14話
「……ということです。ユウシ、何か申し開きはありますか?」
「ありません!!!……すいませんでしたぁ!!!」
仮眠を取り、アレックスから預かった革袋を持ちユウシの許へ向かう。
昨日の経緯を話すと、ユウシは三つ指をつき謝っている。
「前に言ってましたよね?『退職金はもらっているから、大丈夫』と」
「えっと……その……」
「昨日、あなたのパーティメンバーのアレックスからお布施としていただいたんです。ユウシが受け取るはずだった退職金の残りを。どういうことですか」
「え~……っと」
ユウシの視線があちこちに泳ぎ、手を握ったり開いたりしている。
「あー」や「うーん」と唸り声を出していたが、長い溜息を吐いた。
何かを諦めたような、決意したような表情で私に向き合うユウシ。
「その……何を言っても、引きませんか?」
「何を言うかに、よります」
「ですよね。……だから、ずっと言わないと思っていたんです。ジャックさんには」
「キース司祭には、話しましたか?」
「少しだけ。あと、トレヴァーさんにも言いました。……といっても、僕が言ったわけではなく向こうが知っていたことを確認されただけなんですけどね」
「『テンペスト』に何があったんですか?」
私が問うと、彼はぽつりぽつりと話し始めた。
「僕のせいなんです……」
「どういうことですか」
「その……最初から話すので長くなりますけど……。アレックスと僕は幼馴染です。田舎の方で生まれて、こっちに来ました。いわゆる一攫千金狙いって奴です」
「前に話してましたね」
「はい。それで、町に来てから射手のガントと出会って組みました。そのあと、補助魔法の使い手であるエリザベス様と。僕は治癒師で、アレックスが剣で前衛です」
そういえば、アレックスは大剣を持っていた。昨日の懺悔室にも持ち込んでいた事を思い出す。
「Bランクまでは、何とかなってたんです。ただ、Aランクから僕の治癒魔法が追い付かなくて。それで……、それで……」
顔を覆い、うずくまるユウシ。
私は彼の背に手を回し、さする。
「無理はしないでください。話したくなければ、話さなくても構いません」
「……だから、話すんですよ。ジャックさん。聞いてほしいから」
ニヤッと笑うユウシ。上げた口角が震えていることから、無理やり笑っていることが分かった。
「あるクエストの時です……。……その日は、霧が出ていたんです。それで、魔獣が見えなくて……。僕は治癒師で、戦えません。だから、射手のガントより後ろで待機していました」
「……それで」
「あっという間でした。僕の方に魔獣が来たんです。避けようと思ったけど、避けられなくて。……僕と魔獣の間に、アレックスが飛び込んでこなかったら死んでました。……でも、アレックスが……!」
「アレックスがどうしたんですか?」
「腕を、持っていかれました。幸い、とっさにガントが回収したからくっついたんですけど……。……それ以来、アレックスの片腕は……動かなくて……」
ポロポロと泣き始めるユウシ。
私は、ハンカチを取り出し彼の目元に充てる。
「腕をつけなおしたのは、あなたが?」
「……僕がしたのは、止血と患部の洗浄だけです。たまたま、ギルドに医者がいたのでその人に、してもらいました。そこから、僕は無力だと……。三人からは気にしないよう言われたんですが……」
「……」
「忘れられないんです……!アレックスが、夜にどうにかして剣を振ろうとしているのが……!ガントが、いろんな治癒師に頭を下げているのを……!エリザベス様が、貴族の治癒師の伝手を頼っているのを……!」
何も言えなかった。何も言わなかった。
ただただ、ユウシの話を静かに聞くことしかできない。
「だから、どうしようと思いました。……最初は死のうとも。ただ、それじゃ意味がない。……その時、思い出したんです。ジャックさんの事」
「私?」
「はい。……打算的です。賭けです。ジャックさんに、アレックスを治してもらおうと思いました。王族には、専属の治癒師がいる。彼は、教会にいると聞いたことがあるので」
「そうでしたか……」
もしかすると、エリーゼ様の後に図書館で勉強していたのはアレックスのためだったのかもしれない。
「僕のせいで、リーダーであるアレックスがけがを負った。……僕のせいにしたかった。だから、パーティを抜けたんです。退職金を貰わなかったのは、自分に対する縛りみたいなものです。それを使ったら、僕は人じゃなくなる気がして」
「だから、罰が当たったんですね。僕は。スタンピードに巻き込まれて、友達を治療してほしいのに自分が治療されて。……しかも、国の王女を蔑ろにしてしまった」
「っユウシ、それはっ!」
