第1回 ー裁きの焔ー
紅い閃光が夜空を裂いた。
その瞬間、王都全体が悲鳴を上げる。
地の底から溢れ出した炎が、
まるで意思を持つかのように
城を包み込んでいった。
「……紅竜ヴァルド……
完全に目を覚ましたのね。」
レアは息を呑んだ。封印層の崩壊音が、
まるで心臓の鼓動のように響く。
王城の天井が破れ、炎の柱が空へと伸びた。
人々が逃げ惑う。建物が焼け落ち、
街が紅蓮の地獄に変わっていく。
その炎の中には、確かに
“意志”
があった。
『人よ……
理を穢した罪、その身で知れ……』
紅竜の咆哮が世界を震わせる。
その声は怒りではなく、絶望の嘆きだった。
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レアは走っていた。焦げた瓦礫を踏み越え、
聖堂跡を抜け、王城の中枢へ。
そこに、紅竜の暴走を止める
唯一の装置――
封印制御核がある。
だが、通路の先で、宰相ヴァルクが立ちふさがった。
顔に焦げ跡を残しながらも、
その瞳は狂気に輝いていた。
「美しいな……これが理の本当の姿だ。」
「あなたが――
封印を……?」
「そうだ。
あの王の臆病さでは、
炎の理は永遠に人の手に渡らぬ。
ならば、我が手で解き放つ。
紅竜の力は、人類の未来だ。」
「あなたは狂っている……!
理は支配するものじゃない、
共に生きるものよ!」
ヴァルクは笑う。
「理に生かされる者は、いつまでも竜の奴隷だ。
私は理を使う者になる!」
彼の背後の装置が光り、竜導管が再び脈打った。
赤黒い光が天井を貫き、紅竜の咆哮が、
さらに強く、苦しげに響く。
『……やめろ……
やめろォォォォッ!!』
レアは耳を塞ぎ、涙をこぼした。
その声は竜のものではなく、痛みに満ちた
“祈り”
に聞こえた。
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城外。
王は玉座に座りながら、
燃え上がる街を見下ろしていた。
側近が震えながら進言する。
「陛下、城の避難を――!」
「よい。
これは新たな理の夜明けだ。
紅竜がこの地を焼き払えば、我が名は
“選ばれし王”
として残る。」
レアの脳裏に、王の言葉がよみがえる。
――“紅竜の封印は、
国のために再調整する。”
あれは、封印を解くための策略だったのだ。
「……まさか、あの人が……!」
彼女の胸に刻まれた炎の印が、
苦しげに脈を打つ。その痛みが、
紅竜の悲しみと重なった。
「ヴァルド……
あなたを怒らせたのは……
私たち人間なのね。」
涙がこぼれ、地に落ちた。
その雫が燃える石に触れた瞬間、
柔らかな光が立ち上がる。
“炎は命を灯すもの。
誰かの支配のためではない――”
レアは顔を上げた。燃え落ちる王城の向こう、
紅竜の姿が夜空を裂き、翼を広げていた。
『……誓いを、思い出せ。』
その声が聞こえた気がした。
炎が王都を包み、夜が再び、焔に飲まれていく。
そして――
物語は、次なる
“誓い”
へと続く。
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