第1回 ー崩壊の残響ー
風が止まった。
だが、空はまだ赤い。
イグナリア王国――
かつて「炎の理」を誇ったこの地は、
今や音もなく沈んでいた。
焦げた城壁、崩れた塔。
街路を覆う灰は雪のように降り続き、
立ち尽くす人々の影を
淡く包み込んでいく。
瓦礫の隙間から、まだ燻る炎が見える。
それは怒りでも破壊でもなく、
最後に残った
“命の残光”
だった。
「……紅竜の炎が……こんな形で……」
老いた神官が膝をつき、
焼けた地を手のひらでなぞる。
その指先に、微かに温もりが残っていた。
誰もが黙っていた。
泣くことも、叫ぶことも、
もうできなかった。
ただ、時折吹く風が、
倒れた祈りの旗を鳴らす音だけが響く。
――まだ、生きている者がいる。
遠くで、誰かが瓦礫を掘り返す音がした。
焼け焦げた鎧をまとった兵士たちが、
仲間を探していた。
声を出すたびに咳き込み、
それでも、手を止めることはなかった。
「陛下は……?」
「……見つからない。だが、まだ……」
彼らの目に、もはや希望はなかった。
けれど――
“諦めきれぬ想い”
だけは、確かにそこにあった。
⸻
丘の上。
レア=ヴァルステラは、
その光景をただ見つめていた。
焦土に降りる風が、
焦げた赤髪をなびかせる。
胸には、紅の竜宝印カード。
穏やかな光を放ちながら、
かすかに鼓動のような脈を刻んでいた。
「……あなたの誓いは、私が受け継いだ。
でも…… 代償が、あまりにも大きい。」
彼女の声は、風に溶けた。
その瞳には、かつての炎の輝きはない。
あるのは――
罪を抱えた人の、静かな決意。
『……誓いを絶やすな。
炎は命と共にある。』
脳裏に残るヴァルドの声が、
まだ耳の奥で響いていた。
「……命と共に、か。」
彼女は視線を落とした。
丘の下では、民が互いを支え合い、
傷を癒やしながら、
小さな火を焚いていた。
焔は弱々しく、けれど確かに、
闇の中で灯っている。
「……そうね。
この炎を、絶やしちゃいけない。」
レアは歩き出した。
焦土の道を、ゆっくりと。
その足元には、壊れた祈りの指輪や、
焼けた竜の護符が散らばっている。
ひとつ拾い上げ、
掌の中でぎゅっと握りしめた。
「――次にこの灯を継ぐ者が、
きっと現れる。
だったら、私は……その橋になる。」
風が吹いた。
灰が舞い、その向こうで空の色が、
ほんのわずかに青へと変わる。
レアは立ち止まり、
そっと空に手を伸ばした。
「ヴァルド……私は、まだ燃えてるよ。」
⸻
その頃――
静まり返った王都の外れ、
崩れた塔の影で、
一人の少年が剣を見つめていた。
リュカ。
刃はまだ赤く光を帯び、
その奥で、
微かに蒼い輝きが脈打っていた。
「……炎が、終わっていない……?
いや――
これは……次の理の、呼び声……?」
絵本のページがひとりでに開く。
紅の文字はすでに消え、
淡い蒼光が文字の形を描こうとしていた。
リュカは剣を背にし、
崩れた街を見渡した。
「……俺たちは、託されたんだな。」
炎の国の幕は閉じた。
だが、その残響は、




