第五話 ジョイ&ミミル
「はいはーい、そこまでそこまで~」
今にも胸倉掴んで殴りあいそうな険悪な一団の中へと笑顔で乱入する俺。
「なんだテメェは!? 関係ないやつはすっこんでろ!」
「いや~それがあっちの関係者なんだな~これが」
「「え」」
俺の言葉に少年少女の方が驚く。それに対して目でトウカのいる方へと目線を送ってもらう。
「あの傷はもしかして……トウカ?」
よかったよ気づいて貰えて。
「という事で見苦しい真似はやめて大人しく報酬支払っていただけませんか? こんなこと評判が下がるだけですよ?」
ギルドで悪評上げたってなんの得にもならんでしょうに。しかも受付前でとか正気の沙汰とは思えないな。
「へっ知ったこっちゃねえよ。そっちに一人分払って残りが俺らの配当が正当な報酬だよ」
やべえお話の通じない系統のお方でしたか。でも周りの反応が薄いな……受付のお姉ちゃんも苦い顔してるけど注意しないし……。もしかしてこいつらこいうことの常習犯か?
「ねえ、この依頼は誰の名前で受けたんだ?」
ジョイと呼ばれる少年に向き直って聞いてみる。
「えっ? おっおれだけど……」
「じゃあ依頼の配当権は確かジョイ君が握ってるはずだよね?」
「だからなんだよ」
「では別に君たちの報酬が全くなくても誰にも文句言えないよね?」
男三人の眉間にシワが寄る。
「そんなことが通ると思ってんのか? それともなにか? この金を力づくで奪い取るってつもりでいるのか兄ちゃん」
手に持った金袋をこちらに見せ付けて薄ら笑いを浮かべるアホ。
「ホントにあんたら頭悪いんだな。今君らは強盗と同じ扱いなんだよ? 力づくでその金をこっちが取り返しても法律的になんの問題も無いんだ」
受付のお姉ちゃんがあっと驚いている。気づけよギルド員。
「大人しく報酬を受け取ってお家に帰るか、何の報酬も受け取らずに痛い目に合うか選べよゴロツキ」
「このガキィ……」
文句を言いながらも報酬を支払うロートル三人組。これだけ人のいる場所で強盗を証明されたて暴れようものなら即警備隊を呼ばれて牢屋行きは確実だ。流石にそこまでするアホではなかったようだ。ていうかそこまで救いようの無いアホだったら冒険者はやってられないだろう。
「覚えとけよ」
お決まりの台詞を吐いてゴロツキ共はその場から退場していった。いやいや覚えとけって悪いの完全にそっちだからね?
「ありがとうごさいました」
「……」
ミミルちゃんが頭を下げて俺に感謝を述べてくる。どうやらジョイ君は収まりが付かずに納得できていないご様子。
「よかった、なんとか丸く収まって」
トウカが走り寄って来て胸をなで下ろしていた。
「余計な事すんなよな、ったく」
気が強いな~ジョイ君は。
「ジョイ君のバカーーーーー!!!」
その一言を聞いてミミルちゃんが手に持ったメイスを全力でジョイの頭に打ち付ける。
「何すんだよミミル!」
「あのまま決闘して三人がかりで来られたら私達ふたりじゃ絶対かてなかったよぅ」
怖いのを我慢していたのか涙目でジョイにいかに危なかったかを訴えるミミル。この子はなかなか頭が良さそうだな。
「そんなの気合でなんとかなる!」
それに比べてジョイ君は残念だな~。
「なっりませーーーーん!!!」
再び全力で振るわれたメイスがジョイの顔面にヒットしてその体をふっ飛ばしたのだった。
「あり……が…とう……ございまし……た」
食事処に移動した後、顔面が腫れ上がった瀕死の状態のジョイ君がおれに息も絶え絶えに感謝してきた。いかに自分たちに危機が迫っていたのかを、その身を持ってミミルに説明された結果なんとかご理解できたようだ。
