第3回 ー託された灯ー
灰色の空を切り裂くように、
一筋の風が吹き抜けた。
リュカは振り返らずに歩いていた。
紅のカードを胸に、崩れた街を越え、
“理を継ぐ旅”
の始まりへと足を踏み出す。
「…リュカ!」
その声に、リュカは足を止めた。
振り向くと――
そこに、レアがいた。
焦げたローブを直し、
紅の紋章が輝く杖を手にしている。
「……お前、さっき見送りを
してくれたんじゃないのか?」
「ええ。
でも、それだけじゃ
ダメな気がしたの。
さっきみんなに言われたわ。」
「レア。
あなたはあの者と一緒に行くべきだ。」
「でも、この国の復興が……」
「それは私たちに任せて。
もっと大きいことに精を出して。
頼みましたよ。継承者様?」
「みんな……ありがとう」
そしてリュカの元へ、
レアは駆け出したのだった。
レアは、少し息を整え、微笑んだ。
「あなたの旅……私も、共に行く。」
「……え?」
「この国に残る炎は、民が守るわ。
でも、理を繋ぐ灯は――
“私たち”
が運ばなきゃいけない。」
リュカはしばらく黙った。
風が二人の間を通り抜ける。
やがて、静かに頷いた。
「……そうだな。
誓いを継ぐのは、俺一人じゃない。」
レアは微笑み、杖の先で地をなぞる。
その跡に、淡い紅の光が咲いた。
まるで、新しい道を描くように。
⸻
二人は歩き出した。
燃え尽きた城壁を越え、灰の谷を抜け、
その向こうに広がる青い地平線へ。
道すがら、レアが静かに語った。
「……最初に炎に選ばれた時、私は
“理に仕える者”
だと信じてた。
でも今は違う。
理は、誰かの命の上にあるものじゃない。
それは――
“共に生きるための約束”なの。」
リュカは聞きながら、ふと空を見上げた。
「……ヴァルドも、
そう思ってたのかもな。」
レアは笑った。
「ええ、たぶんね。」
紅竜の声はもう聞こえない。
けれど、その温もりは、
確かに心の奥で燃えていた。
⸻
その夜。二人は、国境を越えた丘の上に立っていた。
風は冷たく、しかし、
どこか懐かしい水の匂いがした。
リュカが剣を地に突き、
焚き火を見つめながら呟いた。
「……次は、
どんな理が待ってるんだろうな。」
「“記憶”
だと思うわ。
炎は命を灯し、記憶はその命を
“繋ぐ”。」
レアが空を見上げる。
夜空の雲が割れ、その隙間から、蒼い光が覗いた。
「……蒼の国、リヴェリス。」
風が吹く。蒼の理の気配が、
ほんの僅かに世界を撫でた。レアが振り返る。
「行きましょう。炎が消えぬうちに。」
リュカは頷き、剣とカード、そして絵本を携え、
二人で歩き出した。その足跡は、
紅から蒼へ――
理の流れを刻むように、ゆっくりと消えていった。
⸻
そして――
その遥か彼方。水面に映る都市。
静かな湖に浮かぶ青の国、リヴェリス。
青白い塔の上で、一人の青年が祈りを捧げていた。
淡い髪を風に揺らし、瞳には冷たい光を宿している。
「……流れは止まらない。
記憶は、水の中に刻まれる。」
彼の手にも――
一枚のカードがあった。それは、まだ
“蒼く光る未完成の理”。
「炎が……目覚めたか。」
青年は目を開け、遠くの空を見上げた。
その先には、紅の灯を掲げる二つの影が、
ゆっくりとこちらへ向かっていた。
炎は滅びず。誓いは命に宿り、
理は新たな色を得る。そして、風が告げた。
「次の理――記憶の国、リヴェリス。」




