第三話 策謀衝突
一面が石畳で出来た旧ローランド砦は、新しく出来た砦が建設されて以来、人に使われる事は滅多に無いらしい。そうというのも、立てられた山はかなり険しい物になっており、人の行き来がとても厳しい場所なのだ。
長い間放置された石畳は所々に苔が生えており、動物が住んでいたと思われる痕跡も見て取れた。そんな砦の中にある広間に宝剣を受け渡しする騎士五名と、犯人達が対峙していた。約束通り姫さまを連れている奴等を見て、騎士が殺気を押さえれないでいる。
「では宝剣を確認さして頂きましょうか?」
「いやそれよりも姫さまの解放が先だ」
騎士の提案に眉をひそめるケープ。
「あなた自分の立場が分かってるのかしら?」
そう言って姫さまの喉元にナイフを向ける。
「そっちの宝剣が本物か確かめないで取引できる訳無いでしょう。生きて返すと約束はしたけれど、別に傷物になってもらっても一向にこちらは構わないのよ?」
「わ、分かった。今そちらに持っていくだから早まるんじゃない」
「持ってこなくていいわ。そのまま足元に置いてくれれば結構よ」
言われるがままに、布に包んだ宝剣を足元に置く年配の騎士。それをエッジが糸を絡ませて手元に飛ぶようにたぐり寄せた。
「操糸術……東方の暗殺術か……」
「あら、さすがお年を召しているだけあって物知りなのね。でも彼のは更に特別なんだけどね」
「多分本物っぽいよケープ」
「流石はブロニアスの善王様。偽物で誤魔化す真似はしなかったわね。いいわ約束通りお姫様は解放してあげる」
そう言い終わった時、お姫様の足元に魔方陣が輝きだした。
「ただし、あと三十分は待って貰うけれどね。この魔方陣は私が発動させるか、お姫様が此処から移動したら炸裂するようになってるわ。例の騎士団長さんは王様の護衛にかかりきりなんだから、流石に上級魔法を無傷で防げる人なんていないでしょう?」
「貴様ッ!」
「どうせ姫さまを離したら追われるのは目に見えているんだから当然の用意よね?」
そういって騎士たちに背中を見せて捉えた姫を置いて、部屋の扉に向かっていく三人。
「我ら騎士を舐めるでないわ!」
そうリーダーらしき年配の騎士が叫ぶ。
「『ファイヤーランス』!『ファイヤーランス』!『ファイヤーランス』!」
すると一人の女騎士が虚空へと魔法を放つ。すると何かに当たったように空中で魔法が爆散した。
「うおおおおお!」
それを見て、更にもう一人の青年の騎士が剣で魔方陣に切りかかる。すると青白く光っていた魔方陣が霧散してしまった。
「姫! ご無事で!?」
それを庇うように残りの騎士が賊の間に立ちふさがる。
「へえー。私の設置した罠を迎撃したってことはその子が噂に名高い『虚偽のギフト』使いなわけね。さらにすでに発動状態の魔法を解除できるギフト使いが居るなんて、流石はブロニアスの騎士。層が厚いわ」
「ふん、企みが破れても余裕でいられるのはこれまでだぞ! 女狐が!!」
年配の騎士が手の平を地面に叩きつけると、自身の影が部屋中に広がっていく。そしてその場所から次々と騎士が現れていく。その数は百人を超える程増えていった。
「驚いた。まさかあなた強襲のコーリン? まさか特別顧問直々にお出ましとわね」
「ぬしらの奇策の数々にこちらもさんざんかき乱されたのでな。こんなロートルが担ぎ出される事になったのよ。それに孫も同然の姫攫われてワシも頭にきていたのでな」
現れた騎士たちが三人を取り囲む。
「さあ年貢の納め時だ。背後関係から洗いざらい吐いて貰おうか」
「そうね、さすがに私のギフトが封じられてる状態じゃコレを打ち破るのは無理ね。認めるわ、思ってたよりはやると。……でも想定の範囲外では無いわよ」
すると砦全体が大きく揺れだした。天井や壁の石畳が崩れ落ちる。そしてその一つ一つが組みあがって行き、人型のゴーレムへと姿を変えていく。さらに四方にいくつかの扉が開かれ、そこから全身鎧の首無の兵が次々と現れだした。
「それではお姫様をお大事にね」
そう言って、崩れて空の見える天井へと糸を使って飛翔する三人。咄嗟に騎士の何名かが、魔法を唱えて撃墜しようと試みるが、十数発の全てをケープの見えない矢によって迎撃されてしまう。
「いかん! 第三小隊は奴等を追え! 残りは防戦の陣を敷いて撤退する! このゴーレムの狙いは姫さまだ!」
その予想通りに、もはや数さえ数えれない程に増えたゴーレム達は、一直線に姫に向かって進んでいた。
「なんという奴等だ。一体どれほど前からここでこうなることを想定して準備をしていたのだ!?」
