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『黎明の理譚Ⅰ 〜紅竜の誓い〜』  作者: 桜井りゅうと
第2章 焔の剣と竜宝印
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第2回 ー炎の誓いー

轟音が、嘘のように止んだ。

先ほどまで地を裂いていた炎が、

まるで燃え尽きた灯のように消えていく。

空気の熱だけが残り、赤黒い煙が漂っていた。


「……紅竜の気配が……消えた?」


レアが震える声で呟いた。

炎の印がかすかに明滅し、光を失っていく。

リュカは剣を握りしめ、周囲を見回した。

瓦礫の中に宰相ヴァルクの姿はなく、

地下の封印室だけが静かに崩れ始めていた。


「消えたんじゃない。

……封じられたんだ。」


「封じられた?」


リュカは絵本を開く。

ページの端が焼け焦げ、赤い文字が滲んでいた。

そこに、かすれた一文が浮かぶ。


“誓いを失えば、炎は闇に堕ちる。”


「……竜の理は、人の心で保たれてる。

 誓いが揺らげば、理も壊れる。」


レアは息を呑んだ。

彼女の胸にある印が、

まるで心臓の鼓動のように脈を打つ。


「……私のせい、なの?」


「違う。


でも――


君が竜宝印を渡さない限り、

紅竜は再び支配されようとする。


だから今、俺が――」


リュカが手を伸ばす。

だがその手を、レアが振り払った。


「できないって言ってるでしょう!」


声が、聖堂の瓦礫に反響した。

レアの瞳に涙がにじむ。


「竜宝印は、ヴァルドが私に託したもの。


 “この国を導け”って。


もしこれを手放したら、私は

何のために選ばれたの?」


「選ばれた? それが君の檻だろ!」


リュカの声が鋭く響く。


「竜は君に


“従え”


なんて言ってない。

ただ、


“生きろ”


って言ったんじゃないのか?」


レアの瞳が揺れる。

火の粉が風に舞い、二人の間に落ちた。


「……あなたに何がわかるの。」


「わからないさ。

でも……

俺も、何かを奪われた気がするんだ。」


リュカは胸を押さえた。

焼けつくような痛み。

紅竜の怒りが、彼の身体に残響している。


「……っ!」


視界が歪む。

炎の幻影が、頭の奥に広がった。

紅竜の瞳が、彼を見つめている。


“誓いを、燃やせ。”


その声が、脳の奥で響いた瞬間、


剣が赤く光を放った。


「リュカ!? 

やめて、力が……!」


光が爆ぜ、風が吹き荒れる。

壁が崩れ、炎の粒子が宙を舞う。

その中心で、リュカの意識が遠のいていく。


「……これが……竜の……理……?」


最後に見えたのは、

涙を流しながら彼に

手を伸ばすレアの姿だった。


彼の身体が崩れ落ちる。

炎は消え、音もなく夜が降りた。


そして――


静寂の中、

絵本のページがひとりでに開いた。

赤い光が、かすかに脈打つ。


“理は、まだ終わっていない。”



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