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第二話 家と鍋と箱と笑顔

 廃屋に俺を呼ぶ声を響かせていたのは、ジーニーさんの執事である、セバスチャンさんだ。セバスチャンは俺命名だぞ? 本名知らないしね。さすがに執事でセバスチャンとか無いよ。ありきたりすぎるわ! でもこれの呼び名ってどこからきたんだろうね。


「キドー殿、こちらがご注文の権利書になりますぞ」


 執事の爺ちゃんが持った封筒を受け取る。


「なんか予定よりも大分安くないですか?」


「そこは我が主の説得の賜物です」


 説得という名の値切りなんですね。でも予定額から3割も引いてくるとか、不動産屋は泣いてるんじゃなかろうか。


「ご心配せずともふっかけられた分を見破って、正々堂々買い上げたものですから」


 流石の手腕だ。これから俺の心の中では『流石のジーニー』と呼ぶことにしよう。値段を確認してカードから金銭をやり取りする。


「それと主から「いつかお茶でご一緒しましょう」と受けたわってございます」


「ありがとう。近々顔を出すって言っといて」


 なんだか気に入られたなー。今のとこ信用できそうだからいいけど。丁寧にお辞儀をしたセバスチャンは馬車に乗って帰っていった。


「あの~何をお買いになったんですか?」


 まだ敬語はやめれないらしい。ていうかストリートチルドレンのわりにはえらく教養あるよねトウカって。


「この場所、君たちの家の正式な権利書さ」


「え……」


「俺もここに住もうと思ってね」












 俺が買ったのはリッキーや、トウカ達が住んでいた廃屋とその土地である。廃屋はなんとか屋根が見て取れるが壁が崩れ、一部はすでに斜めに傾いている。建物の価値としてまったくの無かったので、金額的には土地の値段だ。これはかなり広く六十×四十メートルの敷地だ。立地としては一番端の方と言ってもスラム街にあるので価値が低くなるとは思ったが10万ディクスはすると予想していたんだけど。


「六万八千ディクスかぁやっすいなぁ」


 このちょっとした公園レベルの広さがこの値段か……いやこれが常識的なのかもしれない。日本は特別土地の値段が高かったから余計に感じる。

 手に入れた廃屋と敷地を見つめながら今後の予定を組み上げていく。取り敢えずあの廃屋がどこまで使えるかの点検と調査が必要だな。庭だったらしき広場も今では頭の高さまで伸びた雑草で埋め尽くされているので刈り取らなきゃ。


「あの~」


 いきなり不法占拠していた土地を買い上げて一緒に住む宣言をした俺に呆気に取られて沈黙したままの子供を代表してトウカが質問してきた。


「これを聞いてしまうのはきっと失礼な事なんでしょうけど、あえて聞きます……なぜここまでしてくれるんですか?」


 まあ戸惑って当たり前か。俺だってちょっとびっくりしているんだけどね、自分の行動力に。


「……俺は君が大切にしているものも大切にしたいと思ったんだ。理由はそれで十分だ」


 嘘偽りない本心なんですけど俺もあえて言おう! クッサーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 自分で言ってなんだけど一瞬毛穴が三倍は広がった。なんとか自然な仕草で話すための集中力だけで、百メートル全力疾走したくらいの体力が消耗されたよ!

 でも顔を赤くして俯くトウカの姿を見れたから良しとしよう。うむ、大変良し!


「リッキー、リッキーおいでおいでー」


「おれはイヌか!」


 あっいるんだ犬。いやだって飯を食う仕草とか、表情とか見てたらねえ。初めて見た時から思ってました。


「わかってる範囲でいいから家の中を案内してくれ」


「お、おう」







 午後からの時間を全部使って有意義な廃屋の調査は完了した。時間がかかり過ぎて辺りが真っ暗になってしまった。街中なら幾らかの灯りがあったものの、このスラム街はほとんど無い。


「『ライトボール』」


 ボールシリーズで唯一攻撃できない光魔法。そして最も簡単な魔法でもある。明るさを持った光の玉を頭の上に浮かべてみんなのとこに戻る。

 帰ってきたらみんなの視線は俺の荷台に釘付けになっていた。ああお腹がすいたのね。子供たちの興味の大半は食べ物に向いているだろうしな。環境的な意味でも本能的な意味でも。


「よーしじゃあお兄さん頑張って晩ご飯作っちゃうぞ―」


 買っておいた大きな鍋を荷台から取り出す。中には野菜と肉が入っている。俺はそこまで料理はうまくはない、そこそこといった所だ。だから大漁簡単で、おいしくて、パンに合う料理といえばシチューでしょ。


「『ストーンウォール』」


 ウォールシリーズはその名の如く壁を創りだす防御魔法だ。出力をかなり弱めて膝下ほどの石の壁を創りだす。俺はそれを三枚出して簡易のかまどを作り上げる。俺の無駄に注がれたストーンウォールなら一時間は余裕でもつだろう。そして薪を組み上げて出力最低にしてファイヤーボールで点火する。包丁で野菜と肉を切って鍋で若干炒め、そしてウォータボールをそっと鍋にいれる。


