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第五話 戦士

 生まれた場所が最強を謳われる国で、その中でもさらに強いと評される一族の一人として生まれた。その背中を見て育った妾は、なんの疑問も持たずにその強さに憧れた。強さを求めることは女に生まれたが故に、最初こそ歓迎されなかった。だが妾の想いが真剣だと認めてもらってからは、国の兵隊長や数多くの兄上達が指導してくれた。その血のおかげかそれなりに戦うとうい才能に恵まれていたらしく、その上達は他に比ぶれば早かったように思う。

 もちろん失敗や挫折などは何度も味わったの。なにせどれだけ強くなろうとも、兄上達や生きた伝説と呼ばれる父上の強さは、測ることすら出来ずにいたからじゃ。むしろ成長するほどにその大きさを明確に感じ取っていった。

 しかし実戦を経験した時、それはいかな幸運であったかを思い知った。常に自らより強い相手と手合わせを出来る。それは生き残る力を存分に育て上げる肥料となり、そして危機を察知する感覚を大いに得る事が出来たからじゃ。

 生き死にを賭けた戦いにおいては、能力が上や下など関係ない。たとえ速度、筋力、体格、魔力、技術全てが優っていようと、最後に生きていた奴が勝者なのじゃ。







 剣戟の音と、腕に伝わる痺れるほどの衝撃。兄様達や父上との組手を思い出して、なんとも胸が高まるの。


「そりゃあああああ!」


 妾は人間かどうか怪しいほどの巨体を持つリザードと呼ばれる漢が振り回す、凶悪な鉄槌を自分の持つ鉄槌で打ち払う。なにがどうなっているかというと、奴の攻撃に対して、妾の攻撃をぶち当てる事でその軌道をずらして防いでいるわけじゃ。

 さすがに妾も力負けしてしまいそうになり、攻勢には出れておらん。どちらも渾身の攻撃を繰り出しているというのに、拮抗を余儀なくしている。


「せいやあああああ!」


 しかしこの男。よほど自分の回復能力に自信があるのか、その攻撃に自らの身体を気にしている部分がない。巨大な鉄槌の制御は力任せで、腕に負担を掛けまくっておるし、なにより外してしもうた時の防御などまるで考えておらんようだ。

 確かにキドーの聞いた話通りの力なら、その必要は無いのかもしれん。だが――


「即死すれば回復するかのぉ!」


 相手の攻撃を攻撃で逸した後、その体勢はやや崩れてしまう。しかしそれを回転で受け流しながら二の矢を放つ。


「受けるが良い! 今こそ我は解封する成り!!! 衝波穿!」


 我が『蓄積のギフト』で貯めこんだ剣戟のエネルギー。それをリザードに向けて打ち込む。まるで空から岩が降ってきたような轟音と、竜巻が起こったような疾風が一直線にリザードを巻き込んで駆け抜けていく。


「…………なるほどの。まさか防御に特化した戦士であったとは……」


 木々をなぎ倒したその先で、リザードは二本の足で立っておった。もしも直撃しておったのであれば、傷どころの話ではなく一瞬でバラバラにしてやれたであろう。しかしコヤツは妾の攻撃が当たる寸前、その間に鉄の壁を出現させたのだ。


「自動発動する魔法具かの? それにしても土でもなく石でもなく、鉄の壁とは魔導師どもが知ったら殺到してきそうな魔法じゃのぉ」


 切望されてやまないが、今だ鉄を形成する魔法は発見されていない。もしもこれが発見されれば大いなる恵みを生むことは間違いないと言われておる。それをまさか目の前の脳筋まっしぐらな男が使うとは夢にも思わなんだわ。


「それにしても、精霊種ですら大怪我を負う妾の一撃を、擦り傷程度に抑えるとはとんだ防御壁だの」


 相殺という手段で威力を軽減されたことはあるが、防御幕でここまで軽減された覚えは無い。兄上や父上ですらそれなりの効果を期待できる技であったのだが……。


「……」


 妾の自信をやや揺るがした奴が、空へと舞い上がり妾に襲いかかる。


「迂闊じゃぞ! 『ファイヤーブレス』!」


 身動きできぬ奴に炎を放射する。


「『アイアンウォール』」


 炎の塊になんと奴は鉄の壁を作り、そのまま突っ込んできおった。


「なぬぅ!?」


 なんとか寸前で避けることができたが、奴が地面に突撃した余波で体勢を崩してしまい、体を打ちつけてしまう。


「くっ」


 リザードに眼を向けると、そこには今まで見ていた男とは思えぬ者がいた。戦っておっても殺気すら発さず、傷をおっても焦りもしなかった無機質な奴から闘気が立ち込めている。


「脅威度想定大幅突破。制限全解除。これより殲滅ス」


 その男の手には先ほど持っていた鉄槌よりも一回り小さい物が左右に作られ始めていた。そして先ほどの妾の攻撃ではだけた肌に見覚えのある鱗が見えていた。


「お主……龍人種か……いや、龍眼を持たぬ所からしてハーフかの」


 なるほど、人間離れした筋力を持っておると思っておったが、まさか同じ血を持ったものだとはの。我が一族は悪に加担しないと決め込んでおったが、何者にも例外というのがあるようじゃ。


