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武術の練習場所についていろいろ苦労しているよという話

 先日、某所で漫画のワンシーンで武術を練習している場面を書きたいんだけど、どんな雰囲気なんですか? と聞いてきた人にこんな感じですよとちょっと答える機会があった。

 たまには、というか初期の執筆動機に戻ってこういう堅実なのを書いてみようと思ったのでちょっとそういう方向で。

 某武術とか某道とかについて書こうと資料を漁り始めたら、自分だけが楽しくなって全然書けなくなる事に気づいたので、そちらはぼちぼち書いていきます。

 何回か分をどんな所で練習しているの? お金とかどうなの? 教えている方の事情はどういった感じなの? という話題でいくつか。

 今回は武術の練習場所の話。

 中国武術や古武術などといってもこの現代、それっぽい練習場所を確保するのも大変なのだ。

 柔剣道場を借りられればよいが、ちょっと人口の多い所になると少年団の柔道やら剣道やら空手やら少林寺拳法やらの予定がびっしり入っていて、会場おさえるのも大変なのである。

 道場スペースが半分で区切られていることもあるが、向こう半分でお子さんたちが元気に空手やってて、こっちで怪しいおっさんたちが不審な動きをしたりしているのは、お子さんの情操教育とか、お迎えの保護者の方の視線が痛かったりするのである。

 我々だって空気は読みますよ。


 畳にこだわらなければ床のタイプの体育施設がある。

 大きな音を出しても大丈夫だし、変な部外者は入ってこないし、何より入場料をとったり中で何かを売るような催事で無い限り、会場費が圧倒的に安い。

 ところが今は市民体育館どころか小中学校の体育館も案外人気で、社会人バスケのサークルやらフットサルのチームやらの予定が入っていたりするし、公民館も詩吟の会やら水彩教室やらお年よりも一般市民の方が大変がんばってらっしゃるのである。

 そんなことは多くはないが、武術を専業にして昼間の教授時間を確保しているような人もいるわけだが、武術なんて荒事に興味のある人は大抵が男性が多く、かつ年齢も高めなわけで、日中では生徒のほうが集まらないから、激戦区の時間帯ので練習場所を確保しなければならない。



 余談であるが、本門でないけれど「しのぎ」として、お年寄りや主婦の方を相手に太極拳を教えて平日昼間を乗り切っている人も存在する。

 というか、昔はけっこういた。

 本に載っている24式の簡化太極拳を見て覚えたとか、国営放送の太極拳講座をビデオに録画してそれで形だけ覚えたというシロモノで、昔はそれが通ったというのだからすさまじい話だ。

 今は簡化の24式といえば、日本でのある大団体が公認技能検定制度として級段制度を取り入れ、5級から始まって3段まで、全てストレートで一発合格したとして年数が3年、受験料と登録料に15万以上かかるという素晴らしい商売をやっていて、中国商人のぼったくりも凄いが日本もなかなかやるじゃないかと大いに感心したものである。

 中国の人が入り口として適当に3ヶ月ぐらい練習して48式なんかに進んだり、お年寄りの運動不足解消の健康体操代わりに適当にやってたりする程度のものに、3年もかけさせた上に使えなさそうな用法(※個人の感想です)も丁寧に伝えてお金もいただく、しかも中国本土とは一切関係ないその団体の資格なので向こうに上納金を納めなくてもいいとか、頭いいね!

 筆者には少しも魅力的には思えないが(※個人の感想です)、その集金システムにあわてた中国が自分の国でも段位制度を導入したぐらいのすごい制度なんであります。

 そういうわけで、本場中国で太極拳を学んで帰ってきたら、生徒さんに「近所のフィットネスで教えている人は3段らしいんですけど、先生は段をお持ちじゃないんですか……」とがっかりされたという心温まる話を7~8年ぐらい前に聞いた。

 今はどうだか知らぬ。


 話がそれたついでに、バブル時代にフィットネスで太極拳教室やっていた人にうかがった当時の太極拳バブルの話を書くが、数十分一講座の指導で生徒数が20人以上、週に10コマぐらい受け持ちで、一ヶ月の受講料が一人5千円として、だいたい月100万以上のあがりがあったという夢のような時代だったそうな。

