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呪い発動まであと数年。それなのに今生でも王太子は聖女に夢中……。ならば私は田舎でのんびり暮らします。アデュー!  作者: ゆずまめ鯉


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七話「干ばつならお任せあれ」

 王都を出発し、途中で何度か馬を乗り替えること丸一日。小休憩を挟みながら八十キロほど北上した地点で、中規模の村を発見したので食料補給のために立ち寄ることにした。

 村に足を踏み入れると、緑が少ないな、というのが第一印象だった。北に進むにつれ、あまり雨が降らないのか、青々とした草が群生していなかった。


「こんにちは」

「……」


 視線が合ったので散歩をしていた老人に声をかけてみたものの、そのまま素通りされてしまった。村人は、いきなり現れたよそ者を好まず、警戒するものだ。遠巻きにされても仕方ない。

 日が暮れる前に教会へと立ち寄り、泊めてもらえないか交渉することにした。地方にある村には宿泊施設はなく、村長に泊めてもらうか、教会を頼るか、敷地だけ借りて野営するかのどれかだ。村長に断られないとも限らないので、手っ取り早い方を選んだ。


「私と姉や兄は、王都の生活に慣れず、安らげそうな地を探して旅をしている最中なんだ。一晩だけ、泊めてもらえないだろうか……?」


 村に入ってすぐ。石を積んで建てられた立派な教会があったのでお邪魔すると、初老を迎えたばかりであろう司祭が、箒でせっせと床を掃いていた。見るからに怪しい三人組が礼拝堂に現れても、笑みを崩すことはない。


「もちろん。私たちは誰であろうとも、等しく歓迎しますよ」

「ありがとう。お世話になるよ」


 予想通りに司祭の許可が下りたので、礼拝堂で休ませてもらえることになった。助かった。


「それともう一つ。馬たちに草を食べさせたいんだが、牧草か乾草はあるだろうか?」

「乾草なら少しありますが、二週間ほど前から雨がまったく降らなくなってしまい、牧草がまったく育たず困っているのです……」


 やはり水不足に陥っていたようだ。途中で目にした川の水嵩も、ところどころ干上がるほど浅くなっていた。


「なるほど。聖女ではないので雨乞いはできないけれど、水を降らせることなら可能だよ」

「ほ……本当ですか!?」

「うん。一晩泊めてもらう礼に、案内してもらえたら、辺り一帯潤すよ」

「ぜひともお願いします!!」


 教会の裏手には、司祭が一人で管理しているのか、作物の植えられた畑や牧草地が広がっていた。地面の土はすっかり乾いており、このまま数日雨が降らなければ枯れてしまうだろう。牧草地もところどころ剥げている。

 魅了魔石が手元にあれば、ここで水を大量に降らせても問題ないが、今はないので加減しなければならない。使い過ぎるとオーガストに探知されてしまうからだ。わずか二日の逃亡劇では目覚めが悪い。


「わあ……二週間ぶりの雨だ!」


 正確には、水を司る精霊と契約しているので、私の魔力を捧げる代わりに、雲を自由自在に操った精霊が水を降らせている。

 聖女の場合は、精霊契約ではなく大地に直接働きかけているので、雲を呼び寄せ雨を降らせる。自然に関する事象ならば彼女の方が得意だ。

 畑や牧草地に、水分が行き渡るようにと二十分ほど降らせると、司祭は大いに喜んだ。


「エリスティア様。急ぎの旅ではないのなら、一晩と言わず、しばらく滞在して頂けるとこちらとしても心強いのですが……」

「考えてみるよ」


 たった一度降らせただけでは、作物が育ちきらないことは熟知している。転生四回目で村に住むアナとして誕生したときに、野菜を育て、作物を売って生計を立てている両親の手伝いをして暮らしていた。上空が雨雲に覆われるまでは、私が精霊を呼び寄せ降らせるべきだろう。


「いいんですか? お嬢様。きっと明日には、村中から呼びに来ますよ?」

「いいよ、そのくらい。生きてるって感じがするし」

「はあ」

「領地視察で魔力を使う貴族は、なにも私だけではないから、兄さんも見落とすでしょ」

「そうですかねェ……見くびらない方がいいですよ。オッペンハイム兄弟は、重度のお嬢様愛好家ですから!」

「いや、さすがに心配ないって。もう手元にはないからね」

「手元にない……とは?」

「ほら、つい先日、私がもらった宝石の数々をキミたちが売りに行ったでしょ? 実はね、あれには兄さんたちの魔力が微力ながら込められていて、一つでもあると探知されやすかったんだよ」

