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第一話 それでいいのか

 この世界アトレアの一週間は六日、一か月は三十日、一年は十二ヶ月で三百六十日に統一されている。一週間の一日一日は神様にちなんで火の日、水の日、風の日、土の日、闇の日、光の日のローテーション。一ヶ月もその順番で二回りする形になっている。なので日にちの数え方は火の表月、第三水の日なんて呼んだりする。

 現在あの魔獣使い事件から、十日が経過した光の表月、第二土の日になった。地球暦で言えば大体6月くらいになるだろう。暑くなりだしてきた、そんな季節だ。ブロニアス国は四季の移り変わりが顕著な地域にあり、夏はそれなりに暑く、冬は積もらない程度に雪が降る程度に冷え込むとても住みやすい気候をもっている。緑豊かで川も多く、その恩恵か人々の発展や活気は世界を見渡してもかなり高い水準を持っているようだ。

 あれから金を貯めることで改築作業に没頭したお陰で、ついに昨日の時点で一階の作りかけだった二部屋も完成、これで一階の部屋の部分は出来上がり、二階の一番外側の壁も施工は終了している。後は外の壁へと、赤石を混ぜて少し赤みのかかった土を塗り込めば、一見は家に見えるだろう。

 そう、約二月の奮闘の末、ついに掘っ立て小屋から、家に進化するところまで漕ぎ着けたのだ。まだまだ完成には(仮)が付いてしまう有様だが、それでもここまで日本の労働基準法が鼻で笑えるくらいに時間を使った苦労が報われる感動は、感無量な思いを俺にもたらしていた。ぶっちゃけ全身が震えてしまうほどに。

 朝早く起き、俺の手製洗面台の前に立って、顔を洗い歯磨きをする俺の顔が綻びまくっていたのだいい証拠だ。一人でニヤ付いた顔と格闘していると後ろから声がかかる。


「キドー兄ちゃんお客さんが来てるぜ? いつも通り応接室に通しといたけど」


「サンキューリッキー」


 はて? 今日来客の予定なんてあっただろうか? というより今していた変な顔をリッキーに見られていたのだろうか……。家に来る客なんて、ガナド爺さんかマリナおばさん。あとはジーニーさんとこの執事さんがたまに来るくらいなんだが、こんな朝早くに来るなんてなにかあったんだろうか? まあ待たせるのもなんだし行けば誰かわかるだろう。







 応接室は俺たちがいつも雑魚寝している居間以外で、唯一内装を完成させてある部屋だ。しかも家具の類も完備してある。さすがにお客さんを招くにあたって、木張りの部屋に通すわけにも行かないのでここだけは優先的に作っておいた。


「おまたせしました~」


 かる~い挨拶をかけながらドアを開け放つ。


「久しぶりじゃのキドーよ」


「ブーーーーー!!!!!! なっ! なんでここに狼少女が!?」


「狼少女とは無礼な……いや的を得ているのか? 妾の名はビルマイア・リーンと名乗っただろうに」


「いやいや、俺この家の場所教えてないよね?」


 それどころかこの家の住所を知ってる人なんて、家族を除けば片手ほどしかいないはず。


「また会おうと言ったはずじゃが? 妾の一振りを受け止めて見せるほどの猛者なのじゃ、よほど有名な男と踏んでこの街を探したのじゃがのう。驚くことにキドーなんて名前を知る奴など全く居ないではないか。じゃから仕方なく我が相棒のコウジンに、お主の匂いを追ってもらった結果、ここへと辿り着いたわけじゃ」


「え!? ちょっと待ってあの狼さんを街の中に入れたのか!?」


 とてつもない存在とわかるあの狼が街を闊歩しようものなら、街中大騒ぎになって城から騎士団が飛び出してきてもおかしくない。


「入れたというか、そこにおるぞ?」


「うわぁっ!」

 

 横を見ると大きな狼ががっつり寛いでいた。まてまてこれだけの質量とどでかい気配に、今まで気づかなかっとかおかしい。いや待てよ? 気付けない存在ってなんか他にもいたような?

 すると面白い匂いを嗅ぎつけたのか、フィリーが風でドアをそっと押し開いて入ってきた。


「あーーーーーーー! コウジンじゃーん! 久しぶり~元気してんた~?」


「これはこれは懐かしき匂いがすると思えばフィリー様では御座いませんか」


 えーーー知り合いっすかフィリーさん。しかも狼の方が敬語使ってるとかマジパないっす。


「知り合いだったのフィリー?」


 恐る恐るフィリーと狼さんの会話に入り込む。


「そうだよ~コウジンも風に属する神獣でね~昔一緒の場所に住んでた事もあるんだよ~」


「もう300年は前になりますな」


「様とか呼ばれてるってことは、もしかしてフィリーの方が目上?」


「ええ~っと~ホントはそんなのないんだけど、一応私はナーブさま直属の妖精だから、精霊とか神獣とかの子達はほとんど敬ってくれるかな~」


 そういや神様から直接派遣されてきたもんね。なるほど神獣のコウジンもフィリーのように認知されないようにできる術があるんだな。それなら街中を歩いても騒がれないで済むだろう。

 ていうかフィリーって何歳なんだろうか? 見た目は子供そのものなんだけど……。いや聞いたら最後だ、ここは堪えよう。


「ほほう、ぬしも精霊付きであったか。ふむ、妾の真贋はやはり正しかったようだな」


 なぜに今のやり取り見ててあんたが胸を張るんだよ。あれ?


