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プロローグ

 話をしよう。俺こと木堂正志の形を色を、そしてアホさ加減を、その脳裏に描いてもらうためのそんな話。







 日本生まれで日本育ちな良き父と母のたゆまぬ愛の結果、俺は特に問題もなくポンッとこの世に生まれでた。その後もママ、ダダと初めての言葉を発して父に微妙な顔をさせ、ほふく前進と直立不動を経て、いたずらが恒例行事となった第一次反抗期も終えてすくすく育った俺。

 まあ言ってしまえばどこにでもいる子供といえばそうなんだろう。順風満帆、このまま進めば平凡ながらも確実な幸せに向かって邁進すること間違い無しな人間だったに違いない。

 しかしそれは小学一年生の夏休みの事だ。暑く素晴らしい休日を楽しむために、俺は朝からテレビをつけて寝転がってアイス食べながら、グダグダと実に有意義に過ごしていた。そしてなんとなく見ていたテレビだったのだが、ある番組が再放送で始まったのだ。その時のことを一言で表すならばそうだな……


「震えた」


 まさに頭のてっぺんからつま先、指の爪から一本一本の髪の毛に至るまで、全身全てに電撃が落ちたような衝撃と、全ての血管と心の臓が破裂するかと思うような興奮と鼓動が俺に襲いかかってきた。

 その番組は古い特撮物でかなりの有名どころではあったが、物作りという唯一の楽しみを除けばそれ以外にまったく興味を持っていなかった当時のおれは名前すら知らないものだった。

 今考えれば予め知っていればあれほどの衝撃はなかったのかなとも思う。百までしかない計測器がいきなりゼロから一瞬で上がってくればその枠外まで飛び出して限界を突き抜けてしまって壊れてしまうのは仕方なかったのかもしれない。


 そう俺は憧れてしまったのだ正義のヒーローに。







 その日から始まったアホもとい自他共に認める変人街道猛進撃。ヒーローに憧れるどこが変人なんだよ、そんなの男の子なら割と普通じゃないのか? という疑問をお持ちの男子諸君は多いだろう。その感覚がわからない女子でも、小さい頃に一度はお姫様や魔法少女に憧れた事を思い出せばなんとなく想像はつくだろう。

 確かにヒーローに憧れるなんてのはある種の本能レベルで刻み込まれたようなもので、ごくごくありふれた話だろう。しかし俺の場合は憧れ方がそもそもおかしかったのだ。

 それは成りたい(・・・・)と思ったのではなく成る(・・)と決断してしまったことにある。

 テレビの向こうにいるミュージシャンみたいになりたいとかスポーツ選手を見てあんな活躍をしてみたい。そういう憧れはかなり悪い言い方になるかもしれないが、一種の願望と言えるだろう。

 俺はあろうことか初めて見て感動した架空上の人でしかないヒーローに成ることを自分の中で決定してしまったのだ。…………自分自身の事を振り返ってみてはいるが本当にアホだな、むしろ俺が親ならば頭おかしいんじゃないかと疑って、病院に連れて行くほどだろこれは。

 だが俺の両親はよっぽど懐が広かったのか底が抜けていたのか、いきなり体を鍛えだし、さらに趣味であった物作りを眼の色を変えながら本格化させていった小学生を暖かく見守ってくれた。むしろ勤勉だと喜んでいたような気がする。初めて見た機械は直ぐにバラバラにして、庭に手製のサンドバック作って毎日パンチやキックの練習していたのを勤勉と呼ぶのは無理があったと思うんだけどなぁ。

 ある時なぜそんなに頑張るのかと母に聞かれた事があった。その理由については説明した記憶はあるが……もしかして見守られたたんじゃなくて遠い目で見ら―――――――いや考えるのはやめておこう。なんだか触れてはならない物がある気がする。







 そんなこんなの紆余曲折を経て、俺は迷うこと無く工業高校に進学。なぜ工業高校なのかといえば話は簡単。ヒーローといえば、スーツ! ギミック! そしてバイク! 有り体にいうならマッシィーーン! が重要極まりないものと思ったからだ。改造人間は流石に無理かと思ったが、ヒーローに成るためには圧倒的な強さが必要だと思ったし、人間の肉体だけでは限界なんて直ぐ来てしまうことも良く分かっていた。だが残念ながらテレビの向こう側に写っていたような機械は未だ実現の域に達している物は少なかった。しかし諦めるという思考なんて持ち合わせていなかった俺は「無ければ作ればいい」という安直な発想で進路を決定したのだ。

