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”俺、なんかやっちゃいました?”――の外側。追放された元王家専属治癒師は、もう国に戻らないと決意する  作者: ブルマ提督


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25話

「心の隙間……?」


 合理の塊であるトレヴァー兄さんが、そんなことを言い出すとは思わなかった。

 どういうことだ。

 トレヴァー兄さんは、手に持っていた研究資料をテーブルに置いた。

 立ち上がり、ホワイトボードに向かってくる。


「ジャック、お前は先代から何か言われているか?」

「洗脳についてですか?」

「例えば、精神にかかわる魔法だ」

「一通りは。『危ないものは、自分が知って初めて警戒できる』と」


 先代から、通常の魔法のほかに禁忌と呼ばれる魔法を教わった。

 使用法の書かれた文書だけ読み、使う事は一切なかった。


「研究資料、読ませてもらった。精神にかかわる魔法の記述はなかった。先代が持っていったか処分したんだろうな。……だが、俺はこれが気になったんだ」


 ホワイトボードに何かを書いていくトレヴァー兄さん。


「俺だって、残すか破棄するかのリスクを天秤にかけるさ。俺は残すね。解除方法が書かれていたのなら。……先代が処分した理由は、解除方法がない」

「……もしくは、非常に危険な解除方法?」

「だと思う。この一文が気になったんだ」



『汚れは、雨でしか流せない。太陽に頼むしかない』



「雨……」


 私がここに来た時も雨が降っていた。それだろうか?

 汚れを流すという事?それなら、濡れたタオルで拭いたりお湯で体を流した方が早い。

 雨である理由があるのか?

 自然に洗い流す?洗脳魔法が自然と切れるのを待つってこと?

 太陽も意味が分からない。何がしたかったんだ。

 もしかして、先代のポエム?

 ……いえ、先代が意味なく残すわけがない。


「汚れってのは、心の隙間じゃないか?……汚れと言っていいか、わからないけどな」


 ホワイトボードを見上げる。


「他人を操るのって、すげぇ難しい。魔法も同じだと、俺は思う。洗脳魔法がやばいのは、洗脳じゃなくて『心の隙間があるやつ全員を操れる可能性がある』からじゃないか?」


 確かに、一理ある。


「けど、心の隙間というのは喪失感が多いのでは?魔獣の被害や戦争で失った家族とか……そういった、分かりやすくなくなったという物だと」


 治癒師は、騎士団や兵士を慰労する場合がある。多くは治療だが、心の治療も含まれている。

 彼ら本人や家族は、喪失感に飲まれていることが多い。家族を失った、子どもを失った、戦友を失ったなどだ

 トレヴァー兄さんは一度頷くも、ホワイトボードの一部を指さす。


「目に見える物以外にもある。エリーゼ王女なんかが、分かりやすい。彼女は、患者だろ?」

「はい」

「で、話を聞くにユウシくんを助けてなければエリーゼ王女は治ってたんだろ?今頃には」

「はい。エイブラム殿によれば、今頃には婚約発表の予定をしていたと」

「だよな?

「っそういうこと……」


 そうか。

 私は、目に見える物しか見ていなかった。

 心の隙間があったから、操れた。洗脳をかけることが出来た。

 エリーゼ王女の喪失感を、見なかったことにしてしまった。

 手紙をいただき、それに満足してしまった。


『洗脳魔法は、心の隙を狙ってくる』


 先代が一度だけ話してくれたことを、頭の中で繰り返す。

 私への不信感が、隙になった。なってしまった。

 もし私がもっと慎重だったら。あの時、マリーや他の神父たちに力を借りれば。


「ユウシを治したのは……失敗だったのでしょうか……」


 結局、私の身勝手な行動で今の状態を招いている。

 決断を間違えていなければ、こんなことにはならなかった。そう思わずにいられない。

 ムライは、それに目を付けた。さらに細工をしたんだ。


『魔力が高ければ高いほど、かかりやすくなるように』


 実に、実に恐ろしい魔法だ。

 ただの不信感では、振り切れると思ったんだ。

 だから、魔力の高さを突いた。

 もし、これが普通になったら。


(人の感情をわざと揺さぶって、洗脳させることだって可能……!)