 バブルやばい。



 何か金額とか人数のスケールがだいぶ隔たった20年近く前の話をしてしまったが、話を現代に戻す。

 まあそんなこんなで、皆さん本業を別に持っている人が大半なわけであり、夕方以降や土日に練習会場を確保するために大変がんばっているのだ。

 学校施設や地元の体育施設は、適度に公的イベントや地元の公共イベントや大会があって、その場合はそちらが優先されてしまうので、時期によっては「会場が使えないので今週はお休みです」が3週続くような目にあう。

 日曜祝日に外部の人を呼ぶ講習会でもやるかと、よーしがんばって雑誌に告知出すぞー、と盛り上がって、他県の人も来るからと新幹線駅が近くにあるような場所で会場を確保しようとすると、それなりの広さで大きな音が出ても大丈夫な公共施設が演劇サークルとかコーラスの会なんかが3ヶ月以上前からずっと使用予約が入れていて、悶絶することがある。

 畳のある座敷形式の会場を借りたときは、終わった後の掃除を念入りにやって掃き集めたゴミも袋に入れて外で捨てるぐらいの気はつかっておかないと、おたくが使った後は畳の減りが激しい、ケバが大量に出てる、もう使わせないといわれる事があるので注意が必要である。(仲間の実話)

 また、けっこう床が厚くて防音もしっかりしている会議場のような場所でも、5人10人ぐらいだとそうでもないが、20人以上参加の講習会を行なっていたら、途中で会場の事務所からでかい足音が響くので止めて欲しいといわれ、その後利用禁止をくらったことがある。

 その時は脱力した手足を床に打ち付けるような事を色々やっていたのだが、いつもの練習(10人以下)では大丈夫だったので気にしてなかったところ、かなりの音が響いてしまったらしい。

 数の力は偉大である。


 お寺でイベントによっては会場として貸す準備があるところがあって、今でも落語の会なんかを引き受けているところがあるようだが、どこどこの寺で剣術を教えているなどというような話は昔は聞いたことがあったが、今もそういうのはあるのだろうか?

 新興宗教団体が自分たちの施設をご近所に開放していて、そこを借りて武術を教えているような人の話もある。

 新興宗教というとあやしげなカルトを連想する人もいるかもしれないが、明治以降に生まれて今では新規に信者は入っていないが三代前から入信しているので今もなんとなく続けている、ぐらいのゆるい団体はそこそこ数があって、けっこう地域密着型でその辺に色々集会所があるものである。

 信者なのでなんとかそこを借りてやってますとか、相当なレアケースだがみんな会場とりに四苦八苦しない落ち着いた練習場所は欲しい。



 公園でやってらっしゃる団体もある。

 しかし公園というのは市民の憩いの場であり、この頃は子供が野球をやっていても近所のお年寄りから警察に「子供が騒いでいる」と通報が入る世の中であるわけで、そんな所に怪しげないい歳した男性が数人集まってエイヤエイヤと動いたり、相手の体を打ったり、あまつさえ投げ飛ばしていたりすると、当然おまわりさんがやってくるのである。

 昔はおまわりさんに事情を話すと納得してくれたようだが、この頃は苦情があるので控えてくれ、と言われたりすることもある。

 とはいえ、都市に行けば市民に開放されたレクリエーション的な広く芝も植えてある、人に優しい公園もあり、まだまだ公園で教えています、というところはある。

 土手沿いの運動スペースは団体の練習場所というより、個人が練習している場所として根強く残っていると思う。

 やはり民家から距離があるのとないのとでは、おまわりさんとの遭遇率が違う。

 昔は公園といえば、ヤンキーや不良のたまり場というイメージがあったが、この頃はそこそこ広い駐車場のような人がたむろできるスペースがあってすぐ飲み物が買えて、年齢確認が厳しくなったが酒もタバコもあって雑誌も読める! というコンビニが大人気のようなので、案外そういうのが寄ってきたりはしない。

 たまに付き合ってるんだか付き合ってないんだか分かんない感じの学校帰りの中高校生の男女が、公園に入るわけでもなく入り口付近で親しげに笑いながら長時間会話していたりして、しかも時々聞こえてないと思ってるようだが思い切り聞き取れる声で「なにあれー」「さー?」とか言っていたりするという事案がある。

