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第一話 幸せ家族計画

 なんだろうこれ、足元がおぼつかない。幸せすぎて体が浮いているようだ…………。

 というノロケからスタートの、みんなのヒーロー木堂です。











 あの後、血まみれの装備を取り敢えず外して、布に包み、警備兵の目を掻い潜って宿屋に帰還。帰ってきた俺を見て安堵したのかリッキーは俺に抱きついて泣き叫んいる。よしよしもう心配ないからな、だから落ち着け。おれの服が鼻水だらけになって、すでに腹に直接感触が伝わってるんだよ!

 泣きじゃくるリッキーをなんとかなだめて落ち着かせる。心配のため一晩中緊張していた糸が切れたのか立っているにも関わらず、リッキーの頭がユラユラと宙を彷徨い出した。まだ年端もいかない子が全力疾走した上で徹夜していたのだ、眠気の限界に来ても仕方がないだろう。むしろよくここまで頑張れたと感心してしまった。すでに半目になって意識朦朧とするリッキーを、俺のベッドに運んで寝かしつける。

 さて俺は急いでこの宿を出る準備に取り掛かる。理由としては色々あるのだが、なによりも昨日のリッキーが駆け込んできた騒ぎで、俺の装備の一部を見られてしまっているのが大きい。ヒーローで在り続ける為には正体不明をなるべく守らなくては。

 なぜここまで俺の戦闘力を隠し、なるべく目立たないように計らっているのかという疑問をお持ちだろう。これは俺の尊敬するヒーローの一人である蝙蝠男さんから学んだことで「人は目に見えぬものを恐れる」なんだそうだ。要は正体がバレればそっち方面の人に四六時中狙われるだろうし、下手をすれば周りにまで被害が及ぶ。さらに正体を隠しつつ正義を名乗ることで、悪党にプレッシャーを与える事ができる。闇から人を脅かす物がさらなる闇から逆に足を引っ張られるのだ、さぞ怖かろう。正体を隠すことにはとても大きなメリットがある。


「お帰りキドー」


 用意をしていると欠伸をしながらフィリーが起きてきた。護衛を任したのにがっつり熟睡していたようだが、これでもフィリーは俺より格段に危機察知能力が高い。たとえ寝ていても危険が迫れば直ぐに感じ取って起きれるのだ。ヨルガの森では大変お世話になった。


「お土産は~?」


「喜べ今日は大漁だ」







 準備を終えるとまず朝飯を取り、女将さんに宿を出ることを告げる。一週間予定で前払いしていたが、手間賃として残りの分は貰ってもらった。そしてまず生産ギルドに行き証明カードを受理する。なんか色々言われたり絡まれそうになったが華麗にスルー。忙しいんだ今度にしてくれ。

 そんでもってボライアズ家に訪れジーニーさんに予定を聞く。ちょうど午前中は開いていたらしいので銀行での手続きをしてもらう。口座を開くだけならいいのだが、そんな開いたばかりの人が二十八万という大金をいきなり得るというのは、怪しまれて理由を聞かれかねない。そこでしっかりジーニーさんから受け取ったという確認をしてもらった方がいい、とジーニーさんか助言してもらっていたからだ。

 こちらがなるべく目立ちたくないという事への配慮だろう。ほんとこのひと出来る人だわ~。まあ、あの時、もしあの話が世間に広まりだしても俺の名は出さずにジーニーさんが考え付いた事にしといてって言ったしね。


「それでは28万ディクス確かに納めさして頂きました」


 どうやらギルドカードは銀行カードの替りになるようで、カードさえあれば金銭のやり取りができるらしい。もちろん盗難防止のため登録者本人にしか使えないそうだ。


「また何かありましたら是非我がボライアズ商家をご利用ください」


「あっそれじゃあ早速いいですか? 今回は販売じゃなく単純に相談なんですけど?」


「はいもちろん。キドー様には大変有意義な商談をさせて頂きましたので」


「それじゃあ――――」


 







 結局頼みごとになってしまった取引を終えた俺は、次に商店に向かい手で引く荷車を購入。武具の購入で更に増えた俺の荷物を街中ではさすがに背負うわけにはいかない。荷車を買った雑貨屋で力仕事兼雑用係のゴーレム、ミスターハニエスをお勧めされて、かなり心を揺らしたが今は金が入り様なのでぐっと我慢した。

 宿へと帰宅した頃には昼前といったとこだ。


「おーい、起きろリッキー起きろ~家に帰りますよ~」


「む~」


 寝起き悪いのかこいつ?


「フー」


 必殺桃色吐息! 耳に優しく息を吹きかけることで相手は死ぬ! いやびっくりするだけだけどね。


「ひょわあああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 書いて字の如く飛び起きる。50センチは浮いたか? どうやら耳は弱点のようだった。今度から起きなかったら攻撃してやろう。耳への衝撃と見慣れない場所で起きたためか、部屋の隅に張り付いてキョロキョロをあたりを見回している。…………涙目で戸惑う姿はなんかこう……くるものがあるな。


「ほれ家族の元に帰るんだろ?」


 手を伸ばしてリッキーを起き上がらせる。







 荷車の余ったスペースへできるだけ多くの食料を買い込む。昼飯に食うように出来合いの物を色々買ってみた。


「いやーお待たせお待たせ」


 荷物を引いて俺はリッキー達の一応の家である廃屋へとたどり着いた。


「リッキー!」


「みんな!!!! ……トウカ?」


 いち早くこちらに気付いたトウカがリッキーに駆け寄っていくがなんだかリッキーが戸惑っている。


「私よリッキー! トウカよ」


 おお美しい。


「トウカってそんなに美人だったんだ」


 おっと惚れるなよ? それはおれんだ。

 感動の熱い抱擁を交わす子供たち。でも三十四人の抱擁は多いよ! なんだか胴上げの光景を思い出す。


「リッキーがキドー様を呼んできてくれたのね!? こんなにも強い人がリッキーの知り合いにいたなんて」


「えぇ!? 兄ちゃんがゲドロスぶっ倒したの!?」


 やっべ。なにも事情を説明してなかったなそういえば。







 買ってきたお昼ごはんを食べながら積もる話に華を咲かせる。リッキーは俺がどれだけ優しかったかを語り、トウカは俺がどれだけ強かったかを語った。俺はというと拍手喝采、英雄伝のように口々に褒められて、そのあまりの気恥ずかしさを空の雲を数えて耐え忍んでいた。


「あの雲はイカに見えるな」


 褒められる事は今まで無くも無かったが、ここまで感情むき出しで喜ばれるというのは、なんだかむず痒い。


「それでキドー様はこんなにも荷物を持ってどうしてここへ?」

 

 やっと話題が途切れた。それにしても様付けとかその呼び方は背中が痒いよトウカちゃん。地球でも君とか、さん付けだって恥ずかしかったのに。


「様付けは恥ずかしいんでやめてくれるとありがたい、気軽にキドーでいいよ。ここに来たのはまだ心配だったのとリッキーを送るため、それと―――」


「キドー殿ーーーキドー殿はこちらに居らっしゃいますかー!?」


「俺もここに住もうと思ってね」


 さあここからはじめようじゃないか、俺の幸せ家族計画を!


英文を日本語に直訳すると、とんでもない物になることってよくあるよね。

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