 青春の大半を物作りに割いていた俺の技能と知識はすでにかなりの領域に達していて、一年生の間にはロボ研(ロボット研究会)の先輩からは『機械の鬼』なんて呼ばれるほどになっていた。ゆくゆくは自衛隊の開発部あたりに入ってパワードスーツや装甲バイクやヒーローギミックの数々を作っていきたいと真剣に計画していた。

 俺はヒーローになるという事に関してだけは無理という言葉を一切使わなかった、というか欠片ほども思いもしなかった。スーツが無ければ作ればいい、体が弱けりゃ鍛えればいい、正義なんて幻想だ? なら本物にすればいい。まさに一心不乱な男であった。だが友人曰くそれって盲目て言ったほうがいいんじゃね? と返されさらに。


「普段そんなに喋らないお前はヒーロー絡みの話になると途端にテンションがマックスまで駆け上がる。端から見てたらまるで二重人格だぜ。おもしろいけど」


 盲目に対しては一言物申さしてもらったが、二重人格の部分は……心当たりがなくもない、というかかなりある。分類で言えばあまり目立たない方に入る俺だが、ヒーローや特撮物の話になった時の長舌ぶりでドン引きされた事は数知れず。いじめの現場やカツアゲ恐喝なんかを目撃し不良をぶん殴る様子を見た知り合い達の「お前誰だ!?」という一様に変わった同じ顔など何回見たことか。

 まあ驚かしたのは悪かったとは思うけど、いやこの程度の刺激はむしろ人生のいいスパイスではないだろうか? そうだ! そうに違いない! 自分を貫き、かつ人まで喜ばしてしまうなんてなんて俺は良い奴だ! はっはっはっはっはぁー……ははは………。ホントすみません心の底から反省しております。だがしかし後悔はしていない!







 人生を道に例えるならば、人はよく変人は他の人とは違う道を行くなんて表現をする。みんなはまっすぐ歩いているのに一人だけ右に向いて歩いていくって感じでね。でも人の人生なんて様々だ、三百六十度、どんな方向に向かったって同じような人生を歩んでいる人はどこかにはいる。右や左を向いたくらいでは変人なんて呼ぶのはまだまだ甘い。

 変人は道を曲げてるわけでも、ましてや踏み外しているわけでもない。







 俺たちは自分の道を空に向けて新たに作っているのだよ。空中を歩く発想をして、さらに実行してしまうような奴こそが本物の変人だ。








 順風満帆であった船を複雑怪奇に改造し、空飛ぶ海賊船にして乗り回した人生を送ってきた俺に大きな、それはそれは大きな転機が訪れた。乗り回したというよりは転がして遊んでたともいえなくもないかもしれないが。

 高校二年生になった17歳の俺は健康優良児に育った。身長は175センチとやや大きめ、体は幼少から習っている空手のおかげで引き締まったものだ。無駄に多くの筋肉を付けたくないと思いながら鍛えたものだが希望通りそこまで太い腕と足にはならずに鍛え上げられたその四肢には、我ながら絶賛したい肉体だった。髪型は黒髪で前髪を残してオールバックにして頭の後ろで結んでいた。もしかしてオシャレさん? と思った人、残念! ぶっちゃけ散髪に行くのが面倒くさいだけです。限界まで伸ばしたあとは見事な坊主への早変わりが見れます。

 そしてお顔はというと……まあ上の下ってとこじゃない? いや自分採点だから更に一段下げて中の上かな~。色恋沙汰やら服装とか流行なんてものにはまったく興味を示さず生きてきた俺には正直わかりません。時折―――


「優しそうな顔をしてるわ」

 

 っていうふうに褒められることはあったな。近所のおばちゃん達からだけどな!

 そんな俺は高2の冬休みを使い家族と共に海外旅行へと繰り出していた。行き先は某ハンバーガー大国にある国立航空宇宙博物館、もちろん俺の提案だ。歴史において革新的な発明品やら乗り物などが展示されたあの場所は機械オタクの俺から見れば誇張抜きに、ヨダレ物である。実際パンフレットを見ているだけでヨダレが垂れた。







 もうすぐ眼の前にお宝の山が現れる! なんて欲望を滲み出しさせていたのかいけなかったのかもしれない。


「全員手を頭の後ろに回してその場に座れ!」


 某国に降り立った空港でなんと空港ジャックに巻き込まれた。おまけに逃げ遅れた俺は人質になってしまう。ちなみに両親はその時離れた場所にいたので逃げ延びていた。

 ここでヒーローの出番か!? なんて思ったがさすがに銃を装備した10名以上の手練を相手に素手で勝てるわけもなく、無抵抗のままにおとなしく従っていた。だいたい30名ほどが人質に囚われていたが、そんな中でにいた小さは少女、たぶんまだ小学生であろうその子が震えて俺の隣うずくまっていたわけだ。

