第2回 ー二つの誓いー
炎の轟きが止んでから、
どれほどの時間が経ったのだろう。
空にはまだ、赤い光が漂っていた。
紅竜ヴァルドの咆哮は鎮まったが、
その炎は――
消えていなかった。
「……おかしいわ。」
レアが静かに呟く。
「ヴァルドが眠りについたはずなのに……炎が、消えない。」
リュカは剣を手に、その光を見つめた。
瓦礫に反射する焔が、まるで
“心臓”
の鼓動のように明滅している。
「怒ってるのか……
それとも、何かを伝えようとしてるのか。」
レアは首を振った。
「いいえ。これは……
“理”
の残響。
紅竜の力は鎮まった。
でも、誓いの行方が定まっていないの。」
「誓いの……行方?」
「炎の理は、
“託す者”
がいなければ消えない。
だから……
誰かが、それを継がなきゃいけない。」
レアは拳を握る。その手に、
紅竜の結晶が柔らかく脈打っていた。
それはまるで、生きているようだった。
「……炎を託す者。
ヴァルドは、誰を選んだんだ?」
リュカが呟いたそのとき――
剣が、淡く光った。
最初は、刃の縁が赤く染まる程度だった。
だが次の瞬間、
刃全体が燃えるように輝き出す。
「っ……!? 剣が――!」
レアが息を呑む。
リュカは思わずその剣を離そうとした。
だが、手が離れなかった。まるで剣が彼の手を
“掴んでいる”
ようだった。
「な……何だ、これ……!」
『……その剣は、竜の心を映す器……』
炎の中に、紅竜ヴァルドの声が響いた。
優しく、しかし確かな響き。
『……人よ。お前の中にも、灯がある。
それを恐れるな。
誓いの理を、受け入れよ。』
リュカの胸が熱くなる。
心臓の鼓動が速くなり、視界が赤に染まった。
(……この感覚……まただ……。
体の奥が……燃えてる……!)
レアが駆け寄り、リュカの肩を掴む。
「リュカ! 無理しないで、
剣があなたの理と――!」
だが、その声は光に飲まれた。
剣から立ち上がった紅の輝きが、
リュカの背後に浮かぶ絵本へと流れ込んでいく。
ページが勝手に開き、無色の光と紅の光が絡み合う。
やがて、そこから一枚の
板のようなものが形を取り始めた。
レアは息を呑む。
「これって……まさか――!」
リュカは目を開ける。
その瞳の中で、紅の光が燃えていた。
「……俺の中に……炎がある。
ヴァルド……これが……
誓いの形なのか……?」
『そうだ。
お前の剣と、その書は
“理を記す器”……。
そして、誓いを受ける者の印となる。』
絵本の上空で、紅の粒子が集まり、
ゆっくりと一枚のカードの形を成していく。
紅の宝石が中心に嵌め込まれ、
竜の紋章が淡く浮かび上がった。
――竜宝印。
それは、炎の誓いが形となった
“証”。
だが、その輝きはまだ不安定だった。
まるで、何かが、足りないように震えている。
「……完成してない?」
レアが呟く。
「ヴァルドの理は、
まだ完全に継がれてないの。
“誓い”
が揺らいでる……。」
リュカは剣を見つめた。刃の中で紅の光が脈打つ。
絵本と剣――
二つの理が、まだ完全に重なっていない。
「……なら、やるしかないな。」
「え?」
「炎を、ちゃんと継がなきゃ。
このカードが生まれる
“理由”
を、俺たちが作るんだ。」
レアの瞳に、迷いが消える。
そして、微かに笑った。
「……あなたって、本当に無鉄砲ね。」
「それはもう、今さらだろ?」
二人の前で、
紅竜ヴァルドの瞳が、最後の光を放つ。
『誓いを完成させよ。
灯を託すに相応しき者たちよ。』
炎が再び、静かに燃え上がる。
紅の竜宝印が、ゆっくりと宙に浮かび――
そして、まだ不完全な光を残したまま、静止した。
それはまるで、彼らの
“決意”
を待っているかのように。
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