第七話 千変万化
メリーさんが解錠を試みている部屋の前に、今俺らは陣取っているわけだが、その部屋は通路の曲がり角に位置する。正面の通路の先には途中開けた場所もあってそこには幾つかの部屋が隣接する広間のようなものもある。その先を廊下を真っ直ぐしばらく行くと、階段が突き当たりに見えてくる。その階段から小さな点というか、蠢く何かがこちらに向かって這いずるように進んで来るのが視認できた。
「あれが何に見えるよ二人共」
まだかなり距離があるそれは、はっきりと分かるものでは無かったので隣にいた二人に聞いてみる。ジョイとマイアは俺よりも視力がかなり高いのでどっちかは見えていると思う。
「見たことないものじゃが、石のような材質なのは見て取れるの」
「……あれは手? ピョンピョン跳ねるみたいにこっちに来てるね。すっごい数で」
まだ遭遇してないタイプのゴーレムか。とりあえず既に発見されてるだろうし迎撃するかな。
「ジョイはオッサン呼んできて。マイア俺はあの広場でアレを迎撃してみる」
小型の敵がこんな狭い場所に殺到してしまっては、いざというとき逃げることすらできなくなってしまうしね。それなら少しでも前に出ておかないと。
「うむ、では先陣はいただこうか!」
ここまで思ったほどの激しい戦闘がなく、やや欲求不満だったマイアは嬉しそうにハンマーを掲げて飛び出していった。早いよマイアさん! 今の俺じゃ全く追いつけないんですよー!
「広大であれ!『ファイヤーブレス』」
来ましたよ! 初の中級魔法のお披露目! 中級魔法は初級魔法より難しいワードを使い、さらにその前の単語に強化や効果を指定する命令文を唱えることで、その効果を増大させたり、範囲を広げたりする。マイアの放った魔法は単純に、術の発生場所から炎を前方に放射線状に発生させるだけの呪文だが、単語の前に付けたバーストという術の広さというか、大きさを増大させる文を付けることで、広域な範囲に炎を撒き散らす魔法に様変わりする。俺が中級魔法を使えていない部分の問題点は、この命令文の所で、ある種の魔法に別の魔法を付け加える作業に近く、その魔法と魔法の魔力のバランスを取ることが全くできないのだ。片方が重すぎたりデカすぎては潰れちゃったり、壊れちゃったりするのは当然と言えば当然だろう。その分初級魔法は構造が単純なので、使い放題なんだけどね。
開けた場所に入り始めていた、手の形をしたゴーレム達は残らず火の海に沈んでいった。なんとか追いつき、俺も敵を視認できたが、どうやら手首までの手の平の形をしたゴーレムの群れだったようだ。指の力で虫みたいに飛び跳ねながら移動するようだが、その様はなんだかキモイ。
「火の海過ぎて何も見えないよ! 『ウインドボール』アクトファイブ!!」
とりあえず近場の火をかき消して視界を確保する。
「いやいやスマンちと力が入りすぎたようじゃ」
「俺まで蒸し焼きになっちゃうのは勘弁してくれよ」
既に汗がダラダラ流れる程暑いけど。
「しかしまだまだ湧き出してきておるようじゃの」
「うへぇ、ここまでゾロゾロ出てきてたら気持ち悪いな」
マイアの炎で燃えて、というか溶けた群体の向こうの階段からは今だに手だけのゴーレムが登り続けてきている。心境としてはアリの巣を眺めている気分だけど、こいつらは俺らに明確な敵意を持っているのでそんな悠長な気分ではいられない。
「あの手のひらの丸っこい部分が核でいいのかな?」
「まあそうじゃろうな。指の所は継ぎ接ぎなだけの石の欠片にしかみえんし、核の大きさとしてはちと足りはせんの」
「じゃあ俺は援護役ということで、敵をなるべく散らして、孤立したやつから仕留める」
「今のキドーの状態じゃ致し方ないかの。妾も全力で暴れたかったので是非もないが」
「それじゃ、『ウインドボール』アクトファイブ!」
質量の軽い手形は俺の魔法が当たると散り散りに吹っ飛んでいく。
「そりゃああああ『ストーンコート』!!!」
マイヤは自分の武器に、強度と重量をやや上げるストーンコートを掛けて、一番敵が固まっている場所へと全力で鉄槌を振り下ろしていく。その威力は凄まじく、地面に辿り着くまで当たった敵は粉微塵となり、勢いを減算させずに地面にぶつかったその勢いは衝撃波を生み出し、周りにいた手形までふっ飛ばしていった。
「全力の一撃だな」
マジ本気。
「オリャ!! フン!! トリャアアア!!」
手加減無用の攻撃を繰り広げる度に、塊となっている手形達が紙吹雪のように空中に舞っている。
「嬉しそうだな~」
なんという生き生きとした表情。家では寝てるか食ってるかしかして、いつもゴロゴロしている駄目姫とは思えん輝きようだ。俺はふっ飛ばされても、なんとか動こうとしている奴等を順に止めを刺していく。そんな連携を繰り返し、危なげなく戦闘をしている所にゾナが走りこんできた。
「大丈夫か!?」
「見ての通り問題なくマイアが暴れてるよ」
「……いや……こいつはマズイな」
「?」
どこがだ? 数こそ多いが、戦闘力だけならスライムの方がよっぽど高いと思うのだが。
「アレ見ろ」
ゾナが指さしたのは広場の隅に転がっている、粉々になった敵の残骸だった。完全に原型を失っているただの石塊になっていたのに、それは僅かながら動き出していた。
「こいつの名前はツゥーレム、通称『繋がる者』なんて呼ばれてる群体方のゴーレムで群体全部で一つのゴーレムなんだ」
「つまり……どういうことだってばよ?」
「こいつは再生しきる前に一つ残らず倒さないと死なないんだよ」
全部って……まだ階段の向こうからは続々と登ってきて、増え続けておられるんですが。
「なんでこんな面倒くさい奴に手を出した!」
「いや、手を出したっていうか、先行してたチームが逃げてきて、押し付けられたってのが多分正解かなぁ」
「あのボケども、ボス級を連れたままここまで逃げてきやがったのか!? 学者中心のチームが来てたらどうするつもりだったんだあのアホどもは!」
どうやらこいつは、腕に覚えのある冒険者でも逃げ出す事を考える厄介な敵ってことになるのか?
