第3回 ー紅の竜宝印ー
紅竜の咆哮が止み、空を覆っていた炎の幕が、
静かに薄れていく。
燃え尽きた王都の中心――
瓦礫と灰の中で、ただ一つだけ、
柔らかく脈打つ光があった。
それは、宙に浮かぶ
“カードの原型”。
だが――その色は、紅ではなかった。
「……白い?」
レアが息を呑む。
「どうして……
炎の理のはずなのに、白く――?」
リュカはゆっくりと手を伸ばす。
カードは触れられる寸前、
まるで息をするように淡い光を放った。
“誓い、形を得たり。
だが、理は未だ定まらず。”
絵本のページがひとりでに開き、
無色の文字が浮かび上がる。その光が、
白いカードを包み込むように輝いた。
「これが……竜宝印……?」
レアが呟く。
紅竜ヴァルドの心核が、静かに光を返す。
『理は色を持たぬ。
人の心が、誓いを灯す時――
色が宿る。』
レアははっと息を呑んだ。
「……紅ではないのは、ヴァルドが私に
“理”
を託したから。
彼の怒りも悲しみも……
すべて、私たちが受け止めた。」
リュカは頷いた。
カードをそっと両手で包むと、
その中央の宝石が紅へと染まり始める。
「……紅竜の理、炎の誓い――」
「……ここに、再び灯る……」
二人の声が重なった瞬間、光が弾けた。
風が、炎を運び、
空を照らす赤い光が天へと昇っていく。
『……誓い、受け継がれたり。
これより、お前たちが
“焔の継承者”。』
紅竜ヴァルドの声が静かに響く。
その姿は光となり、空へ溶けていった。
レアは膝をつき、両手で紅のカードを抱きしめた。
「ヴァルド……ありがとう。」
リュカは、手に残る温もりを感じながら、
目を閉じた。
(……この力……
心の奥に、何かが反応してる。)
(剣と絵本……そして、竜宝印。
全部が――
繋がっている。)
だが、その静寂を――
地鳴りが破った。
ドォォォン……ッ!!
地面が揺れ、王都の塔が崩れ落ちる。
遠くの山が裂け、火の粉が空を舞った。
「何……これは……!?」
レアが立ち上がる。
瓦礫の下から、
赤黒い光が漏れ出していた。
それは、かつて竜導管が
埋められていた場所――。
「王が……
封印層の下に、もう一つ……!」
リュカが剣を構えた。
だが、その刃が再び白く輝き出す。
まるで、これから訪れる
“次の理”
を示すかのように。
『……理の連鎖は、止まらない。
お前たちの誓いが灯を繋ぐ限り……』
紅竜の声が、風に混じって消えていく。
空を見上げると、
薄れゆく紅の光の奥に――
青い輝きが浮かんでいた。
「……見える? あの光……」
「……ああ。次は――
“蒼”か。」
絵本のページが、ひとりでに開く。
そこには、新たな文字が浮かんでいた。
『蒼の国 リヴェリス
記憶の理を宿す地』
風が吹き抜ける。
瓦礫の上で二人は立ち上がった。
崩れゆく王都を背に、
夜明けの光が差し込む。
「……誓いの炎、ちゃんと灯ったな。」
「ええ。でも――
まだ、燃やし続けなきゃ。」
リュカは微笑み、
手の中の紅いカードを見つめた。
その光の隣で、
絵本が静かに蒼く輝いた。