「まあ良い。そちらが全力を出すのなら。妾も容赦を捨てるとしよう。いでよオーガス」


 その言葉に答え、妾の頭上に赤く光るクラゲが浮かび上がる。


「こやつは火の精霊なのじゃがの。とくだん直接戦闘に向いてはおらん。こやつの真価は妾の補助にある」


 するとマイアの持つ鉄槌の先端に赤みが差していく。


「さあ死合の続きじゃ。互いの全てを晒して決着を臨もうぞ!」







 奥の手が防御であったことには驚いたが、なるほどと眼の前に迫る猛攻を見て納得せざるおえん。魔法を防御に回すことで更に捨て身の攻撃を可能とし、武器を小回りにして両手に持ち、数で押し迫ってくるとは……。これでは先程まで使用していた撃退法は使える暇がないわ。先ほどの攻防を不利と見たからこその対応なのだろうが。

 だがそんなことなどもはや関係ないのだ。妾の狙いはもはやそこには無い。

 速度の差を埋めるのが難しいと見たのか、リザードは地面に転がっていたそれなりにお大きい岩を、鉄槌で打ち付ける。その破片が無数に妾に襲いかかる。


「『ストーンウォール』!」


 飛んでくる石礫の多さと速さに、左右にも後ろにも避ける場所が無かった。なんとか石の壁で凌いで見せるが、それこそ奴の思惑通りだろう。

 耳に何かが風を切る音が聞こえてくる。いかんな、もしも妾が奴の立場なら全力の攻撃を持ってこの石の壁をぶん殴るだろうて。そうなれば先ほどのような石礫の嵐が再び起き、その近さ故壁を出す間もなく妾はボロ雑巾のように成り果てるだろう。

 左右どちらかに駆け出すのがセオリーだろうが、ここは敢えて上へと飛び出す。


広大であれ(バースト)『ファイ――!?」


 飛び上がりながら壁へと迫るリザードに中級魔法をお見舞いしてやろうと詠唱を始めると、その目がリザードと交わる。


「読まれた!?」


 完全に上に飛ぶことを読まれておった。奴は壁の直前まで迫るとすでに跳躍の用意をしていたのだ。どんな魔法なのか二つの鉄槌を一つに纏め上げ、巨大な物となったそれを、身動きの取れぬ妾に振り上げる。

 結果だけを述べるのならば、奴の攻撃は空振りに終わった。巨大で凶悪な鉄槌の先が無くなってしまったからだ。

 地面に降り立った奴はその無くなった先を見つめ。妾はやや焦げた両腕をさする。


「流石に咄嗟ではこちらの防御網も不完全だの」


 妾の相棒の一人である熱の精霊オーガスには、妾の鉄槌の先をひたすら高温へと高めてもらっておったのだ。それを振るってやつの鉄で出来た武器を溶かし飛ばしてやったのだ。通常なら風の壁なりをだしてこっちに来る熱気を防ぐのだが、緊急だったのでそれは間に合わなんだ。といっても龍の因子をもつ妾には、火の耐性が備わっておる。熱気程度ではびくともせんのだが、キドーに作ってもろうたお気に入りの衣装が焼け焦げてしまったわ。


「さて次の一手で詰みじゃ。悪いがそなたは即死させる以外に勝つ手段を見いだせん。最後に残す言葉はあるか?」


 再び鉄槌を形成した男が、こちらに振り返る。


「…………名を」


「ふむ、よかろう。我が名はビルマイア・リーン! この世で最も貴き王の末裔よ!」


「…………リア・ダースだ」


「その名、この胸に刻もうぞ、強き者よ!」


 赤く光る鉄槌を手に、全速で迫り行く。


「受けよ! 我が全霊の一撃!」


解放す。鉄おも溶かすまでに熱せられた熱気を蓄積させた絶大な力を、僅か一瞬の内に。


「紅蓮穿!」


 防御を試みるリザードに足元から、その身に鎚を振り上げる。圧縮されていた熱を放つ、その衝撃だけで周りにある木が揺られて歪んでいきおる。オーガスの能力と、妾が作った風の壁でなんとかこちらへの衝撃波緩和しているが、今までで最高を記録するほどに溜め込んだ一撃は想定以上の物で、焦げていた腕の服が砕けてしまいおった。

 そして大空へと走るその閃光に飲まれ、巨漢の武人は最後に微笑を浮かべて消えていく。

 それを確認した妾は、その場で膝を付く。散々酷使した体と、ギフトを使った消耗でもはや体力の限界に達していたのだ。


「見事だ戦士よ。まさか禁じ手まで使わされるハメになるとわの」


 それだけ言って、その場に大の字に寝転がり、目を閉じる。戦場ではありえん気の抜き様だが、もはやこれ以上は働いてなどやらんさ。


「後は任せるぞ、正義の味方よ」


パワーこそ全て!

脳筋同士の戦いは燃えるね!

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