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『黎明の理譚Ⅰ 〜紅竜の誓い〜』  作者: 桜井りゅうと
第1章 焔の国の継承者
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第1回 ー紅の街にてー

灼けつく風が吹いていた。

砂混じりの熱気が頬を叩くたび、

リュカはフードを深くかぶり直した。

彼の目の前に広がるのは、


赤土に染まる大地――


焔の国イグナリア。


遠くに見える王都は、

まるで炎で築かれたようだった。

黒い石造りの家々の屋根は赤く塗られ、

火山の煙が空を覆い、

昼でも夕焼けのような光に包まれている。


「……本当に、

炎の理に生きる国ってわけか。」


彼は腰の剣を確かめながら、

街の門をくぐった。


背中にはいつもの――


あの古びた絵本。

絵本の表紙に刻まれた竜の紋章が、

陽の光を反射してかすかに光った。


門を抜けた途端、

肌を刺すような熱気と、

香ばしい匂いが鼻をくすぐった。

通りのあちこちで鉄を打つ音、

鍛冶屋の槌の音が響く。

炎を扱うこの国では、

鍛冶と武具の工芸が

生活そのものだった。


「いらっしゃい! 旅人さんかい? 

ここじゃ、水より鉄が貴重だよ!」


通りの屋台の老人が笑う。

リュカは微笑み返し、

革袋から数枚の銅貨を出した。

焼けたパンを受け取りながら、

彼は尋ねる。


「この国では、炎の祭があると聞いた。」


「そりゃあ今日さ! 


“紅竜の儀式”


だよ!

巫女様が竜の加護を呼び、

国の火を新しくするんだ。」


老人の声には誇りと、

どこか影のような響きが

混じっていた。

リュカはその微妙な違和感を

胸に残しながら、


人波に紛れて王都の中心部――


聖炎広場へと向かった。


街はざわめきに包まれていた。

祭りの日とあって、

赤い布を身に纏う者たちが

溢れている。

子どもたちは炎を模した

紙の花を手に走り回り、

露店からは焼き肉の匂いが立ち上る。


だが、リュカの目には――


別のものが映っていた。


街角の壁に貼られた


“徴兵の布告”。


王の名のもとに、

紅竜の力を持つ者を

召集する令が出ていた。


「……竜の力、か。」


彼は小さく呟き、拳を握る。

その瞬間、絵本の中で


“カサリ”


と音がした気がした。

まるで、

自分の思考に呼応するように。


太陽が傾き、

街に長い影が落ち始めたころ。

聖炎広場に人々が集まり始めた。

紅い石畳の中央には

巨大な紋章が刻まれ、

その上に炎のような衣を纏った

少女が立っていた。


紅蓮の髪が風に舞い、

その瞳には揺るぎない

光が宿っている。


「――紅竜ヴァルドよ。


この国に、再び焔の祝福を。」


彼女の声が響いた瞬間、

地の底から低い咆哮がこだました。

空気が震え、光が広場を包み込む。


リュカは息を呑んだ。


その力――


まるで、絵本の中に描かれた


“竜の理”


そのもの。

そして、心のどこかで、確信した。


「あれが……紅竜の継承者。」


焔の渦の中心に立つ少女――


レア=ヴァルステラ。

彼女こそ、リュカがこの地に来た


“理由”


を知る者だった。


炎が空へと昇り、夜空を紅に染めた。

それは祝福の光であり、


同時に――


不吉な予兆でもあった。

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