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第九話 新しい何か

 神と謁見するためには各神殿の『啓司の間』と呼ばれる場所に行き祈りを捧げなければならない。だが実際に神と問答が出来るその場所は当然のように人気があり、俺達が利用できたのはブローナスに帰ってきてから一週間経った後だった。

 その間にマイアからツゥーレムを屠ったあの技の説明をしてもらう。


「率直に言えば、あれは妾のギフトの力じゃ。その名を『蓄積のギフト』といってな。一つのエネルギーを溜め込むことが出来る。あの時は妾が敵を殴った反動を溜め続けて放ったわけじゃな」


 つまり、あの時ツゥーレム達を散々殴り倒した打撃を、一発に込めて打ち込んだわけだ。岩を砕く一撃を百発以上溜めれば、そりゃあの威力にもなるか……。


「ギフトってどうやってみつけるんだ?」


 人の誰しもが神からギフトを与えられている。しかしそれの使い方を見つけるだけでも難しい。


「人それぞれなのだがな。宿った力は全て違う物だとも言うしの。最初に見つけなければならないのは発動の条件じゃの。ギフトは一定の条件を満たさんとその効果が発揮せん。妾の場合はエネルギーを指定することだったのだが、こいつは毎日素振りしておったら偶然見つけたものじゃったからの~」


「素振りの力だけに集中したからか……」


「ご名答」


「だが、答えは己の心の中に用意されているとも聞く。自己投影こそが最も大切だと、神殿の神官は言っておるがの」


 自己投影か……。しかし俺のギフトは他の人とは違いルーレットで決められた後付の力だしなー。なんとなくではあるけど、その力があるのは感じるんだけどね……。

 ギフトは段階的な壁が有り、その壁を越えることで力を増していく。一段階目が発動条件を見つけること。二段階目がギフト名の確信。三段階目がギフトの可能性を理解する事。マイアの場合は二段階目の壁を超えたところらしい。三段階目の壁を越えると、その力の成長は際限なく伸びていくらしい。しかしそこまで辿り着けるものは、世界中でも一代で一人いるかどうかだそうだ。そしてそこまで辿り着いた者は、歴史に名を刻む者が多いという。







 一週間が経ち、俺らは改めて風の神殿に訪れる。結構な額のお布施をした後、俺とメリーさん、そしてフィリーが啓司の間に足を踏み入れていた。

 神殿は神への感謝を表すところ、というのはこの世界での常識らしい。それ故か今俺達が訪れているナーブ神を奉る神殿の装飾なんかはその好みに合わせて作られているらしい。少し派手といいますか、軽いというか爽快な感じの建物になっていた。神官達も薄い緑色をしたローブを付けているものの、それ以外の服装は統一すらされておらず、まさしく自由奔放な風を感じる場所だった。


「神よ神よ、風と歌を司るナーブ神よ。我が願いに答え給え」


 膝を付き、指をからませて両手を合わせた姿勢で祈りを送る。一応俺も例に習って真似てはいる。

 すると円状に作られた部屋の天井の方が輝きだして、目の前の祭壇に光の粒子が集まりだす。それを確認したメリーは神のメモを取り出す。あの石版から読み取って、まだ使われていないかもしれないワードの一覧を写しておいた物だった。


「ナーブ神さま。こちらの神聖文字の中に、現代において使われていない物が御座いますでしょうか?」


 しばらくの沈黙が啓司の間に張り詰めた。メリーさんにとって起死回生となるかもしれない未開発のワード発見が、できるかどうかがこれに懸かっている。そう簡単な事ではないようだが、最もそれが発見されるパターンは新しい遺跡からの物がほとんどらしい。確率としてはゼロともいえる行いではあったのだが、あの遺跡のお陰で数パーセントほどの希望は持てたはずだ。もしもこれで駄目ならまた遺跡行きだな……。


「……」


 続く沈黙。今回遺跡に潜って得た宝を売っぱらった報酬で買った懐中時計では、今だ五分と経っていないが、その一秒一秒が緊張した雰囲気によってとても長く感じてしまう。

 この時代の腕時計のような小型の物はまだ出来たての最新技術らしく、俺の買った懐中時計でさえ五万ディスクもする高額っぷりである。だが今回の遺跡探索で一人頭八万ディクス、総計四〇万ディクスにもなったので余裕で買えてしまった。家の建築代も最近では減少傾向にあったのでこれはいい機会とばかりに買ってしまったのだ。


