部活
「よーい」
パァン!
ピストルの音が鳴り響く。と同時に右足をけりだして走る。走る。走る。
50メートルってこんなに長かっただろうか。横に並んでいた比奈も詩織もあっという間に私を追い抜いていく。ちょっと待ってよ、おいていかないでよう。心の中で叫びながら走りぬく。
ゴール!したのもつかの間、また元の位置に戻って列に並ぶ。ハァハァと肩で息をしながら、また走る。走る。走る。いつまで続くんだ、これは。
当たり前のように、すいすい走っていく他の人たちが信じられなかった。当たり前だ、運動なんて中学卒業以来していないし、私はそもそも運動部になんて入る予定はこれっぽっちもなかったのだ。それに私は、選手じゃないし、こんなことをする予定じゃなかったのだ。
なんでこんなことになってしまったのか。
また銃声が聞こえ、私は自分の足にむちうちまた走りながら、こうなった原因を思い出していた。
気泉高校に入学して、一週間。
私はまだ何部に所属するかを決めかねていた。気泉高校は、規則上必ず何かの部に所属しなければならなかったのだ。
運動部は絶対嫌だし、マネージャーには憧れていたけれど、すでにどこの部活も可愛い女の子でひしめきあっていた。
サボれると噂の家庭部は、上級生がギャルみたいな人たちでいっぱいで何だか怖かったし。
中学からの仲の良い子は、みんな中学から続けていたバスケやらバレー部に決めてしまって、私は困ってしまっていた。
今日中に決めなければいけないのに。
「葉子!」
昼休み、悶々と1人教室で悩んでいると、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。
声のするほうを向くと、廊下で小柄でショートの女の子がこっちに向かって手を振っている。
「あ、詩織!どうしたの?珍しいじゃん、こんなとこくるなんて」
詩織は、葉子の幼馴染である。高校は同じでも、学科が違うため、あまり学校で会うこともないのだけれど。
「や、葉子さ、部活決まった?」
待ってました!といわんばかりに、私は詩織の手を握った。
目はきっと輝いていたと思う。
「決まってない!!!!」
「良かったー!じゃあさ、一緒に同じの入ろうよ」
このときの私には、詩織が天使か神様か何かのように見えていたんだと思う。うんうんと勢いよく頭をふると詩織は笑った。
「陸上部なんだけど・・・」
りくじょうぶ・・・?
なんでまたそんな?詩織は確か中学はバレー部だったはずだし・・・?
?マークを浮かべる私に、詩織は言った。
「といっても、マネージャーね?なんか凄いゆるくてさぼれるらしいからどうかなーって」
OH!まさに私の求めていたものである。部活部活した上下関係なんて、もう中学でこりごりなのだ。なにしろ運動なんてもうしたくない。
私は二つ返事をし、詩織と陸上部に入ることに決めたのだった。
まさかこれが、詩織の陸上部に私を入れるためのうそだとは露知らず・・
放課後、私と詩織は、3-Bの教室前にたっていた。
扉には「陸上部」の文字。
だけれど、中々入る勇気がない。