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第九話 会話の価値

 魔獣使いが乗っている灰色の狼と、対峙するように逆側の丘の上に現れた大きな狼。しかしその威圧感、高潔さ、存在の大きさは魔獣使いの駆る狼に比べれば、段違いのものだった。あまりの気高さに、自然と畏怖を抱いてしまいそうになるほどだ。あれも魔獣というのだろうか? なにか……こう……違うもののような……。てかそんな狼の背中に乗ってるあのちびっ子は誰ですか?


「貴様が妾に与えた三年前に与えた屈辱、ここできっちり利息を付けて返してくれるわ!」


 なんだか幼女のくせに口が荒いな~。おまけに何だか物騒な雰囲気が……俺の子供好きさはあれを許容できるんだろうか?


「そ、その狼っ!? 三年前だとっ―――!! お前まさかリーンバーグの関係者か!?」


「わかっておるなら話が早い、その素っ首貰い受けるとしようか!」


 あれ? なんか蚊帳の外へといきなり放り投げられた感が……。


「ヒィッ! お前らのような化物に付きあってられるか! 行けお前たち! 時間を稼ぐのだ!」


 なんだか幼女の素性が分かった途端に、魔獣使いのルドと呼ばれた男は逃走を始めようとした。


「逃すものか! ボーゼ! こいつら全部沈めてしまえ!」


 そんな声が上がると、草木の生えていた筈の地面が泥のように溶けて、その場にいた全員の足を絡めだした。ちょっと俺らも対象になってますけどーーー!!! ストーンウォールを地面に横たわらせるように出現させ、その上へと三人で避難する。

 その謎の現象の中心の地面から、体中に泥を塗りたくり、水苔がそこかしこに張り付いていて、口から何本もの牙を生やしたイノシシが現れた。


「よくやったぞボーゼ! ナンフよ雑魚を頼むぞ、妾とコウジンはあの痴れ者にとどめをさしてくれる!」


「クワッ!」


 泥を逃れて少女へと迫ってきていた狼の群れに、躍り出たのは立派な黄色のトサカをした、もとい黄金色したモヒカンをしたアヒルだった。すると自分の目の前に幅広い水の壁を作り出して、それをそのまま狼達へと押し出した。突然起こった濁流に狼達は為す術もなく、飲み込まれていく。凄い……すっごく凄いんだけどツッコムよ。


「モヒカンでけぇよ!」


 ファンシーなアヒルが、でかいモヒカンつけてるとかマジでロックだぜ。


「うわああああああああああ」


 なんてアヒルさんの雄姿を見ている間に、魔獣使いの周りに居た一回り大きな狼達も、全て幼女の白い狼に全てやられていた。開戦一分と経たない内に全滅とか、圧倒的にも程がある。そして幼女は腰にぶら下げた短剣を引き抜き、男へと差し向ける。


「言い残すことはあるか下郎」


「クソックソッ! たかが獣を何匹か売ろうとしただけじゃないかよ! 三年も前の話でここまで追って来やがって!」


 大気が震え、いや森全体が震えたように思えた。なんて殺気だよ、俺がゲイロス一味で放ったものが可愛く思えてくるよ。


「たかが獣? 妾の家族と言うべき友人達を誘拐しようとしておいて、た・か・がだと? いいだろう、今直ぐ死ねぇぇぇ!!!」


 男の頭上へと短刀が全力で振るわれる。


「何のつもりだ貴様」


 なんとかギリギリのとこで、俺はその腕を男が殺される前に掴んで止めて見せた。


「いやいやいやいや、後から乱入して来てその言い草はないでしょ。この男には聞かなきゃいけないことがあるんで、まだ死んでもらっては困る」


「……妾は三年前からこやつを追って来たのだ。妾から言わせればお主達の方が後だ」


 こわっ! この幼女怖いよ! なんてメンチ切ってくるんだこの子! 不良と喧嘩は何回かしたことあるでど、見ただけで逃げ出したくなるメンチなんて初めて見たよ! っていうか力強いな、かなり本気じゃないと押さえてられないのはなぜだ?

