休暇明けの彼は随分と明るい顔をしていた
ある朝目を覚ましてから、顔を洗おうと洗面所で鏡を覗き込んだ私は思わず肝を潰した。鏡の中、私がいるはずのそこに私の顔は映っておらず、代わりに真っ白い人影があったのだ。なにか見えてはいけないものが見えてしまったのかと思った私は一度目を離すが、すぐに意を決してもう一度鏡に向き直る。
そこにはやはり白い人影があった。
そしてその人影には黒い文字でこう書かれている。
「有給消化中」
相変わらず意味の分からない状態ではあったが、その文字を見て私はなんとなくすとんと腑に落ちた。
まあ、そうだよな。一年中どころか私が生まれてからずっと鏡の中で私の真似をし続けているのだ。少しくらいは休みたいに決まっている。
しばらく休むくらいは仕方ないだろう。
それから一週間ほど、私は鏡に白い影しか映らない状態が続いていた。
しかしある朝に起きて鏡を覗き込むと、そこには白い影はなく私の顔が戻ってきていた。
たった一週間であったのになんだか懐かしいその顔に思わずおかえりと言いながら私は少し首を傾げる。
私はこんなに日焼けをしていて、溌剌とした表情をしているだろうか?