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『黎明の理譚Ⅰ 〜紅竜の誓い〜』  作者: 桜井りゅうと
第1章 焔の国の継承者
3/15

第3回 ー誓いの灯ー

夜は深く、街の灯が静かに揺れていた。

レアはリュカを連れ、

王都の外れにある古い聖堂へと歩いた。

炎の痕が刻まれた壁。

それは、かつて紅竜ヴァルドが降臨した

と伝えられる場所だった。


「……ここが、私が


“選ばれた”


場所。」


レアの声はかすかに震えていた。

リュカが何かを言いかけたその瞬間、


彼女はそっと目を閉じ――


過去へと沈むように語り始めた。



回想 ――「誓いの日」


あの日、イグナリアの空は燃えていた。

戦火の炎が王都を包み、

民は逃げ惑っていた。


まだ十歳にも満たなかった少女――


レアは、

母の亡骸を抱いたまま、

火の海の中を彷徨っていた。


「神よ、竜よ……

誰でもいい、どうかこの炎を……!」


その瞬間、天が裂けた。

紅の光が降り注ぎ、

巨大な影が、少女の前に現れた。


 ――紅竜ヴァルド。


その瞳は怒りでも慈悲でもない、ただ


“命の焔”


そのものだった。

レアの中で、何かが応えた。

恐怖ではなく、

胸の奥から湧き上がるような熱。


『名を問う、少女よ。何を願う。』


「……この炎を、人を焼くものじゃなく、守るものにしたい。」


『ならば――


その身を炎と共に捧げよ。

誓いの名のもとに。』


炎が彼女の身体を包み、

印が刻まれた。

その瞬間、

戦火は止み、風が生まれた。

民はそれを


“奇跡”と呼び、


王は


“神の選定”


だと宣言した。


こうして、少女は


“紅竜に選ばれし継承者”


となった。

だがそれは、同時に


“王の所有物”


になることを意味していた。



現在 ――「誓いの意味」


語り終えたレアの瞳には、

静かな光が宿っていた。


「私はあの日、確かに誓ったの。

 この炎は、誰かを救うためにあるって。」


リュカはその言葉を聞き、

絵本の一節を思い出していた。


“誓いとは、心を燃やすもの。

だが他者に灯を奪われたとき、

炎は理を失う。”


「……レア。

君の誓いはまだ燃えてる。

だからこそ、紅竜が泣いてるんだ。」


レアは驚いたように目を見開いた。

その表情には、初めて


“信じたい”


という光が見えた。


だがその瞬間、

聖堂の外から兵士たちの声が響いた。


「巫女様、陛下がお呼びです!」


「王が、紅竜の加護を


“剣”


に注ぐ新儀式を始めると!」


レアは息を呑む。


「まさか……竜の力を、武具に?」


リュカが立ち上がる。


「竜の理を、兵器にする気か……!」


彼らの背後で、

遠くの火山が赤く光った。

夜空に、ひと筋の紅い閃光が走る。



闇の中 ――「動く影」


そのころ、王城地下の封印室。

黒衣の男たちが紅竜の炎を

結晶化した鉱石を運び込んでいた。

円陣の中心には、巨大な刃。

紅竜の力を宿す、


“王の剣”。


「……これでよいのですか、陛下。」


「よい。

竜の理など、我が手で支配すればいい。

炎は、国を導く王の力となるのだ。」


冷たい笑みとともに、王は剣を掲げた。

その刃が紅に染まり、

部屋の壁を赤く照らす。


「――竜の炎よ、人の理に従え。」


封印陣が軋み、

紅竜ヴァルドの眠りが不穏に揺れ始めた。

地下の空気が熱を帯び、

遠く離れた聖堂の壁が微かに震える。


リュカはそれを感じ、剣を握った。

レアは唇を噛み、炎の印に手を当てる。


「……また、炎が泣いてる。」


「もう誰にも、奪わせない。」


二人は夜の王都へ駆け出した。

紅く滲む空の下、

ことわりの崩壊が、


静かに始まろうとしていた――。


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