「キドーって魔法も使えるんだね」


 ランランと輝く目で料理風景を眺めるリッキー。てか全員近いよ! 危ないからちょっと下がってね。






 ここで少し魔法について解説しよう。魔法は出力の調整ができる。ただし個々の種類で上限が決まっており、出来るのは弱める事だけだ。それを利用してのマジッククッキングをしてみせたのだ。さらに魔法で作った石や水などはその込められた魔力の密度に比例してしばらく経つと粒子状になって宙に消えてしまう。しかしだ、火の魔法で付いた木の火は消えないし、少しだけ加工を加えれば水も消えなくなる。ウォーターボールの水は純粋に水だが、例えばそれに砂糖を加えれば砂糖水になる。なぜか出した時の状態から変化を全てに加えると世界に定着して消えなくなるらしい。出力の調整はイメージの問題で、魔力を注ぎ過ぎな俺だがその力の強弱には関係性は無いらしい。

 なぜそうなるのかって? 知らん! そういうのはもっと偉い人に聞いて下さい! 魔法初心者なめんなよ! あれだあれ、その時不思議な事が起こった! だよ、それでいいだろ。







 鍋に入れた水が煮立ち火が通った後、塩コショウと宿の女将から教えてもらった調味料を加えて完成だ。更に主食に買ってきてあるフランスパンのような長いパンをを輪切りにして火で炙る。フランスパンといってもその太さは首より太い一切れでもなかなかの大きさになる。

 全員にシテューの入った皿を配り、大きなバスケットに焼いたパンを入れて配置完了!


「それではみなさんいただきまーす」


 返答は無し。


「それは何の掛け声なんですか?」


 おっとついテンションが上がって日本の挨拶を使ってしまった。


「これは俺の生まれた国の挨拶で、食事をする前に食べ物を生み出した自然への感謝をあらわす為にするっていわれてる。最初にいただきます、最後にごちそうさまで一組の挨拶だ」


 たしかそんな感じだったはず。当たり前のようにやってきたから詳細な話は忘れた。


「それはいいですね。普通は信仰する神に祈りを捧げるんですけど、私達はどの神の信仰していませんからね。じゃあみんないただきますってキドーさんに感謝して食べましょうか」


 いやいや自然に感謝だからね!?


「「「いただきまーす」」」


 はい感謝されましたー。たくさんあるからおかわりもありますよー。







「ねえキドー。もしかしてお土産ってこの子たちのことなの?」


「いまさら気付いたのかフィリー」


「ほんと変だよねキドーって。お土産までありえない」


「それこそ今更だぜ」


 最高に決めたドヤ顔を向けられたフィリーは、クスクスと笑って俺のポケットに入って眠っていった。











 次の日、朝から全員の体を水洗いするとこから始まった。敷地内にあった井戸が幸運にもまだ使えたので紐に水桶を付けて利用してもらう。リッキーや、やんちゃ坊主のトマス、無口ながら面倒見の良い少女のユーリに、ひょろ長優男のロイなどの年長組に面倒を任せて、俺とトウカは空にした荷車を引いて街にくり出した。べっべつにデートだなんて思ってなんかないんだからね。確かに胸は高なったけど。

 買い物描写は省略して、昼に差し掛かる前に自宅へと荷車に山のような荷物を引いて帰還する俺。背負ったり引いたり、背負ったり引いたり、俺は馬か! なんて思ってみたりなんかして。


「はーいそれでは身長順に並んでくださーい」


 トウカの指示で順番に並んでいく子供たち。サプライズを兼ねて、トウカ以外には何をするのかは伝えていない。ニヤニヤするのを我慢出来ないでいる俺とトウカは、荷車に積んできた箱をそれぞれ一人に一個づつ目の前に置いていく。箱は膝くらいに高さがある正方形のなかなかに大きな箱だ。


「それでは合図で箱を一斉に開けましょう」


 トウカが指揮して全員が箱に手をかける。


「いっせーのーで!」


 懐かしい掛け声だ!? なぜに地球と同じ掛け声が……いや違うな、これはナーブに貰った特典で脳内で自動変換してるな。

 

「うおおおおお」


「わあああああ」


「あわわわわわ」


「ふぉーーー!!」


 歓声の中に奇声が聞こえた気がするがあえてつっこまない。喜ぶ人へのツッコミなど無粋の極み。

 箱に入っているのは全員分の服と靴だ。上の服とズボン、そして下着のセットが五。靴は一足づつ見繕ってある。大きさはトウカに選んでもらったがあとで俺が調節してやろうと思ってる。

 あまりに興奮しすぎた男の子がその場で着替えようとしたのを、トマスがゲンコツで止めていたほどにみんな喜んでくれているようだ。無理もないだろうとは思うよ。全員服はボロボロで一着しか持ってなかったし、足なんて裸足だった。みんなを引っ張って来たというトウカだって服選びをしている時の全身から溢れ出る輝きは凄まじかった。


「うんうんやっぱり子供はこうでなくっちゃ」


「どうしたんですか? キドーさん」


「ここに一緒に住むといった理由の一つに、俺は無類の子供好きなんだ。そんでもって勝手なことかもしれないけど俺は子供は笑っているべきだと思ってる。だから笑ってない子供をみると無性に笑わせたくなるんだよね」


 やっぱり子供は笑顔が一番だ! 異論は断じて認めない!


「はい」


 でも俺の一番はトウカの笑顔だけどな! 一万ディクス払ったかいがあるぜ、その笑顔には。よろこぶ子供たちを尻目に人生最大の勇気を振り絞ってトウカの手を握る。


「……フフ」


 それに優しく笑ってみせたトウカは手を繋いだまま、はしゃぐ子供たちを俺と一緒にしばらく一緒に眺めていてくれた。


「……」


 正直動悸がヤバ過ぎて心臓止まりそうでした。


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