「ジャック!」

「っはい!」


 突然、大声で名前を呼ばれる。

 見上げると、トレヴァー兄さんが不服そうな顔で私を見ていた。


「今、責任を考えるな」

「っはい……」

「自分の決断に後悔するな。それは、当時のお前を否定することになる」

「っはい」

「後悔しても遅いかもしれない。ただ、当時はお前なりのベストを尽くしたんだ」

「っわかりました……!」

「よし。……エイブラム宰相が協力したのは、洗脳が甘いからだと考えてる」

「甘い?」


 強いとか、厳しいならわかるが甘い?


「……甘いからこそ、自分の考えだと思っている?」

「そういう事だ。洗脳に大事なのは『自分の意志で動いている』と思わせなきゃならない。自分の意志を信じることは、最も強い支配になる」

「……詳しいですね」

「ちょっと、裏で色々あったんだ」


 さっきからワードだけ出ている『裏』

 もしかして、この人、裏社会に出入りしてたんじゃ。

(いえ、今はそんなことを話している時間じゃない……)

 今、やるべきことは私の状況の確認とムライたちの狙いだ。


「俺、気になったんだけどさ。魔力の高さに依存するなら、普通の平民とかはどうするんだ?」

「それは……そうですね」


 王族や貴族は魔力量が高いが、平民はそうではない。

 洗脳が甘い可能性もある。

 もし、洗脳が切れた場合クーデターに発展する可能性がある。


(可能性を入れてない?……いや、そんなはずはない)


 ふと、教会の施しを思い出す。そこで、トモヤさんは何て言ってた?


『こっちで売ってたら、すげぇ売れてさ!しかも、こっちの金をあっちで換金すれば金にはほとんど困らないし。それに、このパンのほかにもいろいろ売り始めたら偉い人が来て、俺を王家御用達にしたんだ!すごくね!?』


 彼は商会をしていた。こっちで売った、というのはまさしくそのままだろう。

 もし。



「トモヤさんが売った商品に、洗脳魔法を付与していたら……」



 口に出した言葉が恐ろしい。自分の発想だと思えないほど、邪悪な発想だ。

 外部と内部、両方から魔法を取り込む。

 魔力が少なかろうが問題ない。

 そんな恐ろしいことが出来るほど、彼等の魔力の質・量ともに高い。


(解除の方法が見当たらない……!)


 せめて、洗脳魔法を解こうと。それが、私にできる最後の事だと思っていた。

 だが、想定よりも大きい。

 王都にいる人の数は、10万人ほど。

 彼ら全員に洗脳が及んでいる場合、私一人の魔力では到底足りない。


(いえ、でも可能なのか……それが)


 魔法を物体に付与できることは、可能である。

 王家主催の晩餐会で、毒見の際に毒魔法が検出されたことがある。

 だが、洗脳は話が違う。精神系の魔法を、どうやって物に?


「……五感、じゃないか?」


 ぽつりとトレヴァー兄さんから、言葉がこぼれる。

 五感?


「どういうこと?」

「五感に訴えかけるんだ。……別れた恋人が思い出すようにって、わざと香りの強い花や香水を送ることがあるらしい」


 何かを思い出しているのか、少し苦しいような顔をしているトレヴァー兄さん。


「……何かあったの?」

「昔、トラブルに巻き込まれてなぁ……。それで、思い出した。多分、香りか何かに洗脳魔法を混ぜ込んでるんだ。それで、トモヤが売った商会の物を食べたり使ったりすると発動する」

「……今までとは違う物で、無意識に『これがずっと使えると良いな』と思うようになる?」


 ゆっくりと頷くトレヴァー兄さん。仮説ではあるが、辻褄は合う。


「俺も食わせてもらったが、あれはちょっとやばい。普通のパンよりも値段が安くて、ずっといい物が食える。その無意識の願望を、『心の隙間』を利用したんだ」

「大丈夫なんですか!?」

「平気だよ。魔力がないからな、俺には。あと、洗脳に関しては耐性があるから」


 豪快に笑い飛ばすトレヴァー兄さん。

 後で問い詰めよう。


「俺は、トモヤに不信感を持ってるからかからないんじゃね?」

「話を聞くに、条件としてはかなり厳しいですね。食べさえた上で、本人が不信感や喪失感など『心の隙間』を持っている必要がある」

「あぁ。だから、王都にいない奴は大丈夫だ。だが、これが全土に運ばれたらまずいな」

「えぇ。……仮説が本当なら、キース司祭とレドモンド殿下は大丈夫だと思い……たいです」


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