拳脚は武器の縮短
「武器は手足の延長」という文句がある。
だが、実際にはその逆と考えたほうが良いのでは? という事がいくつもある。
あれこれ書いてみたい。
中国武術などでは「武器は手足の延長」と説明されることがある。
出典は不明だが、大変広く知られている言葉である。
長くて重いものほど扱いづらく、また短かったり小さくても特殊な形状をしている場合は下手すると自分が怪我するおそれもあり、素手の時とは緊張感が違ってくる。
そうすると素手で自由に動いている時と違い、制限が加わるために戸惑うこととなる。
その際、武器を体の一部のように違和感なく使わせるため、またはその武器以外のその流派の体の応用として使わせるために、「武器は手足がそのまま延長したもののように扱ってみろ」と伝える。
初心の頃には大変わかりやすい。
だが、素手の拳術と同時に武器術を伝えている体系の場合、しばらくするとどうもこれは逆で、武器を使っている時のノウハウが素手の技術にフィードバックされているのじゃなかろうか、と思えるようになってくる。
人間を単なる動物として見た場合、その身体に特有の武器は何か? と確認してみると、それは爪と歯だ。
どちらも相手の肌から筋肉にかけてを鋭く切り裂くことが出来る。
競技格闘技で噛みつきとひっかきがルールで禁止されているのは、技術もへったくれもないとか、見た目が動物的で見苦しいというのも当然あるが、根本は大変有効だからである。
噛みつきはともかくひっかかれてダメージがあるのか疑問な人は、一切の躊躇なく強めに自分の腕なんかをひっかいてみれば分かるが、かなりかんたんに皮膚がざっくり裂ける。(もちろん本当にする必要はないけれど)
実は武術なんかで、爪でひっかく場所や方法、噛みつく時の力の入れ方なんかを伝えている所もある。
誰が試したんだと正直ドンびきだが、絵ヅラはともかく(ビジュアル的には狂人か悪人ぽい)効果はかなりある。
ちなみに爪を使う場合は爪に毒を塗るというのがメジャーな方法だ。
(使う側は解毒薬を前もって飲んでおく)
そこから考えると、素手の格闘術として「蹴る」であるとか「殴る」という動作は、はるかに威力がない。
手も足も、何がしかの鍛錬や相手に当てる角度を練習しないと、結構簡単に壊れてしまう。
また、手首も足首も細くて簡単に曲がる部分なので、軽い力であればたいしたことにはならないが、興奮して力が入った状態で変な角度で当ててしまうと痛めてしまうおそれがある。
最初に自然発生した相手を害するための技術は、多分、木の枝などの棒状のものを振り回す、または石を持って相手に叩きつけるという、自分の体に負担をかけないものであった可能性が高い。
そういった手軽な範囲で威力とリーチを考えると、やはり棒が最初にくるのではないかと思われる。
ある程度の距離を加速させ、遠心力を利用して威力ある先端を相手に叩きつける。
拳の場合は振り打ち(圏捶)などと言われる打ち方だが、これは棒を振り回す、振り下ろすという打ち方から導かれたものだと思われる。
形意拳という中国武術で、「劈拳」という最初に基本として徹底的に仕込まれる技があるが、それは相手に向かって打ち下ろすように掌を叩きつける型となっている。
現在は素手の拳術から修練するため、単純なパンチと比べて威力が実感できないわ、まわりくどく打っているようにしか見えないわ、なんでこんな動きで威力が得られると先生が言うのか、そしてその原理を先生が説明してくれないわと、初心者が大変もだえる技であるが、実はその動作は両手で棒を持って相手に叩きつける動きそのままであると理解すると、かなり早期に威力を実感することが出来る。
そして「突き」。
空手にしろ中国武術にしろ、基本の突きの動作というのは、現代のようにボクシングなどをよく目にしている人間にとっては、なんでわざわざこんな大げさな動きなのか、片方の腕を前に突き出すと同時にもう片方ははっきりわかるほど後方に引くのか、理解に苦しむことが多いと思われる。
これも、実は棒を振り当てる動きが根本にあると考えると分かりやすい。
両手の間隔を肩幅前後に開いて握った棒を、水平に近い高さで相手に振り当てた際、片方は相手に突き出すように、片方は自分の胴体に引き寄せるように動かすことで相手を打つ。
素手の突きについては相手に槍を突き刺すように突く、武器の中段の突きを連想しやすいが、そういった動きでは引き手の説明がつかない。
空手に山突きという、両拳を違う高さで同時に突き出すという、これを実際に使うシチュエーションが世の中に存在するのか的動作があるが、あれも元は両手で長い棒を持った、下から振り上げるように打つ・払うという動作が元であると考えると理解できるのではないかと思う。
ただし、これは空手の門外漢の意見であるということは断っておく。
何となく久々に書いてみた。
いずれ文章を追加するかもしれないし、しないかもしれない。