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呪い発動まであと数年。それなのに今生でも王太子は聖女に夢中……。ならば私は田舎でのんびり暮らします。アデュー!  作者: ゆずまめ鯉


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九話「妹ガチ勢の兄が、会いに来てしまった件について」

 お日様の匂いのする、羽毛入りのふかふかしたクッションに抱きつき、ぐっすり眠っているというのに、誰かが肩を揺さぶり邪魔してくる。キャッキャという楽しそうな声からして、じゃじゃ馬三人娘だろう。私に敵意を剥きだしにしている、マティルダ、ジョーン、そしてブランシュは、夢の中ですら妨害したいらしい。けれども屈するつもりはない。


「──お嬢様、大変です。起きてください、お嬢様!!」


 羊毛のブランケットをかぶって、もう一度眠ろうとしたのに、なんと剥ぎ取られてしまった。眩しいじゃないか。寒くはないが返してほしい。


「もう、なに……こんな早くに起こして……ぐう」

「早くないです、十時です! それより、オーガスト様たちがいらしてますよ!」

「あっそう……」

「あっそうって、いいんですか? オッペンハイム家に連れ戻されますよ?」


 オーガスト? オッペンハイム?


「………………え!?」


 ようやく飛び起きた。王都を出発してまだ四日くらいだというのに、オーガストの名前を聞いて一気に目が覚めてしまった。


「もう来ちゃったの?」

「ええ。います」

「視察で三日くらい不在にするって話は?」

「不在にしても、転移魔法でさくっと帰って来られるじゃないですか」

「それもそうか」


 急いで寝巻きから着替えて寝室を出ると、狭い家屋だというのにオッペンハイム三兄弟の姿があった。長男で十八歳のオーガスト、次男で十六歳のエルンスト、三男で十四歳のロジャーと農村で再会する。魅了魔石を手放したというのに、こんなにすぐ会いに来られるとは想定外だ。


「エリスティア! 見ない間にやつれたんじゃないか? ちゃんと食べているか!?」

「食べているよ、オーガスト兄さん」

「エリスティア。家出の計画をしているのなら、事前に相談するべきだ。十年も一緒に過ごしたのに、水臭いのは好ましくない」

「急に決めたからね、エルンスト兄さん」

「こんなボロ屋に住んでいるのか? 虫とか平気か? 俺が退治しようか?」

「住めば都だし、虫はハーブがあるから平気だよ、ロジャー兄さん」


 計画を教えていれば協力したのに、と拗ねられる。どうやらオッペンハイム家に連れ帰るつもりはないらしい。


「王太子宛ての手紙は、ちゃんと本人に渡しておいたぞ。でも、居場所は死んでも教えないから安心しなさい」

「ありがとう」


 王太子のことはすっかり忘れていた。聖女とよろしくやっているだろうね。


「しばらくはここから学校に通うとして、住む場所を確保しなければならない」

「えっ!? 住むの!?」

「当然だ。お前にとって、安全な場所かはまだわからないからな」


 てっきりすぐ帰ると思いきや、村に留まると言い出したので苦笑した。生まれてからずっと貴族の大豪邸で暮らしているというのに、こんな田舎で果たして我慢できるのだろうか。


「教会とは話をつけてある」

「え、もう?」

「当然だ。だが、我々が住むには適さないから、これから職人を呼んで増築させる」

「…………」


 さすが貴族の坊ちゃんらしい考えだなと感心してしまった。

 有言実行と言わんばかりに、転移魔法で石材と職人数名を運び、施工を開始したのが午前十時過ぎ。いきなり村に現れた貴族の正体が、私の兄だと知るや否や、手伝いを買って出た村人のおかげで礼拝堂を増築してしまった。五時間足らずだった。

 風魔法を使ったので、重い石でも自由自在に運べたのも大きい。それにエルンストは火、ロジャーは土魔法と建築するにはうってつけだ。三人いれば造作もない。

 さすがの司祭も、礼拝堂のすぐ隣にそびえ立つ、立派な石造りの建物を目にして腰を抜かしていた。修繕の許可は与えたが、まさか本格的な家が建つとは想定していなかったらしい。


「これは、想像していなかったなァ……」

「そうですか? 私は、いずれこうなるだろうと思ってましたよ。重度の妹愛好家ですからね」


 礼拝堂の隣に建った、立派過ぎる二階建ての石造建築を目にしてぽつりと漏らすと、エリーゼは冷静だった。


「どうだ? 突貫のわりには、しっかりしている造りだろう? エリスティアの部屋もちゃんとあるぞ」


 誇らしげなオーガストに自慢されるも、ここで褒めてしまうと調子に乗らせてしまうので、視線を逸らした。


「私はいいよ。エリーゼとルシフェルが掃除してくれた家があるから」

「犬小屋みたいな狭さなのにいいのか? 窮屈だろう?」

「狭い方が落ち着くんだ」


 十回の人生のうち、共同部屋で寝起きしていた回数は六回だったので、狭くても広くても気にしたことはないが、断るための口実がほしかったので嘘を吐く。


「そうか……それなら、せめて夕飯だけでも食べに来なさい。シェフが腕によりをかけて、エリスティアのためにローストビーフを作るからな!」

「あー……悪いけど、そんなにお腹空いてないんだ。だから兄さんたちだけで食べて」

「な、なんだって!? 食い意地が張っているお前が遠慮するだなんて……まさか具合が悪いのか!? 王都から医者を連れてくるか!?」

「……正常だよ」


 ローストビーフと耳にして一瞬、揺らいだのは事実だけれど、食い意地を張っているつもりはなかったので、そう指摘されて心外だった。


「ねえ、エリーゼ。私って食い意地張ってる?」

「ノーコメントでお願いします」

「ええ……」


 本格的に住居を整えられてしまい、嫌な予感がしていたが、それは見事に的中してしまった。なかなか王都に帰ろうとはせず、それとなく追い返そうとしても、のらりくらりと理由をつけて交わされる。村人の子どもと遊ぶ約束をしただとか、風魔法で荷物を運ぶ約束をしただとか、火魔法でパンを焼くのを手伝うだとか、土魔法で土を耕すだとか、次から次へと述べられるのでお手上げだ。

 長男のオーガストは学業の他に、オッペンハイム家で公爵の仕事の一部を引き継いでいるし、エルンストとロジャーも学生だ。日中は不在にしているのに、夕方になるとなぜか我が物顔で村にいた。

 エリーゼやルシフェルに、どうすれば兄たちを王都に留めさせることができるか相談したけれど、二人揃って『無理』と即答するだけで役には立たなかった。しばらく頭を悩ませることになるとは思いもしなかった。

2026/4/2現在 本編15話執筆中、推敲は10話まで終わっております。

先ほど間違えて9話ではなく、10話を載せてしまい慌てて消しました。

全50話予定で4月中に完結予定です。

推敲は一度しただけなので、タイトルやらなんやら後から色々と直す場合もございます。

よろしくお願いします。


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