 自分でいうのもなんだが俺は無類の子供好きだ。おっとロリータコンプレックス、略してロリコンでは決してないからな。違うからな!! 絶対違うからな!!! 男であろうが女の子であろうがヤンチャであろうが根暗であろうが、俺は子供が好きだった。そして元から持ちあわせていた正義感も相まって強盗達の支持した位置から手を離して俺は少女の頭をそっとなでていた。一瞬驚いたのかビクッと体を震わしていたが、なるべく優しい笑みを心がけていた俺の顔を見て安心したのか、綺麗な金髪の少女は俺に抱きついてきた。ああよほど怖かったんだろうな、この状況じゃ当たり前な話だけど。

 だがその様子を強盗に見つけられ、咎められた……と思うたぶん。いやだってここ日本じゃねえし、相手は英語でしかもすっげぇ早口で迫ってくるんですよ? わかるわけないじゃん。


「――――――! ―――――!? ―――!!!」


 しかしわからない為に無言だった俺をシカトされたと勘違いしたのか、激昂した強盗はその手に持った拳銃で俺の頬を思いっきり打ち付けてきた。いわば鉄の塊で顔を打っ叩かれたわけだから、かな~~~~り痛かった。その衝撃で2つほど歯が折れるくらいだったしね。

 俺のうめき声に周りの空気が静まりかえっていた。その静かな場所に隣にいた少女の泣き声が大音量で響き渡った。まずいと思ったよ。目の前にいる強盗の男は実に短気だ。そして今は更に緊張も相まって、子供だからなんて言い訳すら通用しない状態だろう。おそらく「黙れ」とか「静かにしろ」と何回も言い放っていたけど、少女は更に泣き続け、男は平手までかましやがった。

 いやいや痛みで子供が泣き止むわけないだろう。と意識朦朧としていた俺はツッコミを心の中で入れていたが予想通り少女の泣き声は絶叫の域にまで跳ね上がった。当然の結果ではあったがなんと強盗は拳銃を真上に発泡してその銃口を少女に向けてみせた。


「―――! ――――!!」


 錯乱する少女に恫喝なんてしても黙るはずないだろうに。だが焦りを見せる強盗はその引き金を引いてもおかしくない。いまだに激痛走る体を起こしておれは少女を抱きしめる。子供をあやすには万国共通、抱擁が一番有効だろうことは明白だ。母親の愛を忘れてしまったであろう強盗では思う付きもしないのは仕方ないのかもしれませんがね。

 俺は左手で少女を抱え、右手を強盗へと突き出して牽制する。これ以上しても少女が泣きわめくだけだと悟ったのか舌打ちを残して強盗は離れていってくれた。

 ああダメだねって心底確認できたよ、悪はやっぱりだめだね。











 こういう大きな人質事件は時間が掛かってしまうものだが、なぜかその日の夕方には話が付いたらしく俺たちは開放されることになったらしい。どうやら強盗達は身代金を受け取りそのまま飛行機で海外に逃走するようだ。人質もすでに何人か開放されており、残りは老人と子供の10名ほどとなっていた。この残し方から察するに犯人の首謀者はかなり頭が切れるらしい。もしも警官が突撃を敢行した際にろくに動けない老人は助けづらく、指示も聞けずに混乱するであろう子供は邪魔にすらなる。

 開放されていく人質達と、逃走の用意をする強盗たちを俺は隣の少女と手を繋ぎないで見つめていた。助かると思ってやっと安堵していた俺は周りの様子に気をかけれるほどには落ち着くことができていた。そして気づいた、強盗の内の一人の視線が隣の少女に度々向けられているということを。

 その目の色を見た時、あることを思い出す。おみやげに買ってきた評判のショートケーキを食い入るように見つめる母の目を。そうあれは欲望に駆られてそれを見ずにはいられない、獲物を狙う目だ。完全に肉食系の顔をしていましたよ母上。

 それに気付いた時、その男はリーダーらしき男と何かを話しだす。リーダーがこちらを一瞥し首を縦に振ると、男はこちらに向かってきた。

 ああわかる、わかってしまった。こいつがロリータでコンプレックスなお方で、今まさに隣の少女をその歯牙にかけることを決めたことが。迫り来る足音に動悸が早まり、流れ出る汗が冷えていき、口の中は一滴も残さず乾いていた。