「フィリーあの人に見える許可をもう出したのか?」


「ううん。あの人は許可して無くても見える人だよ。だって龍人だから龍眼持ちだろうしね」


「龍眼? というか、この世界には亜人っていたのか!?」


「龍眼っていうのは、龍人族は全員生まれた時から持ってて、魔力を通すと魔力の流れが見えたりするんだよ。あと私達精霊なんかも全部見えちゃうね」


 亜人。人の形をしいおり文化と言語を持ち合わせているが、その生態系は人間とはまた違う知能生命体。


「その通り! 妾はリーンバーグ国が王、リーン家第十三王位継承者、ビルマイア・リーンじゃ敬って遣わせ~」


「……」


「どうした? 驚きすぎて声もでんのか?」


「いや、俺リーンバーグって国知らないし龍人だって初めて見たから凄さがわかんなくって……」


「はあ? おんしはもしかしてアホウであったのか?」


 失礼な! 単にアトレア世界の初心者なだけだ! ……たぶん。







 それからしばらくビルマイア嬢による、いかにリーンバーグという国が凄いかの解説講座が続いた。歴史からなにからを講釈されたがあまりにも長かったので割愛すると。龍人族は最強の力を誇り、寿命も人間の十倍もある種族。かつて行われた戦争によって亜人差別が横行し、そんな亜人達を保護するために今の王であるゴルディアス・リーンが国を建国した。場所はナハト高原という険しい山脈地帯にあり、精霊種や聖獣種の多くがそこに住み着いているらしい。建国から四百年間の間、戦争に負けたことがない常勝国家ではあるが、侵略戦争を一度もしたことがない平和主義国家でもあるらしい。


「つまりはリーンバーグはとっても凄いんですね、わかります」


「おお! アホウかと思うたが飲み込みは早いようじゃな!」


 なんだか不名誉な思い込みが先行しているが、釈明するのもメンドクサイのでほっておく。


「で、その偉い偉いお姫様がどうしてここへ?」

 

 まあわかりきってるけど一応聞いておく。


「無論、あの男の黒幕とやらを聞きに参った」


「わかりませんでした。グハッ!!」


 予想していた答えに即答してみたら、思いっきり右ストレートを叩きこまれた。


「貴様あれだけ大見得切っておいて、何をしらっと答えておるのじゃ!」


 確かに俺から持ちかけた交換条件だったしね。怒るのはわからんでもないけど手が早過ぎるだろ。


「待て!! 時に落ち着け幼女よ! 話をちゃんと最後まで聞いてから判断してくれ」


「誰が幼女じゃ! 貴様よりは断然年上じゃ!!」


「年上~? どう見たって十歳くらいにしか見えないけど」


「我等は人間よりも寿命が十倍近く長い。成長もそれにそって遅いのじゃ。人間からすれば十歳にみえるじゃろうが、妾は今年で七十八歳なる」


「マジか……」


 それから落ち着いたビルマイアに事の顛末を教えていった。


「なるほど……依頼主は分からなかったが、それを誘発する組織が存在するわけか……不埒な」


 一見冷静だが、拳に力が入っているところから見るに怒り心頭のようだ。誘拐云々にも怒っているのは当然だが、そんな組織があること自体にも怒りを覚えているみたいだ。そこで俺は一つの提案のような賭けに出る。


「実は俺のヒーローっていう肩書きは、そういう悪辣な奴らを叩き潰す事を目的にしている」


「ほほう、感心な事をしているな」


「そこで、俺に協力してみる気はないか?」


「何をさせる気じゃ?」


「もちろんこの犯罪組織そのものを跡形もなくぶっ潰す手伝いさ」


「……面白いの……実に面白いぞお主」


 なにやら考えながら、俯いたり俺を見たりと、視線を動かしながらニタニタしだすビルマイア。この提案は実は思い付いてはいたものの、実行に移す気はさっきまでなかった。戦力としては申し分ないのだが、なにぶんこれには絶対的な信頼性が問われる。正体を隠したり、目的の共有を一致させたりするには、信頼無くしては成り立たない事柄が多いのである。しかしある種の正義から始まった国の姫様で、それを誇りに思っていて、精霊に好かれる気性を持っているこのビルマイアならば、と会話の中で思い立ったのだ。


「キドーはね~神様に飽きさせない男って太鼓判を押された人なんだよ~」


 なんだその安いキャッチコピーは、初耳ですよフィリーさん。


「ほほう、精霊に好かれるだけではなく神に愛でられるとは、奇特な男よの。どうせあの男を捉えたとて国に帰るつもりもなかったし、そんな輩が居ると聞いて捨て置くのは我が王家の名がすたるというものじゃの……よし! その話受けよう」


「おお」


 王家というから、もっと堅く考え込むかと思ったけど、あっさり了承された。


「これからは同志となるのだ、お主にはマイアという愛称を呼ぶことを許可してやろう! そして差し当っては貴殿に妾の衣、食、住の進呈を命ずる!」


「はい、ありがとうございま……は?」


「自慢ではないが、妾は金も残り僅かで稼ぎ方も全くわからん! それらの進呈が無くば、悪党どもを捕らえれなどしないだろう!」


 こっこの娘―――!! なっなんて駄目な事を威風堂々と、さもあたり前のように語っているんだ!? これが真性の箱入り娘というやつなのか!? ジョイ君は残念なんて思ったがこの子はなんというかダメだ! これでは戦いという長所を抜けば完全にニート宣言ではないか! 根本的なところがほんとダメッ!


「これの教育もしなきゃいけないん……だろうな……」


 心労が格段に上がるであろう事を渋々飲み込んで俺はマイアの居候を許可するのだった。


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