その後、色んな話を交えながら俺のおごりで昼飯を取ることにした。家の昼飯は最近メキメキと料理の頭角を現してきたユーリに作ってもらう事が多くなってきた。すでに味付けだけなら俺よりもうまくなっている。単純な作業はミセスハニーウェイトが手伝ってくれるのでとても楽チンだ。
なんでもトウカが仲間を集めようと思ったきっかけは彼等だったらしく、ジョイとミミルも五人ほどの小さな子供の面倒を自分の稼ぎで面倒を見ているらしい。普段はジョイが猟師として、ミミルは光の神殿の巫女として働いており、時折自分たちにできそうな依頼を見つけては冒険者ギルドの依頼を受けているそうだ。
「君たちホント偉いね~」
「いやキドーの兄ちゃんのほうがすげぇだろ」
年齢を聞いたら一応一五歳のはずと返ってきた。俺と二つ下ですでに独立して子供を養ってるとかやっぱりすごいよ。
「そういやさっきみたいなのはよくある事なのか?」
「報酬を奪うほどの事はないですが、組んだチーム内でトラブルはよくあります」
「あいつら俺らがストリートチルドレン上がりだって知ってるから、いつも舐めてかかってきやがるんだ! むかつくぜ!」
「ならどうしてチームを態々組むんだ?」
面倒事が起きる上に分け前が降る行為をなぜ毎回する必要があるのか疑問でしかたなかった。
「私達、神官と弓師のペアだからどうしても前衛で頑張ってくれる人が必要で……」
ああなるほどね。弓師も回復術主体の魔法使いである神官も接近されると困るもんね。接近戦に長けた人もいるらしいが、それは上位陣に限った話らしいし。
「とするとその弱みに漬け込んでくるやつが多いってほうが正解かもしれないな」
「……そうかも……しれません」
「元からそのつもりで近づいて来てるのかよあいつら……」
ここは他のギルドに比べてあらくれ物が多いからね。隙なんかみせたら骨までしゃぶられそうだ。
ん? 待てよ? …………良い事を思い付いたぞ!
「俺から一つ提案があるだけど聞いてみる?」
トウカの話と今まで喋った感じからこの二人はかなり信頼できそうだ。なら、ギブアンドテイクでみんなでハッピーな関係だって築けるような気がしたんだ。
「俺らと兄ちゃんがチームを組むぅ~?」
「そう、ただし俺は冒険者ギルドには登録しないから毎回助っ人として参加する」
「強いんですか? キドーさんって?」
「それはもうびっくりするぐらい強いわよ」
少し俺の思惑を感じ取ってくれたのかトウカが二人の説得に回ってくれている。
「その条件を飲んでくれるなら、俺からもそっちにしてあげられる事がある」
「……もし飲んだら?」
「俺んちで住める権利をやろう」
聞いた話じゃ現在二人は借家住まいで、いつも子供五人にはお留守番をさせているらしい。俺と心配の種が似ているだけにこの条件はなかなかの妙案じゃないかと思うんだけど。
とりあえず家を見てもらうために二人を自宅へと案内する。
「うそ……だろ……」
「信じられない……」
何に対してそんなに驚いているのだ君たちは。ボロさ加減か? おっかしいなぁ、なんとか一階の部分の大半を改築してボロい壁は全部とっぱらい。支柱は綺麗にして屋根は完成している。いまだ柱しかない二階はともかく一階は見れるようにまでにはなったはずなんだけど。庭だって身の丈ほどに伸びてた雑草だって子供たちが頑張って整地してくれたので広さの分かる綺麗な庭になっているし。
「これを一月ちょっとでしかも一人やったのか?」
「ああ、そこなんだ驚く所」
確かに早いとは思うけど今だにどこの部屋にも壁紙なんて貼っていない角材丸出し状態だし、唯一寝ている広い居間にはカーペットを引いてはいるがそれでも色んな事を省略しての強行だからこんなもんじゃないだろうか?