「スタンドアップ」


 ゆっくりと立てと少女に命令しその腕を掴むロリコン野郎。それを見て俺の脳裏には少女にとって最悪の結果が浮かび上がる。

 そして俺にそれを見過ごしてしまうなんて選択肢は無かった。


「うおおおおおおおお」


 自分を奮いたたせる為に吠え、男の顔面に鉄拳を食らわせてやった。なかなか良いあたりを出したはずだったが、男を気絶させるには至らなかった。急な痛みに焦りながらもこちらを認識した強盗は右の腰にぶら下げた拳銃を引き抜こうとする。すぐさま俺は接近し左手で男の右手を持って構えようとしたピストルを押さえ込んだ。そして右手で相手の襟首を持って体勢を崩し3メートルほど向こうにあった壁へと走る速度で押し付ける。銃への恐怖で無我夢中であったが背中を強打した男はその衝撃に僅かに怯むのを見て、その隙に掴んだ右腕の手首に親指をめり込めせる。あまりの激痛に男は思わず拳銃を地面に落とした。

 絶好のチャンスに空手の奥義、短くではあるが息吹をあげて右手を引き戻す。


「セイヤッ!!!」


 全身全霊渾身の正拳突きは男の喉に命中し、その生命活動を停止させた。残心を取る俺の目の前の鬼畜野郎は地面へと崩れ落ちた。それは開始から5秒ほどの出来事だったほずだが、俺にはまるでスローモーションな世界に迷い込んだようだった。

 そして3発の銃声が響き渡る。

 






 人一人、その身一つでできることなんてたかがしれてる。そして俺が出来たのはこのロリコン野郎を再起不能にして少女にせまる辱めを退けるので精一杯だ。

 わかってたとも、その結果、死ぬことになるとは。

 仲間をやられた他の強盗はすぐさま俺を拳銃で撃ちぬいた。急所には当たらず、即死はしなかったものの右胸と左足に二発命中して俺はすでに一応立ってはいるが瀕死の状態。まあ満足……かな、目的は達成できたさ。俺に銃口を向ける男を睨み返す。止めを刺すために引き金を引く様がとてもスローモーションに見えていた。


(これが走馬灯ってやつなのかな)


 両親と友人に謝罪の念を抱きながら目を閉じて行く。しかしその寸前に男との射線上に金髪の少女が立ちはだかる。

 いやいやいやいやいやいや、せっかく助けたのに何やってんのよこの子! 終えようとした思考と消えかけた体の力が一瞬にしてマグマのように湧き上がる。細い腕を引いて体の位置を入れ替える。最後に放たれた弾丸は首を僅かに削っていった。知ってた? 銃で撃たれるとすっごい熱いんだぜ。ちなみに俺が首を打たれた瞬間に考えていたことは―――


(女の子って柔らかいんだな)


 である。さっきまでロリコン野郎死ね! って頑張ってたはずだが俺にも疑惑が……。もはや半死半生の身にしてはやけに心に余裕があるな。

 抱きしめていた少女の無事を確認して映画のワンシーンとしては悪くない位置だな、なんて思いながら笑顔でその場に倒れる俺。


「―――!? ――――――――――!!」


 いやイタイイタイ痛いよ若者よ。少女が俺をゆすりながら何かを必死に叫んでいる。すまんもっと英語の授業真面目に聞いてりゃよかったな、まったくわからん。

 そんな声と一緒に遠方からけたたましく銃声が聞こえてくる。この量からして、たぶん警察がさっきの銃声を聞いて突撃してきたかな。よかった、どうやら少女は無事に帰れそうだ。

 意識が消えて行くのを感じる。木堂正志の終わり、それを実感して心配そうに涙を流して声をかけてくれる少女の頭を撫でて、最後に先に逝く者から言葉を送っておこう。

 そう、偉大な偉人が残した俺の好きな英語の格言。


「Boys, be……ambitious……(少年よ、大志を抱け)」


 そうやって俺こと木堂正志の第一幕は終了したのである。




















「って相手は少女やないかーーーーーい!!!」


 最後にやってしまった大間違いにエセ関西弁風にツッコミを入れた場所は、真っ白でありながら揺れているのがみてとれる不思議な不思議な空間だった。


思いついて書き出したら二日間の記憶が消えたでござる。


よければ感想お願いしたいで申す。



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