「あ」


 メリーさんは俺の少し右斜め前に座っていたのであるが、なにやら驚いたような声を上げていた。


「ありがとうございました。ナーブ神さま。これよりも日々の精進にて世に光を」


 たしか今のはこの儀式の締めに言われる台詞だったはず。この部屋に入る時に神官に習ったことだし。ということは答えが出たのかな。


「見てキドー! やったわ! 私の、魔法の可能性は守られた!」


 振り返ったメリーさんが抱えていたメモの単語の内、二つの文字が光り輝いていた。おそらくそれが未使用の魔法なのだろう。

 そのままの勢いで抱きつかれたのには大いに大慌てだった。メリーさんの胸部に付いた柔らかいモノがーーーーー!! あたる跳ねる、揺れる大迫力で押し迫る。まだ膝を付いた俺に経って抱きついたらそれは胸に直撃するんですけどー!


「ワワワワワ!?」


 しばらく抱きついてから、真っ赤になって離れていくメリーさん。数秒ではあったがとんでもなく恥ずかしい状態だった事に気付いたようだ。俺もおかげで耳まで真っ赤だが。


「『スピン』と『トルネード』か」


 恥ずかしいのを誤魔化すように光り輝く文字を読む。

 回転に竜巻ときたか……。フフフなるほどなるほど。それはメリーさんの許可があれば使ってもいいものになるんだな。そいつは、そいつは大変結構だ。







 さて本題も最高の形で片付いたし俺のオマケを始めるとしますか。

 俺も私事で聞くことがあると、メリーさんには先に退室してもらった。基本的にこの啓司においては、当事者以外にその情報を漏らすことはならないと、過去に神からの言及を承ってるそうだ。そのためかこの啓司の間の壁は恐ろしく分厚くできている。扉も三重構造で十センチはあろう分厚さだった。

 魔法による防諜のために入り口には神官二人が立ち並び、常に防御結界を貼り続けているという鉄壁構造だ。


「いるんだろ、ナーブ」


 祈りの形も取らずに神様を呼びつける。神官さんあたりが見たら卒倒してしまうだろう態度である。


「ハッハッハ、啓司の間で神を呼び捨てにするなど前代未聞であるな」


 さきほど光が集まっていた祭壇にナーブ神が座った状態で現れる。


「弄ばれてる相手に敬意を払うほどアホじゃない」


「たしかに色々と楽しませてもらっているよ青年。で、本当に愚痴を言いたいがために私を呼んだのかね?」


「確かに色々と言いたいことは山ほどあるが、どうせいつも俺の事は見ているのだろ? それで楽しんでいるあんたらに愚痴を言っても馬耳東風だしな。今日は質問を一つだけしたいんだ」


 神々が俺に与えた突拍子も無い数々の物に四苦八苦している事込でこいつらは楽しんでいるに違いない。なら愚痴を言ったとしても喜ばせる事になるとしか思えないので、ここはあえて言わない。


「なんでも聞いてくれ、と言ってやりたいところなんだけれどね。我々にも神としてルールという物があって、そこまで答えられる範囲は広くはないぞ?」


「重々承知してるよ」


 世界に及ぼす影響は最小限にというルールが神には課せられているらしい。


「俺の質問は――――――」







 さてここからが本番だ。メリーさんの計画で言えばほぼ達成されたに等しい状態になったのではあるが、今までの部分は戦闘力や俺の能力に頼る事が多かったので、それほど難しいとは思ってはいなかった。

 発見できるかどうかというのは難しいとは思っていたが、これは運良く早い段階で達成できた。運の要素なんて頑張りようがないので神のみぞ知るだったが、メリーさんはなかなか神様に好かれているようだ。

 問題はここからなのだ。

 通常新しい魔法が発見された場合にはその所有権は発見者の物になる。今回の石版のように個人で所有が認められている原本を所有しているのなら、その力を独占して使うことができるだろう。だが俺はこれについて懸念するところがあったので、マリナおばさんを通して情報ギルドに調査を依頼していた。


『過去、一般市民が原本を独占できたかどうかを』


 答えは不安の通りにノーだった。

 魔法というのは膨大な力だ。それを隠匿し独占できるというのは、そのものに対して多大な恩恵を与える事になる。戦闘に使えば相手は初めて見る魔法に対応が遅れ、富に置いてもその使用許可を売りさばけば莫大な財となる。

