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第1回 ー炎の底でー

紅蓮の渦の中――


世界が燃えていた。

大地も、空も、祈りさえも。

ただひとつ、立ち尽くす影があった。


レア。

その瞳に映るのは、

苦しむ紅竜ヴァルドの姿。

その咆哮は、


怒りではなく――


悲鳴。


『……誓いを……忘れた……』


「……ヴァルド……」


レアは、

炎に包まれながら一歩を踏み出した。

熱が皮膚を焼き、

呼吸が止まりそうになる。

それでも、足を止めなかった。


(あの時、あなたは言ってくれた。


 “命を守るための炎”だと。


なら、私が思い出さなくて

どうするの……!)


祭壇の中央に浮かぶ竜の心核が、

苦しげに脈を打つ。

紅の光が激しく脈動し、

世界を裂いていた。


「ヴァルド! 

私はあなたを責めない。

でも、お願い……

もう一度、私の声を聞いて!」


炎が唸りを上げ、風が逆巻く。

リュカが後方で剣を構える。


「レア、下がれ! 


このままじゃ――!」


「いいの!」


レアの声が、炎を切り裂いた。


「私が、あなたに誓ったの。

 “炎は命を守るためにある”って。

 あの誓いを……今、取り戻す!」


その瞬間、

胸の印が紅く輝いた。

そこから溢れる光が、

まるで炎の涙のように宙を舞う。


『……誓い、

まだ……燃えているのか……?』


ヴァルドの声が、わずかに震えた。

怒りに満ちていた焔が、

少しずつその色を薄めていく。


「ええ、燃えてる。

 この国の人たちの中にも、

 まだ灯は残ってる。


 だから――


もう、悲しまないで。」


レアの手を包む光が

紅竜の心核へと届く。

炎が波紋のように揺らぎ、

世界に静寂が訪れた。


リュカが剣を下ろし、息を呑む。

周囲を覆っていた焔の嵐が、

ゆっくりと消えていく。


ヴァルドの姿がはっきりと現れた。

巨大な紅竜が目を閉じ、

その瞳から一筋の光がこぼれる。


『……人よ。

 誓いを忘れぬ限り、

理は燃え続ける。

その灯……

今度こそ、お前たちに託そう。』


竜の胸から一つの結晶が

浮かび上がる。

それはまるで心臓のかけらのように、穏やかに光っていた。


レアが手を伸ばそうとした、


その瞬間――


リュカの絵本が、突如として輝いた。

紅ではない。無色の光。


「……絵本が、光ってる……?」


ページがひとりでに開き、

紅い文字が光に溶けていく。


“五つの理の灯、ひとつ燃えたり。”

“失われた理、目覚めの兆しあり。”


リュカはその光に目を奪われた。

胸の奥で、何かが共鳴している。


(……この感覚……まただ……)


(熱い……でも、痛くない……


これは――)


絵本の光が、紅竜の結晶と共鳴した。

炎が再び渦巻く。

しかし今度は、温かい光。


ヴァルドの咆哮が、

静かな風へと変わる。

そして炎は鎮まり、

世界がひとつ息をした。


レアは膝をつき、

リュカが彼女の肩に手を置いた。


「……終わったのか……?」


「ええ……

けれど、これは


“始まり”


でもある。」


レアは小さく微笑んだ。

その瞳に、かつての迷いはなかった。


紅竜の影が、光に溶けていく。


『……灯を、絶やすな……

炎の継承者たちよ……』


炎の残光が、空へと昇る。


そして、二人の前に残されたのは――


紅く輝く結晶と、淡く光る絵本。


リュカはそれを見つめ、

拳を静かに握った。


「……誓いの炎、確かに見た。」


紅の竜が眠りについた。

だがその心の灯は、

確かに残っている。


炎の国イグナリアは、

ようやく静かな夜を迎えた。


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