に至る。

 


 三対一。逃げ場がない。

 マズイ。おそとにだされる。


 わたし、咲蘭世奈さくらせなは引きこもりだ。

 引きこもりと言っても色々あり、今みたいにちゃんと食事には出られる。程度ってものがあるのよ。


 レベル1。町内引きこもり。住み慣れた町から出るのが怖いと思う症状。行動範囲は近くのスーパーまでで、最も軽度の引きこもり。

 レベル2。敷地内引きこもり。外なんて歩いたら知り合いに会っちゃうじゃんいやだー、という人のための引きこもり。庭を散歩して運動不足を解消することができる。

 レベル3。屋敷内引きこもり。外がこわい。でも寂しい。

 レベル4。自室引きこもり。一人大好き。部屋の中なら呼吸ができる。

 レベル5。自分引きこもり。自分の殻に閉じこもって、現実逃避するのが生き甲斐。


 要するにわたしはレベル3の引きこもり。外に出る必要がなければ出なくていいじゃない。


 初めは世間から切り離された孤独感と、家族の生暖かい視線からくる罪悪感があった。でも、そんなのは時間が解決してくれる。怒り、悲しみ、諦め、受容、開き直り、慣れ、傲慢、達観、勇気、自信という順に考えが変化し、人間としての進歩を成し遂げたのだ。

 今のわたしは自信に満ちあふれた引きこもり。

 引きこもり・オブ・ザ・プロフェッショナル。


 素晴らしき境地に達したわたしを、あやしい治療法で更生させようとする家族。さんざん兄が叫んでいたのは、脱引きこもりのためのナニカが完成したからなのだ。


 国で一番の頭脳を持つ兄は、あり得ないような発明をいとも容易くしてしまう。本人によると計画から完成までの道が、分厚い伊達メガネ越しに見えてしまうらしい。

 国の最高峰達から集中攻撃を受けるわたし。せっかくだから国一番の引きこもりになってやろうかと。未知なるレベル6を開拓してやろうか。


 なぜ引きこもりになったのかって、やはり人間関係という日常生活にネチネチくつっく厄介者が原因だ。学園生活はたいへんなのだ。

 最高権力者の娘が通う学校は、相応にオカネモチの集う場所。だからと言って一般の学校と状況が変わる訳でもない。

 むしろオカネモチという関係上、小学校から大学まで一緒のメンバーだ。さらに各生徒に傲慢さがセットでついておトク。

 もうね、これはわたしからしてみれば引きこもり製造期だって。


 小学校のときは、みんな無邪気(に権力を振るう生意気)なお子様達だった。

 それが中学になって、無邪気は邪気に変わる。黒、茶、金、赤が主流だった人それぞれの髪色は、夏休みを越えると染色されて豪華十六色へと変貌。

 さらに。

 男はワイシャツのボタンを全て外して、自慢の腹筋を魅せつけるファッションへ。半分はプニプニの裕福印を出していて、勇気があるなあと絶望するばかりだ。

 女はスカートが腹から腰までの長さになって、もはや帯。結局ビリビリに切ったハーフパンツをはいているんだから、そんな帯付けたって意味がないでしょ。

 わたしはそんな環境で三年間耐えた。変身しなかった少数派と、身を寄せ合って耐えてきたんだ。


 でも高校に上がるともっとたいへんに。

 髪の色は夢の二百五十六色になり、スペクトルな空間が出来上がった。口に何か入れて、永久にクチャクチャと音をたてる同級生の話題は、もっぱら「明日何色にするー」だ。


 服装が自らの心を映し出すとはよく言ったもの。素行が悪いひとは、服装も改悪される。学校側もよく注意しないなあ、と。

 男たちのワイシャツはほぼ脱げてしまい、見渡すかぎりの露出狂。半脱ぎ状態が羽衣のようで、まるで自分が神になったかのような感覚に陥っているのだ。オカネモチで高貴な自分以外を下に見たいらしい。

 女は化粧を通り越して能面を身につけるようになった。洗練された顔というのは芸術品にあるとのこと。能面に多彩なメイクを施して、芸術品である自分は至高の存在だとアピールしている。


 そんなことはしない健全なわたしとそのお友達一派は、下級民族に見られた上孤立したのだ。

 もういやーってなり。

 高校一年、夏休みまで待てないうちに、挫折してしまいました。お友達にはごめんなさいとしか、言えません。




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