「気をつけろ、こいつらは集まれば集まるほど強さも鬱陶しさも倍増してくるぞ!」
ゾナの助言通り、ツゥーレムの脅威は時間が過ぎるほどに増してきていた。最初は広場の入口辺りで戦っていた状況も、今では出口手前での攻防になるまで押されてしまっている。十分以上戦い続けているので、さすがに階段から這いでてくる奴等はいなくなっているようだが。
「粘土……いやどっちかというと積み木かな……」
初めの頃の形は俺らの手と同じ程の大きさだったのだが、徐々に一つ一つが纏まり出して大きくなっていき現在は俺の身長と変わらない大きさの手形が、十数体襲ってきてくる状態だ。
「そりゃーー!!」
「フンッ!」
「ソイヤッ!『ストーンボール』アクトスリー!!」
知能はそれほど高くないのか、至って単純な思考をしていたので、なんとか迎撃は出来ているのだが。
「ええい! 切りがないわ!! 広大であれ『ファイヤーブレス』!!」
近接戦では埒があかないとみたのか、マイアが一番固まっているツゥーレム達へと炎を浴びせる。しかしツゥーレム達はさらに一塊になることで、全てが炎で焼かれないように防御していた。
そうこいつらの厄介な所は、一度受けた攻撃を危険と感じれば二度目の時には、防御対策を講じてくるところだった。大きくなりだしたのも俺がウインドボールでふっ飛ばして砕く事を脅威と感じての対策だと思われるしね。マイアの炎で表面だけが溶けたツゥーレムの塊は更に二体同士が重なって2メートル近い手形になっていった。
「オッサンなんか策とか無いの?」
「言っとくがこいつはかなりレアなゴーレムで、俺も見たのは初めてだし、実際戦った事のある奴に会ったことも無い」
「つまり情報不足ということですね」
「一度に全部壊してやりゃあいいの分かってるんだけどなぁ……」
「一度に全部って……こいつらざっと千体以上はいると思うんだが……」
次々に迫る小さな手形と巨大な手をしのぎながら、打開策を考えるのだが。この大量の飽和攻撃の前には逃げた方がいいのではないかというのが本音で出てくる。いわば持久力特化ともいうのだろうか、とにかく体力勝負に無理やり持ち込むのが、こいつの持ち味のようだ。
「もうそろそろメリーの解錠が済むだろう頃合いだから、それが終わったらとっととずらかろう。こいつらボス級は、移動できる範囲が決まってるはずだから、上に逃げりゃ追ってはこれねえ」
なるほど、俺らと同じような状況になって八方塞がりになったからあの脳筋コンビのチームはここまで逃げてきたのか。そんな事を思っていると、なんだか後ろから何か声が聴こえる様な気が。
「なんじゃと!?」
龍人族ゆえか、五感の鋭いマイアだけがその声に反応していた。だが普段から動じるとこなど見たことも無いマイアの慌てようからして、悪い予感しかしないわけで。
「うああああああああああ」
「きゃあああああああああ」
魔法を使ってなんとかツゥーレム達を押し戻し、後ろの悲鳴の正体を確かめる。
「嘘だろ!?」
なんと石版を持ったメリーさんとジョイが、まだ見たこともない天井に届きそうな、巨大なゴーレムに追われてきていた。
「メリー!? どうなってるんだ!?」
「ごめんなさい! 隠し金庫が開いたらあいつが発動するようになってたらしくって」
前門の群体、後門の巨体ですか。逃げる算段がおじゃんですよ。
「ここでアイアンゴーレムか……」
今まで相手をしてきたゴーレムは、土か石で出来た奴等だった。しかし後ろから迫るゴーレムは、全身を鎧で武装した巨人のようだった。その様相と威圧感だけで、他のゴーレムとは一線を画す強さだと伝わってくる。
「俺が後ろをやる! お前等でこいつらをなんとかできるか!?」
「愚問じゃぞゾナよ。妾は最初からこやつを倒す事しか考えておらんわ!」
何か策でも思い付いたのか自信満々で返答するマイア。
「上等だ!」
いい笑顔を残してゾナは後ろのゴーレムに飛び出していった。浅めの階層なら余裕を持って帰れると思っていたけど、やはり何事にも予想外のことが起こるもんだ。試練は逃げずに乗り越えてこそ力になる。そしてそれは俺達に必要な物だ。
さあここからが正念場だ。
ハニワ君の群れなら可愛かったのに……
いや、人によってはそれはそれで悪夢かな?




