5話
キース司祭に話を通し、「一時的な保護」として申請をした。
幸い、彼はギルドカードを携帯していた。そのため、身分証明が早く済んだ。
貴族院からは、「より優秀な治癒師を育てることは、国の利益に繋がる」としてすんなり通った。
彼ら貴族からしたら、囲える治癒師が増える認識なのだろう。一時的な保護の名目だからだろう。
元冒険者なのか、傷の治りはかなり早かった。ユウシも「昔から、こうで。アレックスとか、もっと早いですよ」と笑っていた。
「ジャックさん、今日って座学ですよね?」
「えぇ。基礎の部分を行います」
教会の一室を借りて、魔法の指導をする。
空いた時間、ユウシは教会の仕事や鍛錬をしている。
「ユウシの魔力ですが、まず量・質共に問題はありません」
「ないんだ。意外っすね」
「えぇ。魔力計も問題が無いと出ていますので、恐らく魔法の使い方に問題があるのかと」
黒板に書いていく。今のユウシの状態と、魔法の使い方について。
「使い方……」
「ユウシは、どうやって魔法の使い方を覚えましたか?」
ずっと気になっていたことを問う。
師がいれば魔法の使い方を覚えるのは早い。実際、私は先代から教わって習得できた。
ユウシは腕を組んで唸っている。頑張って思い出そうと、記憶の引き出しを開けているのだろう。
その様子を見つつ、次の準備をする。鞄から、ナイフを取り出して机に置いておく。
「ん~~~……あ!!アレかも!」
「アレとは?」
「僕がまだ村にいたときに、流れの魔法使いが来たんですよ。その人から『君は、治癒魔法が使えるのか。最低限だけ、教えよう。あとは、治癒師に教わりなさい』って」
「流れの魔法使い……珍しいですね」
「変な人だったなぁ……。なんか……髪が虹色に輝いていたし……」
「眩しくないですか、それ」
(兄さんなら、知っていそう。……さすがに知らないですかね)
髪の件については、置いておこう。
恐らく、外から来た人間だろう。この国では、魔法を使う者は皆登録をする必要がある。
治癒魔法を使える人間は、特に限られている。
(その人は、全部の魔法を使える人なんでしょうね)
最低限だけ、教えられる知識がある。それならば、ユウシが初級だけ使えるのもうなずける。
「攻撃と防御系も教わったんですけど、なかなか上手くいかなくて――なんで、ナイフなんて机にあるんですか?」
「ユウシの魔法を見たいので、こうするためです」
自分の手のひらにナイフで傷をつける。
深く切りすぎたのか、じわじわとしみ出してきた。
ユウシは「え!?」と短い声を上げながら、私の元へ駆け寄る。
「何してるんですか!?」
手をかざし、治癒魔法を施す。
淡い光が手のひらを包む中、私は説明を始める。
「治癒魔法を使うためです。他人の魔力が読めるので、こうした方が早いかと思いまして」
「そういうの、いいんで!!やらないでください!」
慌てるユウシに疑問を抱く。
(効率が良い方法なんですけどね……)
みるみる塞がっていく傷。その様子を冷静に観察する。
(質・量問題なし。……魔力も、1種類だ)
怪我を治した日、なぜか魔力が2種類あった。今は、1種類しかない。
徐々に光が薄くなっていく。ほとんど塞がった傷を見て、ユウシはようやく息を吐いた。
「あ~~~……」
汗が噴き出し、床に座り込む。疲労が来たのか、立てそうには見えない。
「ユウシ、立てそうですか?」
「はい……なんとか……。いつも、こうなんで……」
さすがに担ぐのは難しいので、彼の目の前に椅子を置く。ユウシは、のろのろとしながらもなんとか椅子に座った。
水とタオルを出して、黒板へと追加で書いていく。
「パーティに所属しているときも同じでしたか?」
「はい……ガントかアレックスのどっちかに……運んで貰って……。は~~……流れの魔法使いに教えて貰ったときは、平気だったんだけどなぁ……」
息が整ったのか、水を一気に飲んでタオルで汗を拭く。
「恐らくですが、魔法の回路が上手く繋がっていないのでしょう」
「かいろ……?」
ユウシの状況を聞き、手元に置いてある書類に記載をしていく。
教会の蔵書である論文と照らし合わせ、魔法の使い方についてを示していく。
「魔法が使えないのは、魔力がない以外にあります。足りてないも入りますが、回路が繋がっていないことも原因の一つです」
「回路……」
「そうですね……。川の支流と本流ですね。今のユウシは、それぞれに魔力を流す支流が少ない。もしくは――」
「……あ、あぁ!そういうことか!!ということは、僕の魔力はどこかが開いてないか狭い可能性があるんだ……うわうわ、おもしろ!……で、ジャックさんは何を書いているんですか?」
「そうです」
手元を見て、不思議な顔をするユウシ。
「癖……ですね。書いておいた方が、見返すときにわかりやすいので。普段と違う様子とわかる時もあって」
「なるほど。エリザベス様も、事細かく書いてたしそう言うことかぁ」
一人うんうんと頷きながら納得するユウシ。
「ユウシも言ってましたが、これから半年ほどで魔力を全身に流す訓練を行います。同時進行で、魔法の基礎を。その後、半年は実技。一年後には、中級試験です」
「はぁ~~~……意外と、長いですね」
「あっという間ですよ」
コンコンと扉がノックされた。
入室を許可すると、私よりも年上のシスターが立っていた。
「マリー、どうしました?」
私の問いに呆れた顔をするマリー。
「どうしたじゃないでしょう、もう……。ユウシくんも、一緒?」
「こんにちは!」
元は私の教育係であり、今は私の補佐として働いて貰っている。優しげな目元に穏やかな雰囲気。金の長い髪を後ろに束ねてる。
「ジャック、貴方。忘れていることがあるでしょう?」
「わすれ……?」
エリーゼ様の治療?いや、あさってだから違う。
施し?これも違う。
手帳を確認すると、赤文字で。
『兄さん、帰国』
さぁっと、血の気が引いた。胸が詰まるような焦りが、全身を駆け巡る。
(忘れてた……!)
私はすぐさま部屋の片付けを行う。
「もうっ!ニルソンさん、もう来てるのよ!」
「い、いまっ!今から向かいます!ユウシ、今日は中止です!」
「ニルソンさん……?怖い人なんですか?」
ユウシが呟く。私が答えようとしたが、それよりも早くマリーが話を始めた。
「ジャックのお兄さんよ。身長が高いから、ちょっと怖く見えるかもしれないわね。ニルソン商会って聞いたことある?」
「あぁ!!!僕も使ったことがあります。あれ?でも、僕が使ったところは別の場所だったはず……」
「本店は王都なの。多額の寄付もしてくださるし、聡明で慈悲深い方よ」
「……そうでしょうか」
兄さんのことだ。計算で寄付をしているのだろう。多分。
「ジャックさん、僕が片付けますよ」
「い、いいえ!あと少しで終わるので、大丈夫です!マリー、先に行って兄さんに話を」
「……っふ。仕方ないわねぇ。ユウシくん、貴方は講堂の掃除をして欲しいのだけど」
「わかりました!」
少し呆れたような、楽しそうな声で出て行くマリーとユウシ。
何か言いたげなユウシだが、いったん置いておくとしよう。
「あ、ジャックさん」
「なんでしょうか?」
黒板を消している私に声をかけてくるユウシ。
振り向くと、真剣な顔の彼と何かを耐えているマリーの姿が見えた。
「……ジャックさんって、絵がその……個性的ですね……」
そんなことですか。
「絵のうまさよりも、伝わる方が大事ですから」




