21話
「……えぇ、ユウシなら約束を破る人ではありません。それに、貴方は雰囲気が違います。なにもかも。まるで、魂から入れ替わったかのようです」
「あ~……本当にめんどうなNPCだな、お前。だから、こうしたのに」
「貴方は、誰なんですか」
「は~……なら、種明かしだ。どうせ、お前はここにいられない。いずれは処刑されるだろうし」
そこからユウシが話を始めた。高らかに、演説のように。
「そうだよ。俺はユウシじゃない。俺は別の人間だ。名前は、『ムライ』」
「ムライ……」
「そうだ。俺は別の世界からやってきた。この世界は元々俺がやっていたゲームの中なんだよ。そこで、お前は主人公である俺の邪魔をするNPCだ」
何を言っているかわからない。私がゲームの世界の人間?だとしたら、どういうことだ。この世界がゲームだなんて、何を言っているんだ。
私の困惑を知ってか知らずか、ムライはさらに話を続けた。
「俺はさ、一つだけ心残りがあった。それが『王家専属治癒師」の称号だ。これは超レアな称号で、誰も持っているやつがいなかったんだ。俺は、あと少しで手に入るってところまで行ったんだ。お前を倒せばってところだ」
「……」
「ただ、どうやら俺はそこで死んじまったんだろうな。気がついたら、この世界に来ていた。最初は誰になっていたかわからなかったが、笑ったよ。だって、自分の姿がまんま現実の俺だったから」
ゲラゲラと笑うユウシ……いや、ムライ。
「もう朝起きたとき笑ったよ。『は!?ゲームに転生か?!』って。しかも、魔法を使うことも出来る!だから、ちょっと試したくて色々と魔法を使った。その中で、俺は洗脳魔法が使えることに気づいたんだ」
「洗脳魔法……?」
「おう。便利だぜ?なにせ、相手の魔力を利用して洗脳をかけるんだから!魔力が高ければ高いほど、俺の魔法にかかりやすくなる!」
「だから、エリーゼ王女を惑わしたんですか!?」
「惑わしたんじゃねぇよ。エリーゼは、俺に惚れてくれたんだから」
そんなわけがない。エリーゼ王女は、南国の王子との恋愛結婚の予定だったから。
相手の魔力の強さによって変わる魔法なんて、聞いたことがない。
聞きたい事はある。
だが、部屋の外の喧騒がわずかに大きくなってきた。
「……ムライ、一つだけ質問があります」
「はい?なんだよ」
私が質問をすると、途端に雰囲気が悪くなった。話を邪魔されたと思ったムライは、私をぎろりと睨んだ。
「……ユウシの魂はどうしましたか?」
「魔力に変換しちまったよ。ゲームの裏情報でさ!HPをMPに変換することが出来るんだよ!それを利用した。ただ、俺のHPを利用するのは嫌だった。でも、ちょうどよく俺のHPは上限値よりも高かったからさ、それをMPにしたんだ。まぁ、いいんじゃねぇの?自分が活躍できるんだ。ユウシって子も喜んでいるさ」
「魂を、捧げたってことですか……?」
「あー、まぁそんな感じか」
「……貴方は、曲がりなりにも人を殺しているんですよ……!?それを、なんで……!」
杖を掴んでいる自分の手が、真っ白になっている。
ムライは、事の重大さを気付いていないのかキョトンとした顔をしている。
「だって、知らねぇし」
「はい?」
「知らねぇよ。俺にとってはゲームのキャラだし。つーか、俺だし。別に死んだとしても悲しまない。それに、この身体に別の魂が入ってたとか……キモくね?」
体に虫がついていた時のように、言い捨てるムライ
全身から血の気が引いていく。目の前にいるのは人を人と思っていない。
ユウシは生きていた。私たちだって、生きている。ゲームのキャラクターじゃない。
足がガクガクと震えてきた。
怖い。
目の前の彼は、一体何者なんだ。
私の様子を見て、にやりと笑うムライ。
「あれ?俺なんかやっちゃいました?」
ドアの前に立っていた彼が、横にずれた。
「ほら」
「な、なにを……」
「いや、逃げるんだろ?無駄だとは想うけど。逃げた方が、罪が重くなるって想ってさ」
ここから裏口まで行けば、誰も目に入らないぜと丁寧にルートまで教えてくれるムライ。
余りに異質な存在だ。
背中を見せないまま、ずりずりとドアに近づく。
迷ったが、収納袋に外套と杖、本と手紙を入れて持って行くことにした。
「じゃあな、処刑場で」
さっと身を翻し、全力で走った。ムライが言うとおり、裏口に行くまで誰とも会わなかった。
「……っ」
外に出ると、暗く厚い雲が空を覆っていた。
頬が濡れている感触に気づき触ると、それは私の目から流れていた。
「なんで……」
振り返って教会を見上げる。約10年間、お世話になった教会。私の……本当に家で、家族だと思っていた教会。
ここに来た当初、あれほどまばゆく輝いていた教会が今は薄暗く冷酷な雰囲気を醸し出していた。
どこに……行こう。
そもそも、教会と王城の往復しかしてこなかった。
居場所はない。
実の親が住んでいる場所は知っているけれど、私を迎えてくれるイメージは余りわかない。
かといって、兄さんのところにも行けない。貰ったカフスを握りしめ、どうすればいいか迷う。
ふと、頬に当たる水の粒。空を見ると、厚い雲から雨が降り出していた。
急がないと風邪を引いてしまう。
そうなったら、動けなくなる。
治癒魔法を自分にかけるのは、難しい。
間違えると、悪化してしまう可能性がある。
「……急ぎましょう」
ぽつりぽつりと降り始めた雨の中。私は、自分が五歳まで過ごした生家へと向かった。