 見た目のころ10歳くらいで、髪はどうやら銀髪、三つ編みに結ってからさらに肩より上へ括り上げている。眼の色が黄色というより金色? 銀に金とか派手だなぁ。幼いながらに美しいと言える容姿なんだろうけど、今は迫力満点な恐ろしさしか感じません。


「でもさ、こいつの後ろには黒幕がいると思うから話して貰わないと困るんだよね~。さっきの話聞いてる限りじゃそっちの誘拐だっけか? それにも黒幕がいるかもしれないけど、そっちの犯人は捕まってるのか?」


「―――!!」


 おっと今気が付いたのが丸分かりの顔をしているぞ。三年間の間に一回も思いつかなかったのか……。

 馬車を用意したり、冒険者を敵に回しながらも、警戒を怠らなかったりと、それなりに計画的犯行の匂いがしている。ならば仲間もしくは、後ろで糸を引いてるやつがいてもおかしくはない。


「こいつ殺しちゃったらそこに辿り着くのは無理だと思うけど?」


 説得なんてやったこと無かったけど上手くいきそうかも。


「ウムムムム……しかしここまで来て諦めよというのか……」


「こいつを締め上げるか、その他の奴を見逃すのかを選ぶのは君次第だ」


「その黒幕とやらへは、貴様なら辿り着くことは出来るのか?」


「確実とは言わないけど、絶対に見逃してやるつもりはない」


 裏で糸を操っている悪党ほど質の悪い輩は居ない。ならばその糸を見つけたのなら全力でその先を手繰らなければいけない。そういう奴は生きてる限り害悪をまき散らせ続けるからな。


「………………わかった。しかし!」


 どうやら懐はなかなか広いのか、少し考えて俺の提案に承諾してくれた。了承の意を示した少女は短刀を手から離して魔獣使いへと拳を振り抜く。哀れにもゴムボールが跳ねるように、男は森を跳ね回って飛んでいった。


「これぐらいでは妾の怒り欠片も収まらんが、今はお前……名前はなんと申すのだ男?」


「俺?」


「以外に誰がおるか」


 すっごく偉そうな喋り方するなぁこの子は。いいとこ出のお嬢様だったりするんだろうか? まさか貴族とか上級階級のお方だったりするのかな、その割にはいささか野性味溢れすぎてると思うが。今の格好であまり名乗りを上げたくはないが、下ろしかけた拳がまた上がってしまってはとてもまずい。なぜならこの少女に従う獣達相手では全く勝てる気がしないからだ。中級魔法並の力を振るった先の二匹もそうだけど、今目の前にいる純白の狼にいたっては、いい勝負するイメージすら沸かないと来たもんだ。上には上がいるのは重々承知だったんだが、こいつは上は上でも空の上って感じがする。


「俺はキドーだ。ゆえあって正義のヒーローをやっている」


「ヒーローとやらはよくわからんがキドーよ、この件は貸しにしておくぞ」


 え? いやいや、そっちにもメリットあったよね? なんで俺への貸しになるんだよ! 


「尋問なぞはやったこともないし、この国にはまだ来たばかりで土地勘もない。あそこで転がってい男の後始末はまかせるぞ」


 文句を言いたかったのだが、それを発する間もなく少女は狼に跨った。


「妾はビルマイア・リーンである! また会おう!」


 唐突に現れ颯爽と風のように去っていった少女。


「なんなんだアレは……まあでも、苦戦しそうになった所を助けて貰ったという、見方もあるか」


 その後ズタボロになった魔獣使いと、泥沼からストーンウォールに飛び乗って脱出していた、ジョイとミミルを回収して下山していった。







 村まで降りた俺はまず依頼を達成したことを鉱夫の人達に教え、ジョイとミミルにはジーニーさんに連絡してもらうため先に街まで帰らせた。

 俺はというとその日の夜になって再び森へと半死半生ではあったが、ミミルの治癒術と俺の傷薬の効果でなんとか喋るくらいには回復していた魔獣使いこと、ルド・バリアックと一緒に森に入っていた。

