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第六話 限界突破

 思えば随分と変わったなと実感する。この世界に降り立ち、神様の特典とか環境の変化に自分が変わったとは感じていた。しかし笑えるほどに一番深い芯の部分は変わらず、あいかあらずの変人で正義好きの馬鹿野郎だ。

 だけど今振るっている力を前に俺は俺でいられるのか?


「うおおおおおおおお!」


 森の一角の開けた場所で、俺とエッジはぶつかり合っていた。俺の常識を投げ捨てたような速度は全てをなぎ払い、踏み込んだ一歩でさえまるで爆発したように地面を抉り取る。エッジが一振り腕を振るえば、あらゆるものを切り裂いていく。

 開けた場所だったそこには無数の木々が無残に横たわり、平野に成り果てている。


「アハハハハハハハハ」


 俺が狂気の笑いと評したその時よりもさらに歪んだ、楽しそうな顔で動き回るエッジ。それを黒と緑で彩られた全身鎧を着て追撃し続ける俺。


「すごい凄いスゴイすっごいよー!! 期待はしてたけど、まさかこんなにも強いなんて思ってなかったよ!」


 初手の攻防で僅かに手傷を負っているエッジが叫ぶ。


「俺こそ、ここまで全力どころか限界まで超えての攻撃でしとめれないとは思ってなかったよ!」


 見えにくい鋼鉄線と、何発も連打してくる『ウインドボール』を掻い潜りエッジの元に迫る。

 なんとも恐ろしい話だがあいつのギフトはどうやら『斬る』という現象をなにかに書き足すような能力らしい。速度が伴っていない鋼鉄線で物を切り裂いたりできたのはそれゆえなのだろう。そして今飛び交っている初級魔法にもそれは付与されている。ウインドボールに当たった木や地面は、まるで積み木のように、無数の立体に切り分けられている。

 この俺だって間違いなく直撃すれば一撃死。かすっても致命傷だろう。強靭な強度を誇るこの鎧も紙屑同然だ。


「セイヤッ!」


 エッジの攻撃で巻き上がる粉塵を目隠しに、奴の死角に回りこむ。既に人間では捉えれない速度に達している俺ならば容易な行為だ。そしてその尋常ならざる速度で打ち出される攻撃を受ければ唯で済むものではない。

 だがこいつは避ける。完全な死角にも関わらずにだ。


「ヒュ! アハハ今のはホントに死ぬかと思ったよ」


 避けつつ再び弾幕を張ってくるエッジ。


「前の時もかなり速かったけど、今日はそれとは比にならないくらい速いよね? まさか今まで手を抜いてたわけじゃないだろうし、やっぱり秘密はその鎧にあるのかな?」


「こいつは自慢の一品だが、かといって自分でネタバラシするわけないだろう」


 といっても正解だ。俺がかなりの格上であるエッジを防戦一方に追い詰めれている要因はまさにこの鎧のおかげに他ならない。

 この世界の魔法は曖昧だ。文化や歴史としての積み上げが元の世界に比べたら、まだまだ稚拙であるため仕方ないとは思う。

 俺は結局中級魔法を使うことが出来ていない。しかしだからといって魔法という特別な力を伸ばさないといった選択肢は取りたくなかった。だからこそ俺なりの方法でその力を増やそうと研究したのだ。

 そして見つけ出したある魔法の可能性。それが元のエネルギーに魔力を継ぎ足して強化する『プラス』の魔法だ。

 火力や、光の明るさ、風の強さなどのエネルギーを増大させる魔法なんだが、実はエネルギーならどんな物でも強化可能なのだ。だから俺はそれを使って体の能力を強化したのだ。おかげで俺の能力は二倍以上に膨れ上がっている。

 だがなぜそんな便利な術を他の人が使用していないのかと疑問が起こるだろう。しかし科学という力が発達していないこの世界では、身体を流れる力の詳細など知られていない。体は移動エネルギー。反射神経は電気信号。こんな知識が無ければ意識することも叶わずに、プラスの対象に選ぶことができないのだ。

 着るロボットであるパワードスーツを真剣に作ろうと勉強してきたのが、まさか魔法開発に役立つとはまさかの話だったな。







 避ける、迫る、放つ、駆ける、防ぐ、騙す、穿つ。何百という攻防を繰り返したというのに、俺等は未だ健在だ。なんて異常性だよ。ここまでやっても掠る程度が精一杯とはな。今の俺ならゾナのおっさんだって一方的に倒せる自信があるっていうのによ。


「いい加減に倒れろよ悪党」


「もっともっと楽しませてよ正義の味方」


 楽しそうに笑いやがって。殺し合いを楽しむなんて酔狂さは持ち合わせてないけど、全力でぶつかり合うのは確かに変えがたい喜びがある。例えそれが憎むべき敵だとしてもだ。

 再び無数に放たれた魔法を避けてエッジに迫る。その進行方向に合わせて張り巡らされた鋼鉄線を風の魔法で吹き飛ばす。するとそこへ切り倒されていた丸太が飛んでくる。その大きな木を右手の拳で迎撃しようとしてはっとした。


(まさかこれでも斬れるんじゃ!?)


