序章 迷宮要塞に行きますか?
この話は、戦争の話ではありますが、戦闘自体の描写は少ないかありません。
戦争の遺跡を発掘したり、過去に何があったのか推理したり、ただお茶を飲んだり、ドタバタ逃げまわったりする話です。
速水螺旋人大師の『大砲とスタンプ』を読ませていただき、こんな風な話を書きたくなった次第です。
迷宮要塞こと『黒島要塞』は、大陸と列島を隔てる二つの海峡の一つである黒島海峡の中央にある島だ。
黒島が『島』となったのは地質学的には最近で、二千年ほど前、海底火山の噴火によって生まれた。
その後は、噴火を繰り返し、黒島が噴火を止めたのは、六百年前の話。
今は、休火山で、噴火の兆しや地震は無い。
噴火がおさまった後の黒島の歴史は、戦争の歴史であった。
最初は、小さな漁村ができたらしい。
のちに、海賊の拠点となった。
その海賊は大陸の海軍に討伐され、大陸軍の基地となる。
その大陸軍基地は、列島への侵略の拠点となった。
大陸からの侵略に晒された列島は反撃し、これを撃退。
かえす勢いで黒島を占領した列島軍は、黒島の要塞を増築。
今度は、列島軍が大陸侵略へと向かう。
さらに、大陸軍は列島軍を阻止し、黒島を再占領。
またまた、黒島要塞を増強して大要塞として……
そんな占領されては要塞を増築される歴史を繰り返してきた黒島は、本来の島の姿を大きく変え、巨大なコンクリートと鋼の塊と成り果ててしまった。
もはや、元の黒島の姿を知る者は無い。
そんな黒島の現在は、列島軍支配下である。
さて、黒島要塞は巨大な要塞である。
しかも、長い歴史の中で、列島軍と大陸軍の双方によって増築が繰り返されてきた。
そして現状は……ご明察の通りに混沌が支配する迷宮である。
主要部分以外の公式なマップが無い状態だ。
自分がいる部屋と隔壁一枚隔てた隣が、何の部屋か分からない。
自分の足元には、古い弾薬庫があるかも知れない。
そんな状態が長く続いた。
ここ数年の大陸との緊張緩和を受けて、列島軍令部は、ごく小規模な特殊任務隊を編成し黒島に派遣した。
その隊は『黒島要塞軍史編纂室付き特務隊』。
だが兵は、この隊を『迷宮要塞探索隊』と呼ぶ。
この作品は、短編集です。
他に連載中の作品があり、不定期連載となります。