第3回 ー焔の剣と竜宝印ー
夜明け前の王都は、灰のように静まり返っていた。
崩れた建物、焦げた石畳、そして赤く染まった空。
その中で、ひとつの小さな診療院の
窓明かりだけが灯っている。
ベッドの上には、リュカが横たわっていた。
呼吸は浅く、額には汗。
身体のあちこちに、
焼け跡のような痕が残っている。
傍らに立つレアは、その顔を見つめながら、
何かを堪えるように唇を噛んでいた。
「……この子を頼みます。
何があっても、目を離さないで。」
彼女の言葉に、老医師が深く頷く。
「ええ、巫女様。
……ですが、彼の体から感じる
この熱は……?」
「紅竜の炎が、
彼の中に入り込んだのかもしれません。」
レアはゆっくりと立ち上がり、
窓の外――
まだ煙の上がる王城を見つめた。
「……ヴァルド、あなたはいったい、
何を伝えようとしているの?」
その声は小さく、誰にも届かないほど儚かった。
そして彼女は振り返らずに、静かに部屋を後にした。
⸻
リュカは、夢を見ていた。
見たことのない風景。
それなのに、どこか懐かしい。
燃えるような大地――
だが、それはイグナリアではない。
空には五つの光輪が浮かび、中心に
“無色の光”
が、脈打つように瞬いていた。
「……ここは、どこだ?」
声が、風のように響く。
“見えない誰か”
が、彼に語りかけていた。
『理は巡り、また還る。
お前の中にあるのは、失われた
“第六の理”
選ぶ覚悟を持つ者だけが、
それを呼び覚ます。』
リュカは剣を握る。
刃が光り、視界が赤く染まった。
「第六の……理……?」
そこまで言った瞬間、夢が砕ける。
眩い光と共に、耳をつんざくような咆哮が響いた。
⸻
現実――
王城の封印層。
地下の紅炎が、再び脈打ち始めていた。
割れた竜導管から、紅竜の力が漏れ出す。
宰相ヴァルクが崩れた装置の中で叫ぶ。
「制御が……できん!
理が暴走している!」
炎の渦の奥から、再びあの巨大な影が姿を現した。
『……人よ。
誓いを捨て、理を穢すか。
ならば、焔で裁こう。』
紅竜ヴァルド――
完全覚醒。
王都全体が紅に染まり、空が鳴った。
その熱は、遠くの診療院にまで届き、
リュカの身体の印が光を放つ。
「……また、炎が……泣いてる……。」
彼の瞳がゆっくりと開く。
焦点の合わない視界の奥で、紅い閃光が夜を裂いた。
⸻
燃え上がる空の下、レアは剣を握りしめた。
「ヴァルド……今度こそ、あなたを救う。」
風が吹き、火の粉が舞う。
その向こうで、リュカがゆっくりと目を覚ました。
「……俺は、何を見たんだ……?」
空が裂ける。紅竜の影が空を覆う。
そして、
物語は新たな理へ――




