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フランチェスク伯爵

帝都


 僕たち2人はその後帝都へと到着して無事に皇帝陛下へと悪魔討伐の報告を済ませたのであった...


 そういえば例の村長が言っていたウィスキーという酒が僕の中で引っかかっていたのだ...それは地球の酒でありこの世界には存在しなかったはずのものである...


 いや、麦があるのだから同じような酒を造ることは可能だろうが...名前まで同じになると言うのはいくら何でも偶然で済ませていいのだろうか...


 帝国農務省で話を聞ければいいのだけれど恐らく許可はされないだろう...


 僕たちは悪魔討伐を成し遂げたとはいえあくまで部外者である...現在諸国連合との間で緊張が高まっているらしく帝都ではある種ピリピリとした感覚を僕は感じていた...


 10年前も帝国は悪魔よりも人間同士の戦争に帝国は危機感を抱いていたのだ...ある意味では悪魔達などは御伽噺の類と同じ扱いでありたった僕たち4人で討伐に成功したとの結果からやはり大した相手ではなかったとの認識が帝国には広まっていた...


 真実はそうではない...僕だってこの伝説の武具が無ければ奴らと戦う事は出来なかっただろう...この伝説の鎧は魔力の存在しない僕だからこそ扱えるある意味では呪われた装備というものであった。


 僕と言う体を媒介に、大地や空間に存在する魔力を一気に攻撃魔法という形で投射できるこの武器は剣ではあるが実質的には杖に近い機能を持ったものである...そしてこの世界の魔力を持つ人間が扱えば自らの魔力全てを投射する事となり、魔力欠乏で死に至らしめる恐ろしい武器でもあった...元々魔力など存在しない僕はそのデメリットを受けることはなかったのだ...そして通常なら己の命と引き換えに放たれる浄化の炎と呼ばれる魔法は上級悪魔すら一撃で消し炭にする威力を持っていた...


 皇帝陛下の居城を後にしようとしたその時ある人物に僕たちは話しかけられたのだ...


 その人物はフランチェスク伯爵という選ばれし者の村を含めた辺り一帯を皇帝陛下から預かっている総督であった。


 「勇者殿、此度の悪魔討伐大儀であったな。皇帝陛下も大変お喜びになっておられる。しかしもう10年か...勇者殿を送り出した時などはまだ子供に見受けられたものだが、男の顔になったな。」


 さて、本当にそう思っているのかどうか...まあ社交辞令のような物だろう。


 「いえ...それより伯爵、帝都にいらしていたのですね。」


 「ああ、例の諸国連合の対応でいろいろと動かなくてはならんことがあるのでな...それが無ければ勇者殿の支援で飛空艦の1隻でもつけてやれたものを...」


 窓の外を見ながら伯爵はそう投げかけた...帝都上空には最大全長300mから小型のものでは50m程の飛空艦が複数浮遊していたのである...


 あんなものが空を飛ぶなんてにわかには信じられないけれど...


 戦闘飛空艦と呼称される艦種のそれは全長320m、最大速度は地球単位で言う所の250km/h ...魔道機関において浮遊する大型兵器であった。もっともそれは空中における戦闘の主役ではなかったのだが...


 帝国において空を制する王者は竜である...速度は500km/hを超え、飛空艦はあくまで竜騎兵隊を支援する存在であった。それに飛空艦という概念自体は帝国初ではなく諸国連合が開発したものであり帝国は対抗するためにコピーしたに過ぎない。


 帝国は飛空艦など図体だけの存在で竜には対抗し得ないと判断しており、その考え自体は正しかった...実際15年ほど前、諸国連合の200m級飛空艦と国境線付近において偶発的に衝突が発生した際は帝国竜騎兵隊は彼等を圧倒したのだ...


 ただしその大きさと火力は竜を圧倒しており、対地攻撃においては伝説の古代龍もかくやと言うほど恐ろしいものである。


 帝国はコピーした魔道機関を用い大型飛空艦を対地攻撃兼竜騎兵隊の移動基地として用いる運用を行っている...強力な存在であるがそれに比例してコストも恐ろしく高いものであった。


 たしかにあれが1隻いてくれたら悪魔達との戦いには有利に働いたかもしれない...けれど連中が使役していた竜はそれ以上の存在であったが...


「勇者殿ははるか東方の地出身であったな?」


 表向き俺は遥か東方の地から遥々この帝国にたどり着いたと言う事になっている...異なる世界から転生してきたなど信じてもらえるはずもない。


 「ええ、でも殆ど記憶はありません...事情がありまして。」


 「そうか...諸国連合の連中が最近妙な動きをしていてな...まあ10年以上留守にしていた勇者殿はたとえ記憶があったとしても今現状はわからんだろうか...」


 「妙...ですか?」


 帝国との国境線付近に諸国連合は前哨基地を建設しており、そこには彼らが開発した小型の航空戦力、制空機が配備され帝国竜騎兵隊との小競り合いが続いていたというのだが...


 「ついこの間まで連中のあのガラクタが多く活動していたのだがな...最近その数を減らしているのだよ。より旧式の機体を引っ張り出して国境線に配備されていた新型と交代させているらしいとの報もある。」


 諸国連合が採用しているフォーゲル2型制空機は帝国の竜に対抗するため飛空艦に代わる航空戦力である...前世代機のラーベ制空機が複葉機であったのに対してフォーゲルは単葉機として完成しておりその最高速度は450km/hほど...段々と竜の速度に追いつきつつあることは帝国を警戒させていたのだ。


 攻撃手段は機体前方に魔弾噴射装置を備えており、直撃すれば竜すら落とす威力を持っていたのだ。制空機用に小型化された魔道機関のコピーに帝国は未だ成功していない...


 ちなみに魔道機関は推進力をもたらさない...あくまで空中に留まる術として浮かぶための装備であるのだ。推進するためには大型艦はプロペラ、小型の制空機は一体どうやって推進しているか不明であると言う。

 

 これらの強力な航空戦力はこの異世界の文明レベルと比較してかなり突出したものである...地上ではいまだに銃すら出現していないと言うのにだ...恐らくこれも魔法と言う存在がもたらした結果だろう。


 地球とは違い古くからこの世界の人たちは魔力を用いて空を駆けてきた...だからこそ空の戦争もそれだけ進化したと言う事なのかもしれない。


 話を戻そう、国境線付近で活発に活動していたフォーゲル制空機が最近姿を見せず旧式のラーベ型が活動しているらしいとの情報が上がってきているらしかった...数自体もめっきり少なくなったという。


 帝国としては歓迎する事なのであるが...


 「近く我々竜騎兵隊の国境基地へ帝国アカデミーの学生たちが慰問に訪れる予定でな...滅多な事は無いと思うが勇者殿も同行してはくれないだろうか?」

 

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