第2回 ー燃える信念ー
焔の光が空を裂いていた。
聖炎広場の中央で、
巫女レア=ヴァルステラが両手を掲げる。
その周囲を、
炎を模した旗と兵たちが取り囲む。
人々はひざまずき、祈りを捧げていた。
「紅竜ヴァルドよ――
再びこの国を照らしたまえ。」
彼女の声に応えるように、
地の奥から低い咆哮が響く。
炎の柱が天へと昇り、空気が歪んだ。
あまりの熱に、群衆が息を詰める。
リュカはその光景を見つめながら、
胸の奥で何かがざわめいた。
――違う。
この炎の震えは、誇りでも、
祈りでもない。
悲鳴のように感じられた。
(炎が……苦しんでる?)
彼は人混みをかき分け、
前へと進み出た。
警備兵が止めようとするが、
その足を止められなかった。
広場の端に立ち、リュカは叫ぶ。
「待ってくれ! その炎は――!」
だが、
その声は群衆の歓声にかき消された。
兵士の一人がリュカを突き飛ばし、
怒声を上げる。
「何者だ! 儀式の邪魔をするな!」
「竜の理を汚す気か!」
「汚しているのは、おまえたちだ!」
リュカの声が響いた。
その瞳はまっすぐに
炎の柱を見つめている。
一瞬、広場の空気が止まった。
兵の一人が拳を振り上げ、
リュカの頬を打つ。
乾いた音。
それでもリュカは
目を逸らさなかった。
「竜の炎は……
誰かの命を燃やしている。
祈りじゃない、命の叫びだ。」
その瞬間、
壇上のレアの動きが止まった。
視線が交わる。
彼女の紅い瞳が、
迷いを孕んだまま揺れる。
「……紅竜が、泣いている……?」
彼女が小さく呟いたその瞬間、
炎の光が一瞬だけ不安定に揺らいだ。
周囲の兵士たちは慌てて
陣を組み直し、儀式を続ける。
しかし、広場の空気はもう
“祈り”
ではなくなっていた。
やがて儀式は終わり、
群衆が散っていった。
リュカは傷ついた頬を押さえながら、
夕暮れの通りを歩いていた。
誰も話しかけてこない。
熱気だけが残り、
街の灯が一つ、
また一つと灯っていく。
(……俺は何を見たんだ?)
胸の奥がまだ熱い。
炎のざわめきが、耳から離れない。
そのとき――。
「……あなたね、
昼間、儀式を止めようとした人。」
振り返ると、
赤い外套の少女が立っていた。
月明かりに照らされた紅の髪。
その瞳は、昼の儀式とは違う、
静かな光を宿していた。
「……レア=ヴァルステラ。」
「話を、聞いてほしいの。」
風が吹き抜け、
二人の間に舞う
炎の粉が夜空に消えた。
――焔の国の夜が、
静かに燃え始めた。