「ああ、なるほど。だから手放したんですね!」


 エリーゼはようやく納得してくれたのか、大きく頷いた。よかった。無事に騙せたみたいだ。

 先ほどの説明は今さっき思いついたばかりの嘘八百だ。本当に厄介だったのは魅了魔石だ。魅了魔石が手元を離れた以上、オッペンハイム公爵家が私に抱いていた情も、徐々に薄れていくはずだ。なんともいえない寂しさを感じつつも、魅了魔石とはそういうものなので割り切るしかない。


「移動ばかりで疲れただろうし、軽く夕食を取って早めに寝ようか」

「そうですね。支度します」


 貴族がよく口にするやわらかい白パンは、当然ながらここにはない。王都を出発する前に、大量に仕入れた固めのライ麦パンとチーズがあるのでそれを食べようとしたところ、司祭が上機嫌で訪れ、農民から頂いたというミルクと野菜を分けてくれた。ミルクで煮たパン粥と、野菜を煮込みスープにアレンジしてから食欲を満たした。


***


 コケコッコー、という激しめの鶏の鳴き声で起こされ、二日目の朝が始まった。水魔法で桶に水を張り、顔を洗い、ボブヘアになってからというものすっかり癖のついてしまった髪の毛を、水で濡らして櫛で梳かしていた私のもとに、どこから聞きつけたのか、村人がさっそく押し寄せてきた。


「教会に、雨を操るお嬢ちゃんが訪問してるんだって!? 農作物が干からびて、このままだとまずいんだ。朝一番に来てくれないか!?」

「それなら、うちの畑も頼むよ!」

「そっちが終わったら、こっちもよろしく!」

「なあなあ、最後でもいいから来てくれないか!?」


 四、五人の男たちが礼拝堂に入るなり、我先にと言わんばかりに駆け寄ってくる。私に間違えられたエリーゼは、村人たちの勢いに苦笑いしている。

 そういえば、エリーゼもルシフェルも王都育ちだというから、圧倒されても不思議ではない。私は十回中、六回は貴族とは無縁の人生だったから慣れているけどね。


「順番に回るから、落ち着いて」

「お嬢ちゃんが降らせるのか!?」

「そうだよ。慣れているから任せて」

「そうかそうか! 報酬はなにがいい!? といっても、うちが出せるのは麦くらいだけどな!」

「無償だと頼みづらい人もいるだろうから、その辺は任せるよ。半分、修業みたいなものだからね。ああ、でも、どこか空き家があれば貸してほしいかな。礼拝堂にいつまでもいるわけにいかないからね」


 教会の仕事を手伝ってもかまわないが、声が響いて落ち着いて寝られないので、屋根と壁があるならどんな建物でもよかった。


「それなら、うちに使っていない小屋があるから、どうだ?」

「いやいや! お前さんところは、粗末で汚ねえ、風が吹けば屋根が吹っ飛ぶ犬小屋じゃねえか! それよりも立派な空き家があるから、ぜひともうちにきてくれ!」


 話し合いの結果、大工を生業としている村人保有の、外に炊事場もある小さめの家屋を近日中に借りられることになった。司祭に伝えると、教会から去ってしまうのかと落胆されたが、恐れ多すぎて礼拝堂では熟睡できないと伝えると、納得してもらえた。

 村を散策するついでに村長に挨拶したり、畑を潤して回ったり、ついでに昼食をご馳走になったり、午後からはまた畑を巡って日が暮れるまで尽力した。三十軒ほど回っただろうか。潤した礼にと、小麦や野菜、卵を分けてもらった。


「お疲れさまです、お嬢様。大活躍でしたね」

「そうかな?」


 少しでも誰かの役に立てたのなら幸いだ。


「エリスティア。青白い顔をしているが、平気か?」

「体調は悪くないよ。行く先々で差し入れをもらっていたから、魔力は常に生成されていたし、そこまで疲労してないかな」


 村人は、親切にされたお返しに食べさせることが好きらしく、終盤はちょっとだけ大変だった。それくらいだ。


「そうか。ならいいが……」

「ルシフェル。お嬢様が白いのはもとからよ?」

「まあ……そうだね。すぐ赤くなる体質だから、長時間、日に当たれなくて……」


 修道女や既婚者の中には、ウィンプルとよばれる黒い布を頭からかぶり、髪や顎を隠すものもいるが、私は日差し対策のために白い布を愛用していた。頭巾をかぶっていても、不審がられたことはない。


「滞在は二、三日の予定だったけど、しばらくまとまった雨は降りそうもないし、二人には悪いけど、もう少しここで暮らそうか」

「そうですね。なるべく目立たないようにしましょう」

「目立ったことないけどなァ……」


 定期的に畑に水を撒くためにも、しばらくの間、村を拠点にすることにした。

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