 その表面は丸みがかかったもので、なにかを斬るなんてことにはまるで向いていないものだ。しかしもしもこれにもあいつのギフトが有効だとしたら……。

 何か答えがあったわけじゃないが、背筋に走った危険な予感に従って、身を地面に伏せて遣り過ごす。すると通り過ぎ、勢いを無くして地面に落下した丸太は、そこに大きな裂傷を作り上げていた。


「ほんとにギフトってめちゃくちゃだな」


 魔法と言う異常な力が存在するこの世界でも、やはりギフトの力は別格だと再確認。まあ俺のギフトも大概の物だけどな。


「あっちゃー今ので殺れないのかー」


 残念そうにしているエッジ。この一撃でも当たれば即死するであろう場で、あいつは今だに遊具で遊ぶ子供のようだ。

 だがここまで戦ってあいつのギフトの特性は大体理解できた。斬撃を付加できるのは直接触れたものだけ。そして手から離れた場合は効果が持続するのは数秒間。たぶん三秒くらいまで。量ってはないが、俺の鎧が削られたことから見て、当たればどんな物でも斬れる。攻撃の威力と言う意味では問答無用の代物だ。

 判っていたけど、再確認すると背中に冷や汗が流れるな。なんて殺し向きの能力だよ、マジで。

 俺の戦法に合わせて罠を張りやがったのは褒めてやるけど、それが自分だけだと思うなよ!

 戦いの中で仕掛け続けてきた罠を使うためにエッジへと肉薄する。そして今度は下段蹴りをあいつの足へと放つ。だがそれも予定調和のように避けられる。こちらの動きを読んでいるのか、絶大なセンスのおかげなのかわからないが、とにかくこいつは俺の攻撃をことごとく避ける。だけど気付いているか? 慣れてきて避けてから反撃にでる間隔が短くなったせいで、避ける距離が短くなってしまっていることを。

 右の下段蹴りがエッジの足の傍を通過する瞬間に、その踵部分から刃を飛び出させる。森での生活で苦戦した虎から得た刃を。


「つっ!?」


 切り裂いたとまではいけなかったが、血か出るほどには俺の攻撃は当たったようだ。実は刃は左腕にも仕込んであるのだが、あえて足の方を使ったのはあいつの機動力を奪うためだ。いくら隠し剣で奇襲しても、おそらく致命傷には至らないと予測しての選択だ。だがそれがどうやら功を制した。

 なんとか動いて距離を取るエッジ。だがその距離は先程まで保っていた距離よりもかなり離れていた。


「……ほんとに驚かされてばかりだよ。そういう技は僕達みたいなのの技だよ。君みたいな正義を掲げるやつは、決まって卑怯と嫌悪するもんだと思ってたけど」


「確かに卑怯千番と呼ばれても仕方ないかもしれないな。だがそもそも卑怯や正々堂々ってのは美徳なだけで、絶対の法じゃねえよ。そんでもって正義の絶対は負けないことだ」


「へぇー。なんだかそう言われるとお兄さんと僕って似てるのかもね。自分の想いに実直なとことか、負けないことが大事だとか。悪と正義って一番遠くに居るものなのに不思議だね」


「それは違うと思うぜ。正義と悪、光と影は表裏一体。コインの裏と表でしかない。限りなく近く、だが絶対に交わらない。そういうもんだと俺は思ってる」


「ハハッ! なるほど、それはすごくしっくりくるよ! 僕は悪だという自覚がある。だけど僕がお兄さんの存在に、強さに、そしてその在り方にまで恋焦がれてしまっているのは別におかしいことじゃないんだね。アハッいいね楽しい、いや嬉しいよ。アハハハハハハハハハハッッ!」


「俺は男に好かれる趣味は無い」


 腹を抱えて笑っていたエッジが姿勢を直してこちらに向き直す。


「つれないなー。こっちは運命の人に出会えた気分なのに」


「悪いがその席は売約済みだ。他をあたれ」


 俺の相手はトウカ一人だ! 何が悲しくて狂気の殺し屋とトウカを比べなきゃならないんだ。


「殺し合いしたまでの仲なのにー」


 拗ねた表情で訴えかけるエッジ。というかそれはどんな仲だよ。間違いなく良い仲ではないよね?