 ああいうのはこちらも、「あの子たち、つきあってんのかねー」「いやー部活の先輩後輩とかじゃないですかあ」とか聞こえるように会話するべきなのであろうか。

 


 武術などをやっている人で整体・整骨院であるとか、鍼灸院であるとかを仕事にしている人の率はそれなりに高いような印象があるのだが(※個人の印象です)、そういう人で自分でスペースを借りて営業している人は、閉院後に気功やらヨガやらの教室を開いていることがある。

 もちろん武術を教えていたりも。

 雑居ビルなんかで、周囲の入居している事務所や店が閉まったり、土日に休みを取るようなタイプのものであると、全く気兼ねせず集まって練習ができて、なかなかよろしいそうな。

 あまり大人数は無理のようだが、3人とか5人のぐらいの練習会的な集まりでは特に問題がないようだ。



 自前で道場や練習場を持っているところもある。

 めずらしいが、大組織でなくともそういうところはごくたまにある。

 資産家であるとか土地持ちであるとか、代々持ってるというような恵まれたタイプのもの。

 20年ぐらい前だったか、鹿児島の示現流が代々持っている練習場があるのだが宗家の東郷家が持っている個人資産なので、今の宗家が亡くなったら相続税を払いきれずに手放すしかない、という事態が起きたらしい。宗家が生きてる間に法人化しようという話を進行していたら、その手続きの最中に当時の宗家が急逝され、えらいこっちゃ道場存続の危機! という事態になったというニュースを新聞で読んだことがある。

 あれからどうしたのかと思って後に調べたら、どうにか道場を手放さずにすんだらしい。

 道場のようなものは個人が持ってたら持ってたで、維持費やら税金やら、あるいは大人になったお子さんが「数人しか弟子がいないんだから潰してアパートかマンション建てよう」と言い出すとか、色々あるみたいですよ。

 畳だって、定期的に新しいものに入れ替えないといけない。


 ガレージや廃倉庫を安く買い取って、なんとか練習できる程度に改造しましたとか、使ってない納屋を最低限改装しましたとか、そういうレベルのものもある。

 ただまあ、こういう「大人の秘密基地」的雰囲気の練習場所を用意されているようなタイプは、大体おっさんの趣味的武術空間になりがちで、子供とか女性は入ってきたりしないので、団体としての将来性があんまりないような……。(偏見)

 週に二回市民体育館で教えています、というのと、自宅のガレージで教えています、というのとではたいぶ印象が違いますからな。


 後はまあ、中国なんかであったりするが、拝師門徒といわれるような少数の内弟子を相手にするためにしか使わない場所を自宅に用意されている所もある。

 打ちっぱなしのコンクリートの空間で、四方の壁に体がぶつかっても大丈夫な衝撃吸収用のマットを貼り付けてあるようなごくごく殺風景なものとか。

 あるいは床に太極図や八卦図が描いてあるのに、壁際にソファーが置いてあって、弟子を指導している向こうで、お茶を飲んでる奥さんとか、タバコ吸ってる息子さんがバリバリ目に入るという、シュールな光景もある。

 中国に留学したときに民間の武術家の所で学んだという人の話では、中国人というのは平気で練習の途中で入ってきて好きな時間に出て行ったり、勝手に休憩取って飲み物を飲んだりタバコ吸ってたりフリーダムだという事だった。

 ただしダラダラしつつも、総練習時間は毎日3時間4時間とか平気なのだが、日本は無駄に規律正しい練習を求めるくせに週に一回1時間半や2時間とかいうのはなんなんだ、こんなの身につくわけないだろ、などと言われたことがあるのだが、何しろ十数年前のことなので、今ではもうそんなゆるやかな時間感覚の練習はしていないかもしれない。

 中国への武術留学は半ば観光ビジネスの一部となっている部分もあり、中国のほうでもアジア大会競技程度ではうまみが少なく、やはりオリンピック競技に引き上げたいと思っていたり、体育学院等でビジネスにしたいと考えていたりするので、有名老師に直接あずけるような事はなく、各地の体育学院やら武術学校やらの施設に直行となっているようだ。

 今回ちょっと書いたが、次回は武術とゼニカネの話をまとまって書こうかと。

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