 おそらくメリーさんは独占せずに国に贈呈する気でいるのだろうが、俺としては独占して欲しいのだ。

 もちろん贈呈したとしても新魔法発見および開発の功績があれば、メリーさんの目的である室長に成ることは達成できるだろう。だが俺としてもっと偉くなっていただきたいのだ。

 別にお偉いさんになってそれにあやかりたいとかそんなんじゃない。

 メリーさんははっきり言って優秀だ。その上その志は高く、清い論理感も持ち合わせている。権力とは偉大で広大な大いなる力だ。ただそれを得るものが正しい者とは限らないのが急所でもある。

 魔法研究所の発展はこの国、ひいては世界の発展に大きな影響を与えている事だろう。しかしその内情を聞いて見れば、今だ非効率な選民意識をもった者が横行し、魔法を権威を振りかざすための道具としか見ていないものがいる始末。

 もちろん至極真っ当に機能し活動している部署もあるらしいのだが、それは少数派に入るようだ。

 そしてもしメリーさんが独占しようとしたとしても、貴族などの権力者からの横槍が入り、手放さざるを得ない状況に追い込まれるだろうことは歴史が証明していた。故に俺が守らねばならない。

 メリーさんの本番は終わったが、ここからは俺の本番なのだ。








 俺はある物をもってジーニーさんの所に訪れていた。メリーさんの独占を実現させるために思い付いた唯一の方法を実行するためにはどうしてもジーニーさんの力がひつようだったからだ。

 だが、人の良いジーニーさんに迷惑をかけるお願いははっきりいってしたくはない。俺は彼を良き友人だと思っているし、ジーニーさんも友人だと思ってくれていると思う。

 だから今回は取引をする。


「失礼します」


 ノックをしてジーニーさんの待つ応接室へと入室する。今回は訪問ではなく商談と伝えて来ているので、いつも紅茶を飲みながら談笑するような朗らかさは無く、やや緊張した空気がその部屋には漂っていた。


「よく来てくれました。キドーさんとこうやって再び商談を交える事を楽しみにしていましたよ」


「ありがとうございます。その期待に答えれるかどうかはわかりませんが、良い結果をもたらしたいと思います」


 ジーニーさんい最初に売ったあの薬草の保存方法以来、そこまで大きな商談をしたことはなかった。あの魔獣使い事件はジーニーさんからの依頼だったので商談ではないし。


「ではまず商談に入る前に私からの要求をお伝えしたいと思います」


「……商品を見せる前に要求から入るとは。いきなり驚かせてくれますね」


「それというのも今回私が頂きたいのは金銭ではなく、ある人物へ紹介なんですよ」


「僕にだれかとの繋ぎ役を頼みたいと? 確かにその役目は数多くやってきましたし、キドーさんなら別に商品が無くても大抵の方なら―――」


「紹介いただきたいのはバルナス公爵なのですよ」


「!? それは……確かに通常ならば無理だとお断りする話ですね」


 このブロニアス国に三人しかいない公爵。貴族のトップたるその三人の内の一人に、一介の職人風情を紹介するなど、百害あって一利なしまほどにハイリスクにもほどがあることだろう。


「よほど、いえとんでもないと言えるものでないと商談は成立しませんよ?」


 俺的には五分五分かやや不利といった商談だが、通常では会うことすら出来ないお偉いさんにパイプを繋ぐためにはそれぐらいの勝算で充分といえる。

 この商談のために作った商品。バックル、風呂、家に次ぐ俺の制作物第四弾を机の上に静かに取り出した。


「こいつの販売権をジーニーさんと交わすことが俺から提示する今回の取引です」


「……触ってみてもいいですか?」


「結構ですよ」


 四角い形に整えられ、少し茶色味がかかったそれを手に取り確かめるジーニーさん。大きさとしては手のひらサイズなので調べるといっても直ぐにそれは終了した。


「良い香りがしますね、肌触りは変わったものですが……申し訳ないがこれがなんなのかわからないので教えてもらえませんか?」


「知らなくても無理はありません。それは俺の発明品でまだそれを合わせても十五個しか、この世にありませんから」


 あの隠し工房で作った初めてのアイテムであるが、実際のところは家で使用するために作ったもので十五個中、五個は現在我が家の風呂で絶賛稼働中だ。


「それは石鹸という物です」

権力も利権も別にそれ自体が悪いわけではない

結局それに溺れてしまう奴が多いのが問題だ

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