「わかってます。エリーゼ王女からの手紙を読みました。あれが本心なのだろうという事も分かります。……それでも、それでも。罪悪感が、消えないんです……」
ユウシは、恐らく話したくないところまで話した。
キース司祭は知らないだろう。あの人は、自分から話すのを待つ人だ。
トレヴァー兄さんも同じだ。『待つことも信頼だ』と語っていたことがあるからだ。
私は、どうしたらいい。
「話してくれて、ありがとうございます」
「ジャックさん……」
ユウシの顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
ハンカチで顔を拭いながら、話をする。
「消さなくてもいいんです」
「え?」
「罪悪感の話です。消えるものじゃありませんから」
ぽかんとした顔をするユウシ。
「そ、れでいいんですか……。というか、それだけですか……?」
「えぇ。もし、殺人だったり強盗だったりと罪を犯していたら話は別です」
「でも、僕は、アレックスの腕を……」
「ユウシ。あなたが、切ったわけじゃないんですよね?」
「それは、そうですけど。……でもっ!僕が、切ったも同然でっ……!」
「アレックスは、あなたを助けようとしただけです。それに、昨日の会話にユウシを責めるような話は一回も出てきませんでした。実際に、剣を振ることはしてもユウシを責めることはなかったでしょう?」
「でもっ……!」
「約束、あるんでしょう?」
私の言葉に、ユウシが止まった。
目を丸く見開き、私を見ている。
「なんで、そのこと……」
「アレックスが話してくれました。ユウシについては『不器用なだけ。怪我人をユウシ一人に任せるわけは行かない』と」
「それは……仕事で……!」
「えぇ、ユウシはそれが仕事なのは知っています。あなたの罪悪感も。でも、アレックスたちは、ユウシが戻ってくることを信じているんです」
「戻らない……つもりでした。それこそ、教会でこのまま神父として活動しようかと」
「……ユウシが怖いのは、役に立たないと思われることではないですか?」
「っ!?」
「パーティに役に立たないと言われることが。ですが、一回でも彼等から言われたことはありますか?」
「ない、です。でも……」
多分、ユウシには響いていない。
まだ目が虚ろだ。
「……ユウシがいて、助かっています」
「え?」
ここからは。
(私個人の気持ちだ)
「少なくとも、昨日話したアレックスと私はそうは思っていません。……私は、ユウシに王家専属治癒師を継いでほしいとさえ考えていました」
「え!?そんな大役を?!」
「えぇ。ユウシが来て、楽になりました。同年代と話したことがない私です。人と、気軽に話すことがここまで楽しいと思ったことはありません」
「そんなこと……」
「ユウシにとっては、そんなことでしょう。ですが、私にとってはそんなことでも楽しいんです。それに、患者を羽交い絞めにしていたのも助かりました。うちの教会には、ああいったことを出来る人がいないので」
「それなら、僕も同じです。魔法が奥深いものだと、初めて知ったから。だから、ふと思ったんです。アレックスとの約束を、どうしようかと」
「……まだ、半年あります」
「半年……まだ、考える時間がある……?」
半年を反芻するユウシ。
その眼は、少しだけ光がともっていた。
「えぇ、まだ迷えます。教会で働くか、冒険者に戻るか」
「さっき、跡を継がせるって言ってましたよね?」
「はい」
「もし、もしですよ?僕が、『やっぱり、パーティに合流したいです!』って言ったらどうするんですか?」
「ギルドの方に、私から推薦状を出します。足りなければ、キース司祭からも」
迷いなく、はっきりと言い切る。
アレックスと話をしなかったら、ユウシに跡を継げるように教えていた。
けれど、あれほどのパーティだ。恐らく、治癒師はいた方がいい。
私の勢いに驚いているユウシだが、ふっと笑いがこぼれた。
「なんですか、それっ……。じゃあ、ジャックさんは損していませんか?」
「いいえ。全く」
「そんな言い切ります?」
「えぇ。教会で過ごした年数と、この半年。同じ位濃い時間でしたから」
もしかすると、この半年の方が濃かったかもしれない。
「そうなんだ……」
「はい。教会の外の出来事は、あまり知らないので新鮮でした。トレヴァー兄さんの手紙で知っていることもありますけど、それはそれとしてなので」
「そ、そんなに?僕の方が濃かったと思うけどなぁ。ちゃんと魔法を習うと、こんなに面白いんだって。……そう考えると、意外とお互い何かしらで返していた感じですか?」
「そうです」
「はぁ~……。なら、僕がジャックさんに返せるのは中級試験の合格ですね」
「はい」
「……なら、頑張りますよ」




