13話
あの後、患者に話を聞いた。
『殴られたところまでは、覚えてます。ただ、どうやってここまで来たかは……わからなくて……』
『その間、なんか……寝てるような感じで……』
『その……気持ち悪かったのは覚えてるんですけど……それ以外は、わからなくて……』
まるで人が変わったようだった。
キース司祭が念のため、と彼を教会で数日保護した。
特に変わったところはなかった。彼は、今朝がた教会から元の場所に戻っていった。
一応、今回の出来事をまとめてエイブラム殿に送る。といっても、宰相職は忙しいため会うのは次に登城するころだろう。
深夜、私は教会の近くにある小屋へと向かった。
外の扉にかけてある看板を直す。
『懺悔室。あなたの罪を聞きます』
町は静まり返り、昼間の喧騒がウソのようだ。ちらちらと、雪が降ってきていた。
今日は、先代の資料と教会の図書館に会った本を持ってきている。
魔道具ランプを灯す。部屋全体が、オレンジの光に包まれ暖かくなってきた。
「今日は、資料をまとめますか……」
雪が降ってきたのであれば、来る人はほとんどいないだろう。
先代の資料は何回も見たことあるが、一冊だけ初めて見た本があった。
日記帳だった。
中身を読むと、日常の事がほとんどだった。
『最初は驚いた。この世界は、俺が見知った世界だ。だが、見知っているが知らない世界だ』
『気が付いたら、ここにいた。ありがたいことに、キースと名乗る男性に救われた。彼は、俺を教会に住まわせてくれた』
『ここにきて、数年たった。ようやく、魔力について解析ができたかもしれない。キースが司祭に上がった。俺にはできない。説教は無理だ』
『今日、ジャック・ニルソンという子がやってきた。どうやら彼は、治癒魔法のエキスパートらしい。らしいだけじゃ、分からん』
『教えるのは、俺になった。どうやら、この子を俺の後継にするとの事だ。キースに、まだ子供であることを伝えた。だが、ジャックは家を出たいからここに来たのだと言われた』
『ジャックは天才だ。魔法について、不安なことはない。だが、それ以外が不安だ。ジャックが跡を継ぐ前に、なんとしても教会の救命体制を整えたい。キースも同意してくれた』
私の事や、若き日のキース司祭の事がのっていた。
少し懐かしい気持ちで、読み進めていく。
ぱらぱらと読んでいくと、気になる一文が目に入った。
『この世界の魔力の状況が、ようやく分かった。魂に結びついている。魔力は、髪や爪に溜められる。宝石にも出来るが、一時的なだけですぐに無くなる。これは、何かに役に立ちそうだから後で探っておく』
『体と魂は結びついている。だから、死体には魔力がないし切った髪に溜めた魔力はすぐに使われる』
『俺は転移者だから、魔力はあまりない。ただ、転生者って奴は違う。彼らは元の体の魂を犠牲にして、魔力を得ているんじゃないか?確か、なんかのゲームの裏技でMPを増やすコマンドがあったはず。この世界だと、魔力を魂に変換する魔法……か何かじゃないか?』
『理由は、転生者に出会ったからだ。なんか光る変な奴だったが、話を聞くと魂を変換したと言っていた。だが、その場合は合意の元だと確認が取れた。元の魂自体が擦り切れていたらしい』
『そいつは泣いていた。申し訳ないと、一晩中。彼は、貰った魔力と身体を有用に使いたいと考え放浪の旅をしているらしい』
「魂を……」
魂を贄にした魔法なんて聞いたことがない。日記にも、『やろうと思えばできそうだが、人道的に無理。日本人の俺には、そんなことできない。転移でよかった』と書いてある。
「転移……?」
そういえば、先代は時折変なことをおっしゃっていた。
あれも関係あるのだろうか。
ガシャガシャと鎧の音とともに、1人の男性がやってきた。本を閉じて、彼に向き合う。
「あの、いいですか?」
「はい。何か、ありましたか?」
どかっと目の前の彼が椅子に座る。仕切り板の向こう側。王都では滅多に見ない紅蓮の鎧。
騎士団は白で統一されているため、少なくとも国の兵士ではない。
そして、机に寄りかかるように置かれた剣。かなり大きく、私の背丈くらいはありそうだ。
(冒険者……?)