 もちろん尋問するためだ。

 真っ暗闇の森に、ランプを灯し、魔獣使いの顔がなんとか見えるほどの明かりを確保する。捕まって、縄で雁字搦(がんじがら)めだというのに、男は落ち着いたようすだった。


「さて、聞きたい事は三つ。誰から頼まれたのか? お前のような裏の仕事を請け負う奴は他にいるのか? そしてなぜあの場所だったのか、だ」


「喋るとでも思ってるのかお前? へっ! どれだけ頼まれようと脅されようが、何も教えてやるつもりはないね!」


 縛られた状態でよくも強気に出れるもんだ。それなりに修羅場をくぐって来たのだろう。


「なにか勘違いしているようだけど、今から頑張るのは俺じゃなくてあんただよ?」


「……どういう意味だ?」


「今から……そうだね。夜明けまでにあんたが俺に信用されるかどうかであんたの運命が変わってくる」


「……」


「信用できたら警備隊に、もしも信用出来ないと思ったら……あの狼少女に引き渡す」


 狼少女という言葉に少しだけ反応を見せる。


「選ぶのはあんただ。俺はここから何もしないし何もしゃべらない」


 ていうより俺も尋問なんてできませんよ! 話術で相手を突き崩すなんて繊細な作業は無理だし、拷問なんてもっての外。なら素直に警備隊に付き出してしまえばいいのだが、こいつの上がもしかしたらもしかしてしまうのかもしれないので、なるべく自分で情報を手に入れておきたい。

 たった一つ、俺の持ってきたランプだけが灯り、静寂な夜の森に俺と魔獣使いは押し黙ったまま鎮座していた。沈黙ってのは人間にとっては度が過ぎると体に毒だ。それが暗闇で、おまけにこのままなにも喋らないままでは、確実な死が待つ狼少女というプレッシャーに晒されれば、何か一つくらいは喋るんじゃないかな? という計算だ。


「……」


「……」


 長い長い沈黙の時間が続く。しまった! この作戦すっごい欠点がある! それは俺もこの沈黙が辛いってとこだ! 野郎と二人で静かな暗闇の中で待ち続けるとかどんな拷問だよ! 仕方ないトウカの笑顔でも思いだして何とか耐え忍ぶか……ヌフッ。








 星の位置から詠んで、尋問開始から大体六時間が過ぎようとしていた。その間男は一言も喋らないままだった。俺はというと妄想でしばらくは頑張っていたが、沈黙との戦いから次第に眠気との戦いへとシフトしていった。ねじ切れるほどに太ももを何度も何度も抓って頑張っていた。その甲斐あってもうすぐ朝を迎えようとしている。ふと魔獣使いの方を見ると冷や汗だろうか、顔中に汗が吹き出ていた。死というプレッシャーを、ここまで耐えれるのは感心する物があったが、逆になぜここまでの精神力を持ち合わせておいて、悪党なのかという疑問も抱き出した。


「もう直ぐ夜が明けるな……」

 

 最後通知のつもりで俺は呟く。どうやらその意図を感じ取ったらしく、大きくと肩を震わせる魔獣使い。


「どこまで喋れば信用してくれるのだ?」


 ここに来て初めて男が喋りだす。そういえば裏稼業だったら喋っただけで、殺されるような情報もあるかもしれないのかぁ。


「さっき聞いた三つを出来る限りで詳細に説明してくれ」


 命に関わるような話は無くてもいいよと、暗にお情けをかけてみる。俺だって人死はなるべくならして欲しくはない。


「…………まず誰から頼まれたかどうかは俺には分からない。こういったやばい仕事を斡旋する組織があるらしく、どこから嗅ぎつけるのか、俺らみたいな奴に間接的に話を回してくる。だから依頼主本人に会ったことは一度だってない」


 うっわぁ厄介な話がいきなり出てきたぞぉ。


「俺のような裏の仕事をしている奴はごまんといるはずだ。何度か数名でチームを組んで仕事をしたころもある」


 組織力の高い犯罪組織か……。


「なぜあの場所かという質問は、あんたわかってるんじゃないのか?」


「あれれ、バレてた?」


「あの場所を嗅ぎつけた時点で予想はつく」


「じゃあやっぱり新しく発見した遺跡があるんだな?」


 この世界の遺跡には滅びた文明の遺物や歴史を示す物、時によっては魔法を帯びた強力な道具なども発見される宝の山だ。しかし危険な物や厄災を封印されたような場所も、多々発見されているので、そういった遺跡はその場所にある国に管理される。許可された一部の者だけが探索を許されるものなのだ。