「はあぁ。でも、ま………………いいや。こんなに楽しかったのは初めてだったけど、お兄さんの狙い通り僕の速さは激減しちゃった。だから次で最後にするね」


 そう言って歪んだ笑顔を持った少年が始めて魔力を収束させていく。今までは軽く、密度の薄い魔法ばかりを打ち、それにギフトを乗せることで殺傷力を得ていた。それがここに来て上位の魔法か。よく考えたらこいつは、あの王様暗殺事件の時に魔方陣を併用したとはいえ上級魔法を使っていたもんな。

 ならば――――。


「なら俺も見せてやる。心と力を伴った、本物のヒーローって奴をな!」


 龍人族のマイアをして、異様な量と認められた魔力を開放する。全身から沸き立つそれを、鎧に配置されたミスリルに限界まで注いでいく。そのミスリルにはそれぞれ違う物を強化するようにプラスの術式が刻まれている。電気信号、移動エネルギー。それに体を持たせる為の耐久力と自己回復力。身体能力と反射神経を魔法によって極限まで高めていく。鎧に設置したミスリルが、唸るように明るい緑色の光を放ちだす。

 ここからは俺だって未知の領域。全部を使うのは初めてだぜ。


「さあ! フィナーレだ! 広大にして(バースト)なおそれは速く(クイック)我は紡ぐ『ストーンスプラッシュ』!!」


 エッジの前から人の頭程の大きさの岩が飛び出し、俺との間にある空間を埋め尽くす。おそらくその一つ一つにエッジのギフトが加わっているだろう。百以上の数が迫るそれは、文字通り全てが必殺だ。

 これは無理だ。避けるかどうかの問題ではない。吹き込んでくる風にどうやって当たらないかなんて問題並に無理だ。だからこそ使う。


「渡せ」


 一瞬の淀み。必死の景色が目の前から消え去り、変わりにあるものはエッジの背中だ。


「な!?」


 驚いたか。俺も最初に使ったときは心臓が止まるかと思ったぜ。


「必殺」


 自身の作品であり傑作と自負している俺の全身甲冑。強度も高く、仕込んだサーベルは飛び出し式。足の裏には風を発生させて加速させる為の魔方陣。出来る限りの施しこの鎧につぎ込んでいた。

 そしてその中でも最大の攻撃力を発揮するギミック。掛け声を上げて発動し、空手の型を自動で行ってくれると言うものだ。

 それによって全身に仕掛けられた『スピン』という名の魔法が複数発生する。回転エネルギーを生み出すそれが俺の動きにさらなる大きな力を加算させ、その一撃は人間の限界を遥かに超えたものへと昇華させる。


「正中線三段突き!」


 振り向きながら回避しようとしたエッジを俺の拳が捉える。音の壁すら突破し、風圧と風の弾ける音を乗せた三連撃が人中、胸元、鳩尾へと打ち込んだ。

 まるで四角い積み木を蹴ったみたいに、エッジは地面に叩きつけられ、進行方向にあった木にぶつかってもそのまま薙倒し、その勢いを失わないままに無惨に飛ばされていった。

 残心。空手において攻撃が成功した後も油断をしないようにと構え直すその仕草をして、深く息を吐いて俺は膝をついてしまう。


「俺の『空渡(そらわたし)のギフト』と、この一撃の連続技はさすがに無理があったか…………」


 俺のギフトである『空渡のギフト』は空間を渡ることが出来る。その際の移動の距離は長い短いが関係なくなり一歩だけでどこまでもいけてしまうなんて出鱈目な代物だ。所謂テレポーテーション。しかしこのギフトは魔力の消費が尋常ではなく、大容量の魔力とて一日三回も使えば枯渇してしまう。

 さらに魔力消費はそこまでないが、体を無理やり動かす鎧の仕掛けは身体への負担が大きくて既に体のあちこちが悲鳴をあげて労働を停止させる寸前だ。

 肩が息を吸い込むために激しく揺れ、膝は細かく震えている。


「…………勝った……よな?」


 なんとか震える足で立ち上がって、吹っ飛ばしたエッジが沈んでいるであろう場所まで歩いていく。

 見事なまでに手ごたえはあった。生き物であればあの攻撃を受けて生きていられるものはいないと信じている必殺の一手だ。

 だがそれを受けてもなお生きているかもしれないと思わせる不可解さが、エッジにはあった。

 なんせ攻撃を受けた時でさえも、あいつの顔は笑顔であったのだから。


「…………」


 障害物に何度と無くぶつかり、最後には巨大な木にぶつかって止まったエッジがそこにいた。鼻っ柱はひしゃげ、胸元は陥没。鳩尾は渦上になって抉れている。見るも無惨とは言ったものだが、まさにそうとしか言えない遺体がそこにはあった。


「………………幸せそうに笑いやがって。むかつくぜ」


 だがエッジの顔はいままでの歪んだ笑顔ではなく、満面の微笑みになっていた。それをどんな笑顔かと聞かれれば、幸せそうなと誰もが答えるだろうそんな顔だ。


「まるでこれじゃあ、俺が負けたみたい…………」


 それを見て心がよくわからない物に捉われそうになる。俺は今酷い顔になってるんだろな。

 心も体も使い切った俺は、抵抗することなく暗闇へと意識を投げ出した。 

他のと平行して書いてたら、一人称と三人称がごちゃごちゃになって大変なことになった。

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