第九話 正義の鉄拳
リッキーに聞いていたアジトは直ぐに見つかった。荒廃したスラム街にそびえる旧ナーブ教会。しかもきっちり強面の見張りまで立たせているんだ目立ち過ぎにも程がある。そしてそこまできた俺は最後の装備を装着する。鼻と輪郭を隠すマスクのような鉄の仮面だ。仮面と言っても目は見えているし、口も影になってはいるが少しは見える構造だ。これは露天に売っているのを一目見た瞬間に衝動買いしてしまったものだ。せっかくなので改造して顔に装着できるようにしていた。これで完全に見た目は忍者ルックそのものである。別に狙ったわけではない。気に入ってはいるけど。
さて作戦はどうする?
誘導? 一人じゃ無理。
ちょっとずつ奇襲? 時間がかかり過ぎる。
人質だけ救出? 30人超えは厳しすぎ。
ならば?
「悪党に小細工無用! 正面突破あるのみよ!!」
小細工も嫌いじゃありませんけどねー!
隣の建物の屋上に上り全力疾走。そんでもって建物に見えます大きなガラス窓に向かって全力ジャーーーーーーーーンプ!
ガラスを見事に突き破り着地に成功! っとしまった!? 今の大ジャンプで窓を壊す時はヒーローらしくキックにするべきだったか!? 次の為の課題にしとくか。
「テメェ! フザケてんのか!!!」
どうやら敵の集まる広場のド真ん中に降り立ったらしい。これはラッキー。おや? この目の前にいる女性は……顔に傷があって16歳くらいでうっすら赤くて長い髪……。
「もしかしてトウカさんでしょうか?」
「はっはい!」
なんだ、この麗しの生物は……。
「しばしお待ちを。あなたを蝕む闇を今から掃除しますゆえ」
うむ我ながらキザすぎた。いつの間にこんな歯の浮く台詞を言えるようになったんだ俺? 初ヒーローで興奮しすぎたか?
謎が残るが取り敢えずはまず悪党退治だ。おれはボスが座りそうな椅子に座る汚い野郎に体を向ける。
「ええっとここのボス、名前はたしかゲ……ゲ…………ゲロ?」
「ゲイロスだ糞野郎!」
「一応一回だけ警告してやる。いまから一切合切の犯罪行為をやめろ。そんでもって明日からは真っ当に働くなら見逃してやってもいいが、どうする?」
「はあぁ!? 貴様頭いかれてやがるのか!? この人数相手にてめえ一人でどこに見逃す要素があるんだよ!」
「まあ了承するなんて思ってはいなかったさ。お前ら性根の底まで糞みたいだからな」
騒ぎを聞きつけて他の野郎も姿を見せ始める。
「ほざいてやがれ。じゃあ俺様からも聞いてやるよ。今から泣いて命乞いをするなら両手で勘弁してやるぞ?」
「ん~人数は百人くらいか」
「残念だったな! もっと少ないと思ったかぁ!? ゲイロス様の作った組織は巨大で無慈悲な極悪集団なのよ!」
「ああ実に残念だ。千人くらい居るかと思って来たが、がっかりだよ」
喋り終わった瞬間一番近くにいた二人に自分でも見えないほどの速さの突きを放つ。かなりの巨体だったが見事に吹っ飛び体の半分くらいが壁に埋まってその勢いはやっと止まった。
「警告は終わった。生きるか死ぬかは運次第」
腹に全身の力を溜めて解き放つ。
「だがてめえら外道に手加減する気なんて一切ねえから覚悟しやがれぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
建物が震えるほどの大声で宣戦布告に近い死刑宣言をかましてやる。全力で叫んだのはこっちにきて始めてだったがこれもすごいわ。遠目に見える窓ガラスにひびがはいってやんの。
殺気を隠すことをやめた俺は全力で攻撃を繰り出すしていく。突進しながら正拳突き、そこから隣へ回し蹴り、着地と共に前蹴りを放ち、再び目標に駆け寄っていく。凶悪な攻撃が次々に悪党どもを壁へ天井へ地面へとめり込ませていく。
「ハッハ! 自慢するだけはあって鍛えてるじゃないか! なかなかいい殴り心地だ!」
びっくりすることにこいつらはハッグベアー並の耐久力を誇っていた。ほぼ全力で殴っても手や足は簡単にひしゃげたが体を突き抜けずに耐えていた。ただし衝撃を殺せずにほとんどが吹っ飛んで無残な結果に陥っているわけだが。流石に皆殺しにする気は無かったのでナックルは装備してはいない。それでも生きてるかどうかは怪しいところだろうけど。
開戦して僅か三分でその人数が半分まで減ったクソッタレ共。阿鼻叫喚の地獄絵図になりつつあったがどうやらボスゲロが指揮した部隊が隊列を整えていた。
「なんだあんた名ばかりのボスじゃないんだな」
ちょっと感心。
「うるせえこの化物が! これで死んでしまえ!」
どうやらボスゲロが集めた野郎どもは魔法の使い手だったようで六人ほどがファイヤーボールを俺に向かって放ってくる。避けるのは簡単だが装備というか奥の手の試運転には丁度いい。俺は腰に挿したナイフに手を添える。
「『ウォーターコート』」
