第2回 ー託す印ー
風が、焦げた街を抜けていく。
灰の匂いが混じるその風の中に、
まだわずかに
“炎の温もり”
が残っていた。
レアは丘を下り、
崩れた街の中央へと歩いていた。
そこに――
彼がいた。
「……リュカ。」
瓦礫の上、
焦土に座り込んでいた少年が顔を上げる。
手には、白い光を放つカード。
紅竜ヴァルドの理が宿った証――
けれど、その色はまだ
“無色”
だった。
「レア……」
リュカはゆっくりと立ち上がった。
互いに言葉を探すように、短い沈黙が流れる。
風が灰を舞い上げ、その間に赤い欠片がきらめいた。
「……まだ、炎が残ってる。」
レアが小さく呟く。
「でも、それはもう怒りじゃない。
“命を繋ぐ炎”よ。」
リュカは頷いた。
「お前が、止めたんだ。あの理を。」
レアは首を振る。
「違うわ。
あなたがいたから……
私は、誓いを思い出せたの。」
二人の間に、
ほんの一瞬だけ、静かな笑みが交わる。
それは
“和解”
という言葉よりも、
もっと深い――
“理解”
だった。
⸻
レアは胸の前で手を重ねた。
掌の中で、紅のカードが淡く光を放つ。
「ヴァルドの理は、完全に眠った。
でも……この炎は、もう一度、灯せる。
あなたの中で。」
そう言って、彼女はカードを差し出した。
「これは、紅竜の誓い。
炎の理を、人の心に託す印。」
リュカは、少し戸惑った。
「俺が……?」
「ええ。
あの時、あなたの剣が紅に染まった。
ヴァルドは、あなたを
“見た”の。
理を繋ぐ者として。」
レアの言葉に、
リュカはそっと手を伸ばした。
紅のカードと、彼の持つ白のカード――
二つの光が触れ合う瞬間。空気が震えた。
白のカードが淡く脈打ち、紅の光を吸い込むように
輝きを増していく。
「っ……!」
リュカは思わず目を閉じた。熱ではない。
まるで心の奥で、何かが
“生まれる”
感覚。レアは微笑んだ。
「それが――
“託す”
ということ。」
二枚のカードが一つに重なり、
紅と白の光が混じり合う。
やがて、その輝きは
“深紅”
に変わり、
中央に紅竜の紋章が浮かび上がった。
――紅の竜宝印、完全継承。
風が吹き抜け、灰が舞い上がる。
遠くで、燃え尽きた塔が静かに崩れた。
リュカは掌のカードを見つめた。
「……この炎、重いな。」
「重いわ。
でも、それが
“誓い”よ。」
レアは微笑み、彼の前で一歩だけ退いた。
「あなたはこれから、
“理の旅人”になる。
そして私は――
この国の灯を守る者。」
「もう会えないのか?」
「きっと、また会える。
理が交わる場所で。」
風が二人の間を通り抜ける。
炎の残り香と共に、
どこか遠くから
“蒼い風”
が吹き始めた。
レアが目を細める。
「……次の理が、あなたを呼んでる。」
リュカは頷き、
剣を背に、紅のカードを握りしめた。
「――必ず、この灯を繋ぐ。」
レアはその背中を見送り、
静かに祈りの言葉を口にした。
「炎に託す。
その先の理に、どうか導きを……」
灰の空の向こう、微かに蒼い光が、
風の中に滲んでいた。




