第十話 オーハレルヤ
百人悪党組み手を開催した後、捕まっていた子供たちと一緒に捕まってた何名かを解放して、俺たちはアジトを脱出した。帰り道にまだボスゲロの一味がリックを探すためかうろついていたが、速攻でぶん殴って眠らしておいた。
40人弱に膨れ上がった大所帯をどうするもんか困ったのだが、取り敢えずリック達が滞在していた廃屋に留まることにした。
そうだ、話を進める前に説明しなくちゃならないことがあった。前回傍若無人に全力で暴れまわった俺に対して「この鬼畜!」とか「やりすぎだろ!」とか感じた人が多くいたんじゃないかと思う。
たしかに誘拐が初犯だった場合ぶっコロはやり過ぎだとは俺も思う。個人的には子供を攫ったその時点で万死に値するが。しかしおれはブローナスに入ってからというもの情報収集には余念が無い。主に常識を身につけるために、だったのだが。物価とか国の情勢、噂話しに最近あった出来事に今の流行。取り敢えず思いつく限りの話題を、色んな人から聞き出す事をこの三日間費やしてきていた。
そんな中でも悪い噂が問題だ。それを全体で十としたら八がゲイロス一味に関しての黒い噂だった。しかも話される事件はほとんど別件で、その裏や実行犯がゲイロス一味に違いないというものだった。札付きの悪の集団なら、こんな憶測の飛ぶ噂の一つや二つはあるようなものなのだが、いくつかといってもかなりの数だがどう考えてもゲイロス一味の仕業としか思えないものが多々あったのだ。場合によっては目撃情報まで飛び出してきた。
ここまでくれば、それを知るものはなんとなく気付くだろうさ。警備兵がグルなのではないかと。俺の推測ではもっと上にも共犯者がいそうだが。
そしてゲイロス一味の悪行は殺し、誘拐、強盗に強姦。酷いのでは一家虐殺なんてのもあった。ここまでやって共通の容疑者になっているのにもかかわらず、ゲイロスは世にのさばっていたようだ。
ぶっちゃけリックに頼まれるまえからおれの討伐予定ノートには第一筆頭になっていたので、遅かれ早かれ同じような結末になっていたはずだ。
殺した罪悪感? その質問良く聞くよね。でもさ、俺から言わせれば救いようのない悪人に、欲望で人を食い散らかすような奴に殺意を抱かない。そっちの方がどうかとおもうぜ? もちろん殺しに嫌悪感はある。でもそれを天秤にかける重さが圧倒的に悪を許さない事の方が重いってだけなのさ。
今回は……たぶん死んではないとは思う。結構おもいっきり殴ってしまった時もあったので瀕死なのは確かだが。皆殺しなんて選択肢も無くも無かったりもしちゃったりしちゃったんだが、まあ生きて捕まった方が後々役に立つ時もくるとおもうのさ。余罪が追求されれば間違い無く絞首刑だろうけどね。
さて困った。そろそろ夜が明けるのだろう、東の空が白い光がさしだしてきた。もしかしたら危険がまだ残ってるかも知れない懸念から、朝まで子供たちとご一緒したのだが。……距離が遠い。
まあね! まあね! 物騒な格好に、今だにマスクは外さずにいる完全な不審者スタイルだし、おまけに色んなとこ血まみれだしね!
「お、やっとご出勤か」
逃げ出した時に一緒に捕らえられていた女性や男の人は俺と同じくらいの歳だった。その人達には警備隊の詰所に行ってもらい事情を説明してもらうことにしたのだ。グルの警備兵のとこに駆け込んでは嫌な結果になりそうだったんでそれぞれ別の詰所に駆け込んでもらった。指示を託して送り出してから大体一時間は経っていた。そして警備兵らしき多数の足音がやっとスラム街に聞こえ出した。おっせー。時間の目安はもちろん俺の腹時計である。
「さて、それでは俺はこれで」
子供たちをなだめていたトウカが去ろうとする俺に急いで駆け寄ってくる。
「あ、あのありがとうございました。本当にあなたは命の……いえ心の恩人です」
「いや……勝手にやったことだ気に――――――」
朝日が上り建物の隙間から光の筋が溢れ出す。その光がトウカを照らし出しその見に纏った白いドレスを煌びやかに輝かせていた。
衝撃。そうこれはまるで、始めて特撮ヒーローものを見た時に匹敵する衝撃だった。
なぜならその幻想的で美しい光景よりも、彼女の目に宿る輝きの方が優っていたからだ。
なぜそうしたのかは分からない、もしかしたら正気を失っていたのかもしれない。俺はマスクを取り外した。
「俺はキドーと言います。改めてあなたのお名前を聞いてもいいだろうか?」
「えっ? あっはい! 私はトウカといいます」
ヒーローを見た時の衝撃で俺は歓喜の渦に飲まれた。そして今もそれに似た歓喜に包まれている。しかし熱い力が漲るわけでもなく、震えるわけでもなく、俺は涙を流していた。そして力なく膝をトウカの前で地面へと付け跪いて、手をトウカに差し伸べた。
「いきなりですまないと思う。でももう俺には止められないんだ。――――――どうか俺の愛を君に送らせてもらえないだろうか?」
心の中では感動の反面、嘘だろっ!? と叫んでいるほどに自分でも信じられなかった。恋愛のレの字にも興味が無かったし、可愛い、いや美人だなという感覚こそあれど、異性としての意識なんかしたこともなかったのに。いや確かに惚れましたともさ! 認めましょうそこは! でも俺は自分的に理性ある人間で自制心の強い男だと思ってましたよ! この時まではな!!
「…………………………………え? え? へぇ!?」
ドン引きなんですねわかります。私もドン引きです。長い長い、本当に長い沈黙。凍りつく空気。混乱と未体験のプレッシャーで死んでしまいそうです。
「……はい」
トウカは指し伸ばした手を握り返してくれた。
「……」
「……」
―――――――ってマジかよ!? 混乱したまま取ってしまった行動の結末が自分でも信じられなくて信じられなくて信じられなくて頭が真っ白になって固まる俺。そんな空白の脳裏に浮かんだのは。
(血濡れの戦士が純白の姫に誓いを立てる……か。絵にしたらいい値がつきそうだ)
なぜか現実逃避の末、魂が抜けて第三者視点でその情景を見ている、という設定の感想だった。
主人公は変人に見えるアホですね。努力家と言う名前の猪突猛進でもあります。