コートシリーズは今まで出た魔法とはまた系統が違う付加魔法だ。物体にその魔法の効果を与えるってのが単純な説明だが、ウォーターコートを今みたいにナイフに付加させると水でコーティングされたナイフが出来上がるわけだ。魔法の面白い現象として、なぜか使用者には生み出した魔法の影響を及ぼさないことだ。水に包まれたナイフなのに俺は水に濡れることなくナイフが掴めるし、火であった場合も熱くもないし燃え移ったりもしない。服は燃えたり、濡れたりするだろうと思うが、そこまで魔力を流しておけば大丈夫のようだ。
威力が無いなら足せばいい。筋力だけは有り余り、投擲の威力はかなりの物だったのでそれを魔法に応用して相手の魔術のぶつける。
無駄に魔力のこもった俺の魔法は威力こそ上がりはしないもののやたらと頑丈なんだそうだ。つまり同じ威力の魔法に当たった場合―――
「相手の魔術が先に壊れる」
「ぎゃああああああああああ」
しかもボールシリーズの魔法は直線で飛ばすのがオーソドックス。ナイフを魔法に向かって投げればその向こうの術師に当たるのは必然なわけだ。
まあ精度がまだいまいちなんで術師にまで当たったのは3人だけだ。しかしこれはスプラッタ。腕やら肩がすっ飛んでいる。これは付加魔法がすごいのか、ナイフがすごいのか判断に困るとこだな。要実験だな。今ので最低でも隙を作り出せる算段だったのか中級魔術を構築しようとしていた奴がいたのでそいつの足には直接ナイフをお見舞いしておいた。結構な深手を負わせたので、痛みで集中力を保つことはできなくなったろう。
「うわあああ。ああああああああああああ。ちくしょう畜生。そうだお前そこの女、なかなか美人だろ? そいつをやるから手を引かねえか。なんならもっと美人の奴隷を何人だって攫って来てやるさ。なんならお前の好みの女でも構わないぞ」
ああこいつホントに俺の神経を逆撫でさせるのがうまい。
「今決めた、お前は間違いなく最後に殺す」
俺は逃げようとするものから攻撃を加えて行動不能にしていく。運悪く死んだ奴がいるかもしれないが知ったことではない。ボスゲロの一言で更に容赦なく攻撃を開始した俺は残り殆どを始末した。
「ハアハアハア、さて……残りはお前だけだな」
流石にこれだけの数を捌くのは疲れるな。息が切れるなんてのはこの世界に来てからはなかなか無かった現象だ。
あえて最後まで残したボスゲロはガタガタ震えながら腰が抜けているみたいだ。さあどんな恐怖をさらに刻んでやろうか。なんて吟味していると後方から新手が出現する。
「動くな化物。お前この女の知り合いか何かだな? 最初なんかしゃべってたろお前」
新手と言ったのは訂正、どうやら余りの恐怖に気絶して倒れていた奴が復活したようだ。男はトウカを羽交い絞めにして捉えていた。
「動いたらどうなるんだ?」
「見りゃわかんだろ! こいつの命がどうな――――――」
男が言い終わる前におれは渾身の速度で右の突きを放ち、その指をトウカに突きつけられたナイフに引っ掛ける。それを引きつつ、驚いている男の顎へと手刀を放った。脳を激しく揺さぶられて男は、紐が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
「すまん。怖い思いさせちまったな」
「いえ、ありがとうございます」
「じゃあもうちょっとで終わるから部屋の隅のほうで待ってて」
「……はい」
いい度胸してるよ実際。人間離れした戦う俺を目の前にして物怖じ一つ見せないなんて。
今にもションベン漏らしそうなボスゲロに見習わしてやりたいぜ。
「さてどうやって死にたい?」
「ひいいいいい来るな来るなあああああああああああああああ」
ゆっくりとした足取りでボスゲロへと近づいていく。
「頼む許してくれぇ。金ならいくらでもやるから、なっ?」
「もう薄々気付いてんだろ? 俺は悪は許さんが別に殺しがしたいわけじゃない。なのに俺が殺気を抑えれきれない理由は――――――」
ボスの襟首を掴んで片手で持ち上げる。
「お前が俺を怒らしたからだ」
そのままボスを壁に投げつける。それを追って接近して俺が放つのは一本指貫手。それで足と腕の神経がある部分を突き刺し四肢の自由を奪う。
「があああああああああああ」
「どれだけの人を不幸にした?」
続いてわかりやすく血が出る頭部を手刀で僅かに切り裂く。飛び出るように流れだす血液。
「ああ、ああああああ」
「どれだけの人生を狂わせた?」
さらに手刀で右腕を吹っ飛ばす。
「はひゃあぁぁぁぁ、たす……たひゅへへ」
「お前がばら蒔いた絶望、そっくりそのまま返してやるよ」
止めはその目によく見えるようになるべくゆっくりと正拳突きを放った。最高に嫌な感触を残して種族人間、性別男、スラム街のボスであったボスゲロはこの世から消えた。
金の玉を殴り潰すなんて嫌すぎる経験をしてしまった。なんだか自分のも痛い気が……。
仮面ラ○イダー的に言うとまだショッカーしか出てない感じ。