だとしても、なぜこの教会にやってきたのかがわからない。冒険者の彼は、「あー」とか「んー」とか意味にならない言葉をつぶやいている。
「懺悔室自体、初めて来たんだけどさぁ……。ここの話って、誰にも言わないの?」
「はい。ここでお話しされたことは全て、私と神しか聞いておりません」
「そうだよなぁ……。本人に話した方がいいんだろうけどなぁ……」
向こう側で、男性はうんうんと唸っている。
「あんたさ、ユウシってやつを知っているか?俺が用事があるのが、そいつなんだけど」
「……っユウシ……ですか?」
驚いて、声が漏れそうになるところをすんでで抑える。もしかしたら、彼はユウシが度々話している冒険者パーティの仲間だろうか。
「そう。あ、俺はアレックスだ。本当なら、ほかの仲間も連れてきた方が良いかと思ったが。……何分、騒がしい奴らばっかりで」
「そうでしたか。……そのユウシという方に何かありましたか?」
努めて冷静な声で対応する。バレてはいけないという決まりはない。神からの言葉ということで、曖昧な状態で話をすることも可能だ。
とりあえず、話を聞いてから決めようと私はアレックスと名乗った彼に話の続きを促す。
「あー、別にユウシを連れ戻そうとかじゃなくてさ?いや、なんていうか……。ユウシを追い出したようにしちまった俺たちのせいというか……。とりあえず、話だけ聞いてほしいんだ」
「かまいません。貴方の考えをお話しください」
「そうか?ん~、ユウシは治癒魔法の初級しか使えないって言ってたけど、それもたすかっていたんだぜ?だから、一緒に旅を続けてくれると思ったからさ……。引き留めはしたけど、あいつ頑固だからさぁ……。で、一個だけ約束をしたんだ」
ふふっと声に出さないで笑う。「頑固」が思い当たるからだ。
「約束……ですか?」
「あぁ!『ユウシがいつか立派な治癒師になれたら、もう一度パーティを組んでほしい』って」
「……!?そ、うですか」
動揺を抑えきれず、言葉が詰まる。アレックスは、自分の発言に対して熱を持つように話を続けた。
「治療って、命がけだろ?特に、依頼中なんて周りには魔獣で背後には怪我人。俺たちは、その状態で守りながら戦わなくちゃならない。怪我人をかばいつつってのは、熟練の冒険者でも難しい」
「そうですね」
「だから、応急処置でも『この怪我人は大丈夫』って保証がほしいんだよ。俺たちは。ユウシが、そこを保証してくれていたのはやっぱりでかいわ。……ユウシが倒れちまうのは、まぁ、不器用だからな!あいつは。上手く出来ていないだけだろ。それに、ユウシにだけ怪我人を背負わせるわけにいかないからな。俺か、ガント……もう1人が背負って逃げるって感じだ」
まぁ、ユウシが魔法を使った後は倒れていたんだけどなと豪快に笑うアレックス。声音から、侮蔑や軽蔑といったものは感じない。
どこか温かく、信頼を持った言い方だ。
「全員、信頼していたパーティなんですね」
心の底からそう思う。ユウシやアレックスの話を聞いているだけでも、非常に良いパーティだったのだろう。
だからこそ、私個人の気持ちは我が儘だ。
そのあとも、アレックスはたくさんの事を話してくれた。
頷きながらも、私はパーティの結束の強さにどこか眩しさを覚える。
(ユウシに、私の後を継いでほしいのは……わがままでしたね……)
これほど素晴らしい居場所があるユウシ。
私が出来ることは半年後の中級試験への合格。それと、彼らのパーティへの推薦状だ。
「あー、話せてすっきりした!ありがとうな!神父さん」
「いえ、私も楽しかったです」
「あ、そうだ。寄付をしなくちゃならないんだよな……。手持ちあったかな」
鎧をガシャガシャと言わせながら、何かを探すアレックス。
「無理にとは言いません。そのお気持ちだけで十分です」
私は心の底からの気持ちでそういった。懺悔らしい懺悔ではない。ただの世間話だ。だから、これで寄付なんてのは受け取れない。
「ないなぁ……いや、あるにはあるが……。なぁ、神父さん。あんた、ユウシと仲いいか?」
「え?えぇ、まぁ……」
とっさのことだったので思わず肯定の返事をしてしまう。私の返事を聞いたアレックスは明るい声を上げる。
「なら、ちょうどよかった!これ、渡しておいてくれ!」
じゃら、とコインの音が鳴る。受け渡し部分を見ると、自分の拳くらいの革袋が置かれている。
見た目と音だけでも、重そうな袋だ。寄付にしても、量が多すぎる。
私はアレックスにこれを受け取って良いのか、再度確認を取った。
アレックスは、立ち上がりながら爽やかに話す。
「ユウシへの退職金だ。あいつ、2割ぐらいしか受け取らなかったからさ。会ったときに渡せるように持っておいたんだ。お布施ってことで、渡しておいてくれよ」
「……わかりました。必ず渡しておきます」
「ありがとな!」
剣を持ち上げ出ようとするアレックス。
が、何かを思い出したのか再度戻ってきた。
「あ、そうだ。もし伝えられるなら伝えておいてくれよ。『しばらくは、近郊のギルドにいる』って。魔獣の駆除もしてるから」
「はい、わかりました。道中、お気をつけて」
「おう!じゃ、ありがとな!神父さん!」
行きと同じように鎧の音を響かせてアレックスは闇夜に戻っていった。改めて革袋を持つと、ずしりと重量が伝わる。
失礼を承知で中身を見ると、かなりの量の金貨が入っていた。手紙も入っていたが、ユウシ宛てだろう。私は、その手紙を自分のカソックの内ポケットに入れた。
前にユウシが話していたことを思い出す。
『退職金は貰ってないです。……嘘です!貰ってます!ただ、そこまで高額ではないです』
ちょうど鐘が鳴った。あと数時間後には、朝が来る。
私は、小屋の電気を消し外にかけてあるランタンを取る。頂いた寄付を持ってきていた本とともに籠に入れた。
「とりあえず。ユウシは、後で説教ですね」