「ほんとにいいのか? 俺たちがこんなとこに住んでも?」
「そっちが良ければいくらでも」
正直俺はこの二人がかなり気に入っている。トウカと同じように苦難の日々を過ごしながらもそれに負けない目の輝きを持った彼等と一緒に過ごしてみたい、家族になってみたいとおもったのだ。
「あっでもミミルちゃんは神殿勤めだから光の神殿まではここからは遠いか」
この広すぎる街中にあるといっても光の神殿までは定期的に大通りを回っている馬車を利用しても一時間くらいかかる。往復毎日二時間は俺も嫌だなぁ。
「いえ~巫女と言いましてもぉ私は下っ端もいいとこなので~。直接神殿ではお勤めしているわけではないんですよ」
なんだか緩いな~この子は。
「ですからぁ住まいが代わったと申請すればぁ近場の奉仕先を斡旋してくれるとおもいます~」
「問題はないのか。じゃあどうするよ? 今すぐなんて話じゃないから返答を急がなくてもいいんだけど」
「一つだけいいですか?」
どうしたなぜ急にかしこまったんだジョイ君
「いくらでもどうぞ」
「キドー兄ちゃんの実力を見せて欲しい……です」
おっとそれは重要だよね。
「じゃあ軽く組手でもしてみるか」
組み手は家の庭でやることになった。広さとしてもそれなりだし、人目という問題もスラムなのでそこまで気にする必要はない。魔法さえ使わなければ問題ないだろう。
俺は右手に手甲をつけて構えを取る。ジョイ君は近接戦では刃渡りがナイフに比べれば少し長い、ダガーで戦うようだ。今は訓練用に使っているのだろう、ダガーに見立てた鉄の棒を持って構えている。
「でりゃあああああ!」
姿勢を低くしたまま、俺へと突進してくる。下から放たれた攻撃を、上体を逸らしてギリギリかわす事が出来た。侮っているつもりはなかったのだが、ジョイ君の速さは俺が想定していた速度の倍以上の物だった。体勢を崩したと見て、振り上げた武器を、俺へと向けて突き出すジョイ。だが、それは少し早計だぜ。体勢は確かに崩れているように見えるが、それは上半身だけの話で、足はしっかり重心を捉えている。
歩法という技が格闘技や武術には存在する。物によってはスポーツにも取り入れたりすることもあるらしいが、武術などのそれに比べれば技と呼ぶにはまだまだ未熟だ。歩法は簡単に言えば、足運びである。だがその足運びによって生まれる利点、欠点を突き詰めることで、あらゆる状況に対応し、ある時は防御の為、ある時は攻撃の為の始まりを起こす基礎にして、絶対の奥技なのだ。
その歩法にて体を横方向に移動させ、その反動を使って、ジョイの突き出した腕を俺の手で逸らし、その姿勢を崩す。逆に姿勢を整わせ、真横という有利な位置を確保した俺は、ジョイの首へと素早く手刀を打ち込んみ、寸前の所で停止させる。
「一本、俺の勝ちだな」
「……なに、今の」
「何って、空手っていう武術の回し受けっていう技だけど」
「聞いたことない武術だけど、すごいや」
そりゃ聞いたこと無いでしょうね。異世界の武術なわけだから。
「最初の攻撃でよろけたのも、誘いだったの?」
「いや、あれはジョイ君の速さに面食らって、マジでよろけた。あそこで上半身じゃなく、足を狙ってたら当たってたかもしれないな」
「……もう一回やってもいい?」
「ああ、喜んで」
その後も存分に組手をしたジョイは元の口調に戻り、晴れやかな表情で家族の一員に加わることを了承してくれた。
前から思ってたけどなんで洗剤のジョイは関西弁なんだろうね。ちょちょいのちょいやでー♪