27話
「国を出る!?」
分からない。
これほど好き勝手して、国を乗っ取ろうとしている動きすらあるのに。
なぜ、彼らはこの国を出ようとしているんだ?
『何人か、テンセイシャたちと接触した。曰く、彼らはすでに国に興味がない。興味がないというよりは、別の国に行く事に重きを置いている。さらに詳しく情報を集めたところ”この国を救うことが出来た。次は別の国を救いに行く”らしい』
「どっからの立場なんだ、そいつら」
「……分からないです」
彼らは、何がしたいのか。
ふとムライの言葉を思い出す。
――これで全称号コンプだ!
「称号コンプ……」
「ん?」
自分で思いついた考えだけど、まさか、そんなことで。
「テンセイシャたちは、『称号を取得した』から出ていくのではないでしょうか?」
「はぁ?」
呆れたような顔をするトレヴァー兄さん。私だって、同じ気持ちだ。
「ムライが言ってたんです。専属治癒師を交代する際に『これで全称号コンプだぜ』と。他のテンセイシャたちも、何らかの称号……。いえ、名声が欲しくて」
「それだけのことで、俺たちをここまで追い込んだと?」
ぎり、と音が聞こえそうなほど歯を食いしばるトレヴァー兄さん。
――そんなわけがない。
自分の仮説に、否を突きつける。
たったそれだけの理由で、こんなことをするなんてありえない。
(ですが、それが本当なら……)
焦燥感に囚われつつ、続きを読む。
衝撃的な文章が目に飛び込んできた。
『ムライも、国を出るそうだ。エリーゼを置いて。理由を聞くと、”王女様と旅に出るなんて、危険すぎる。彼女には、この国で俺の帰りを待っていてほしい”と得意げな顔で言ったそうだ』
王家専属治癒師の称号が欲しい。
それだけで、全てをひっかきまわしたムライ。
取るだけとって、専属治癒師の指名も果たさずに出ていこうとしているのか。
エリーゼ王女と結婚すると言っていたが、嘘だったのか。
(許せるわけがない……!)
彼らが使う洗脳魔法の範囲や効果は、不明だ。
今はまだ、いい。洗脳魔法と、テンセイシャが何とかしているから。
彼らが出て行って洗脳魔法が切れたら、どうするつもりだ。
(エリーゼ王女は絶望するだろう)
南国の王子との婚約は、恐らく契約切れだ。
外交を担う人たちが、どういう状況かが分からない。
もし、婚約が切れていた場合。
魔法が解けた時、エリーゼ王女は味わわなくてもよかった絶望に飲み込まれる。
ぐしゃ、と手紙を握りつぶす。
自分がしたことを棚に上げるなんて、自分らしくない。
それでも、あまりにも身勝手な彼らに怒りが止まらない。
冷静を保って手紙を読む。
『王家専属治癒師についても、聞いてみた。ムライは”コンプしたんだし、もういいじゃん”と。称号だけにしか興味がないようだ。彼は、王家専属治癒師自体には何ら興味もない』
「どこまで……。っ、馬鹿にするんですか!!!」
自分勝手だ。
私を教会から追い出したのも。
エリーゼ王女と結婚すると虚言を吐いたのも。
洗脳魔法を使ったのも。
仕事自体には興味がない。
「称号が欲しいだけなんて……!馬鹿げている……!」
慣れない大声で声帯が痛い。
「”王家御用達”を欲したのも、同じ理由か……」
静かに分析をするトレヴァー兄さん。
冷静な様子とは裏腹に、目には炎が灯っている。
「ニルソン商会を追いやっただけじゃなく、この国の物流や商品を独占しやがって……。あげく、出ていく?そんなもん、許されるわけがねぇ」
「トレヴァー兄さん、どうしますか?」
「ジャックは、どうしたい?」
「私は……」
鋭い視線で私を見つめてくるトレヴァー兄さん。
彼の中では、何かが決まっているのだろう。
だから、私に決断を委ねている。
「手紙を最後まで読んでからにします」
なぜ私宛てなのか、気になった。
トレヴァー兄さん宛にすれば、もっと話がスムーズだ。彼は、私よりも国の状況に詳しいはず。
それでも、レドモンド殿下は私に手紙を託した理由。
「レドモンド殿下が、私を。『ジャック・ニルソン』を選んだ理由がまだ書かれていない。読んでから、決めます」
「……わかった」
静かに頷くトレヴァー兄さん。
『キース司祭と影たちの情報をまとめ、今回テンセイシャたちの特徴をまとめた。別紙にまとめたから、見てほしい』
別の紙にまとめられていた情報を確認する。
・全員が「テンセイシャ」を名乗っている
・出身は同じだが、こことは別の世界から来たと言っている
・何らかの特別な魔法を使っている。デメリットはない
・全員が強烈な「救世主願望」を持っている
・彼らと会話をした人物が、彼らの味方をする
『話をしても通じず、否定され続ける。影たちが、もう話したくないと言ってきたのは初めてだ』
(全て、ムライに一致する……)
「ん……?」
別紙の裏紙に違和感を持つ。
なにかおかしい。
「どうした」
「……これだけ、紙が分厚くて……」
「分厚い?」
王族が使うような紙だ。粗雑な紙は使わないはず。
なのに、裏だけザラッとしている。
いや、違う。これ。
「別の紙……?」
力を入れると、がさッと音がして紙が2枚になった。
剥がれた方。裏紙だった手紙を見るも。
「……真っ白じゃねぇか」
「えぇ……」
なぜ?
カムフラージュ?
いや、封蝋でバレる。
見る人が見れば、一発でレドモンド殿下専用の封蝋だとわかる。
「魔力紙じゃねぇ?」
「いえ、違います……」
魔力を流しても反応しない。裏を見ても、何も書いていない。
(古い方法で、魔術文書を通常の紙で挟んで偽装するものもありますが……)
見た感じ、そうではない。いたって普通の紙だ。
軽く紙を振ると、清涼感と酸っぱさが微かに香ってきた。
「柑橘系の匂いがします」
「ミカンとかレモンがあったんじゃねぇの。もしくは、香水」
「いえ、そこまで匂いが強いものではないはず……」
そもそも、レドモンド殿下はあまり香水をつけない。
キース司祭も同様だ。
(そういえば……)
確か、似たような匂いをどこかで嗅いだことがある。
あれは、なんだったっけ。
先代の楽しそうな顔。
柑橘系の匂い。
『ジャック、内緒の授業だ。これをな、火であぶるんだ』
揺らめく炎と、紙。
――思い出した
「兄さんっ!火を、ライターはありますか!」
「お、おう。あるけど、どうした」
トレヴァー兄さんが慌てつつも、スーツの内ポケットからライターを取り出す。
それを借り、火をつけて紙をあぶる。
「お、おい。大丈夫なのか?」
「思い出したんです。先代が、教えてくれたのを」
――内緒の話があるときに使いなさい
そう言って、彼はこれを教えてくれた。
予想通りで、炙った場所から徐々に何らかの文字が浮かんでくる。
「おおー」
トレヴァー兄さんが感嘆の声を上げる。
じりじりと数分かけて、ゆっくりと紙を炙っていく。
出てきたのは、キース司祭のサイン。
それと、見慣れた文字に知らない魔法式だった。
(先代の文字だ……)
書かれていたのは、初めて見る魔法の名前だった。
『解呪の雨の起動方法』
レドモンド殿下が、私宛になぜ手紙を書いたのか。
「これが、理由……」