 つまりこいつが隠していたのは盗掘。多大なリスクを伴う行為だが、それに見合う金額が手に入れられる事は確実だ。


「他にも仲間がいるんだな?」


「仲間っていうより、あっちの方から派遣されてきた野郎で詳細は知らねえよ。俺の担当は人払いだったもんでね」


 業務分担まできっちり管理してるとかマジでしっかりしてる組織だな。


「そいつらはまた来る予定はあったのか?」


「本当ならあさってくるはずだが……俺からの定期連絡が途絶えた時点で、もう来ないだろうよ」


 わぁ、ほんとしっかりしすぎてウザいわぁ。


「俺のポケットに大きめのコインが入ってる。それを出してくれ」


 男の腰のポケットをまさぐるとか嫌すぎるが、ここは我慢して言われたとおりにコインを取り出す。この世界の硬貨は基本丸い形なんだが、取り出した硬貨は六っ角形になっていて色は銀色だった。絵柄は……たぶん何かに髑髏だろうけどなんの動物なのかはわからない。


「それはその組織からお墨付きを貰った奴に渡しているコインだそうだ。その絵は牛の頭蓋骨だって話だがなんでそれなのかは知らないな。仲介として派遣されてくる奴も、そのコインか同じ文様の刺青なんかがどこかに入ってる。全容なんて全くもって掴める物じゃなかったが、今まで十以上の国で仕事してきたんだ、余程の組織なんだろうよ。」


 聞けば聞くほど、その規模と体勢の整い方に驚きを隠せない。はっきり言ってまだまだ文明の進歩としては、元の世界に比べれば四段階程は遅い、年数で言えば五百年といったところか。そんな中で組織として機能しているのは国とギルドいう母体意外には基本無かった。商会という物もあるのだが、基本的にはワンマン企業といった一番上の実力次第といったものだった。それを考えるとこの組織はどれほどに根が深く、強大な力を持っているのか想像すら出来ないでいる。


「これ以上は俺の知ってる事はないが……いや、もう一つあったな」


「なんでもいいぞ、とにかくその組織の情報はなんでも欲しい」


「名前だ。組織の名前は『ルドラの右手』と言っていた」


 俺はその名を胸に刻みこむ。確実に近い将来この名を背負う者たちとの、熾烈な戦いが起こるという確信を持っていたからだ。もちろん俺の正義感から言って、放おっておけない奴等なのは確かなのだが。予想すら立てれないほどの大規模な犯罪組織が、世界でも三本の指に入ると言われるブローナスで活動していない訳が無い。俺の故郷である地球で言うなれば、ここは日本の東京、アメリカのニューヨークやロサンゼルスに匹敵すると言っていいだろう場所なのだ。


「よくここまで喋るきになったな」


「俺だって死にたくは無い。それに好きで裏稼業をしてきた訳じゃないんでな」


 どうなるのか俺へと窺う視線を送る魔獣使い。まあ脅しはしましたけど、最初から警備隊にする予定でしたしね。じゃないとあんな怖い狼と少女の間に入ってなんていきませんから! 思い出しただけで股間が縮み上がるほど怖かったんだぞマジで!







 それから俺は無事に魔獣使いを冒険者ギルドに引渡し、報酬を受け取る。その事情を説明した結果、ジーニーさんからは、更に一万ディクスの追加報酬を頂けた。そこからマリナおばさんの所へ直行し、この事件の顛末と謎の犯罪組織、そして犯人がギフト能力者である話を情報ギルドに売っぱらった。謎の犯罪組織については知っていたらしいので、大した額にはならなかったが、合計で一万八千ディクスになった。どうやら新しい遺跡とギフト能力者の情報がかなり高額になったようだ。

 もちろん冒険者ギルドの報酬はジョイとミミルで均等に分けようとしたが、家の改築代ですと俺が多めに貰うことになってしまった。そんなこんなで金策を初めて一週間の出来事で俺は七万二千ディクスを手に入れたのだった。

 これでしばらくは、落ち着いて大工仕事ができるな。

文明的にそんな組織力を持った犯罪組織が居るか? なんて思うかも知れませんが、日本でいうと実際に居た忍者なんかは一つの国なんかよりも組織力があったと思われるので有り得なくは無いかなと。

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