そうして混戦を極める戦いが始まる所で、フェズさんとの交信が途切れた。
「大丈夫ですかフェズさん……」
俯いて固まったフェルダナ男爵に声をかける。
「すいません。どうやらあの状態を見て、憑依していた鼠が恐怖に耐えれなかったみたいです」
ジョイントで繋がっていた俺はなんの影響もないが、憑依していたフェズさんは意識がやや混濁してしまっているようだ。
「それにしても、あの国一番の奇策使いと言われたコーリン・マッケニアス殿でも捕えることが叶わないとわ……」
「……私見だけど、コーリンという騎士の方が役者としては上手だったと思うぜ。ただ、この状況自体が相手に仕組まれた物で、その為の準備を万全に整えられたんじゃ有利不利に大きな差が出たって結果だろうさ」
「なら我らに最初から勝ち目が無かったというのか!」
「まあ相手の用意した場で戦う限りは薄かったのは間違い無いだろうな」
今まで翻弄されたことを思い出してか、オデットが悔しさ歯を食いしばっている。国を守ることを本懐としている騎士たちにとっては、今回の事件は実に業腹物だろう。
「だけど勝機はある」
森に一つ、ぽつんと置かれた大きな岩。その目の前にルドラの連中四人が現れた。
「また会ったな悪党ども」
岩の上から見下ろして言葉を投げかける俺。
「あなたもいいかげんしつこいわね。でも今日は流石に構ってあげられ――ッ!?」
四人がいる場所から少しずれた場所に、人の形をした風の流れが起こる。それに対してオデットが突きを放ち、大きな渦にマイアが飛び掛った。
「悪いけどあんたの擬態のギフトは封じさせてもらうよ」
「すっごいねーホントに動いてても見えないんだねー」
俺の隣にフィリーが嬉しそうに漂っている。オデットとマイアの攻撃で姿を現した四人。会敵して速攻で逃げを打つのは、上策だが読み通りでもある。
「精霊付き!?」
オデットの突きをなんとか逸らしたケープが表情を歪ませていた。
「度重なる逢瀬だったけど、ここで終わりにさしてもらう」
「我が傀儡よ 敵を討て」
はじめてみるローブで顔を隠した四人目が、懐から手のひらサイズの人形をいくつか周りに投げ出した。声からして男と思われるそいつが投げた人形が、地面につくと次々に大きな人型ゴーレムが土から作り出されていった。その数は進行形で増えていき、すでに十体を超えている。
騎士団から姫様を攫う時も、さっきの砦で逃げ出す場面でも現れたゴーレムの大群。あらかじめ用意していたゴーレムにしては数が多すぎるとは思っていた。なんせ戦闘用ゴーレムの必要魔力はハニワゴーレムに比べれば雲泥の差がある。丸一時間動かそうとするならば、魔術師と呼ばれる者たち三人分は必要になる。正確に数えたわけではないが、やつらが使ったゴーレムは三百は超えていたはずだ。なら一時間だけ使うと想定していたとしても、九百人分の魔力が必要になるということになる。恐ろしいほどの備蓄だなと思っていたのだが、目の前のローブの男一人で賄った可能性が出てきた。なんせ目の前でゴーレムを作ってみせる芸当からして、尋常な事態ではないからだ。
「コウジン、あのゴーレム達を任せます」
「木偶相手では歯ごたえはなさそうだが、壊し甲斐はそれなりにありそうだ」
コウジンが飛び出し、その衝撃の咆哮でゴーレム一体が粉々に砕け散る。
「…………さてお待たせしたね」
そして俺は、乱戦になった状況で一人停止して俺を見つめるエッジに視線を合わせる。
「ほんと君は最高に僕を興奮させてくれるね。……でもここまで策を弄したって僕の全開は止められないよ?」
「それぐらい分かってるさ」
最初の戦いで見せたこいつの底知れぬ殺気は、そのままこいつの実力を示していた。おそらく、俺、マイア、オデットさんが三人でかかってもこいつは止められないかもしれない。
「だからこそ俺がお前を粉砕する」
そう言って、俺のホルスターの前部分に最後に付けられたバックルの手前で拳を叩き合わせた。
「変身!」
その姿勢から右手を上に左手を下にする天地上下の構えを取ると、俺の体が輝きだす。
「おぉおおおおお」
まばゆい光が晴れた時、俺の全身は工房に飾られた鎧へと換装していた。
「この世に蠢く悪を、この拳にて叩いて砕く、シャドーフィスト! 参上!!」
口上と共に俺の考える最高のポーズで締めくくる。
「さあ受けてみろ! この俺の全力全開を!」
最近の仮面○イダーをディケ○ド以降見れていない・・・
あと近所のレンタル屋の仮面○イダーの人気高すぎだろ・・・いつもないよ(泣