魔の穴
まだ日ノ本に魑魅魍魎、悪霊の類が跋扈していた時代...それら怪異は日本各地に存在していた魔の穴と呼ばれる異界とこちら側を繋ぐ存在から溢れ出たと言われている。
魔の穴は形あるモノを通すことは無かったが、別世界から魔力という目に見えざる超常を日ノ本にもたらしていたのだ...その干渉を受けた生物に様々な変化をもたらしたと言う...
大型化や狂暴化、時には蛇を多頭の怪物に変異させたのだ。そして影響は当然ながら生物である人間も対象外ではなかった。
影響を受けた多くの者は魔の力を悪用し、時代は乱世へと移り変わった。
しかし魔の影響を受けてもなお善の精神を持ち続け、彼等に立ち向かう者達も存在したのである。
最終的には善の者らが勝利した...そして彼等彼女等は魔の穴を封印する術を編み出したのだ...魔の穴の地点には今日においても祠としてその封印が残っているという。
魔の穴に関しての記録は殆どが残っていない...人々の記憶から時代とともに消え去ったのかあるいは意図的に記録を処分したものがいたのか今になっては確かめるすべは存在しないだろう。
しかしその封印を施した者達の一族は現在でも魔の力を継承し封印を守護していたのであった...
2050年 日本某所 魔の穴封印地点...
人々から忘れ去られたような過疎地域...平家の落人伝説が残るある村落にはそこに似つかわしくない物資の数々や人員が溢れていた。運び込まれるコンテナにはXZテクノロジーズの企業ロゴが刻まれており、汎用人型ロボットであるプライムや大型のパワードワーカーを着込んだ作業員が忙しなく動き回っていた...
その時、エアクラフト用の離着陸場に1機のeVTOLが着陸した...
スーツにサングラス姿のその男性は2機のセキュリティー仕様のプライムを伴いこの地に降り立ったのだ...驚くべきは日本国内だと言うのにセキュリティー・プライムは自動小銃で公然と武装していたのである。
48式小銃...米軍でも採用されている6.8×51mm弾を使用する次世代小銃は、まだ自衛隊にも配備が始まったばかりの新型である。なぜそんな新型がこんな場所に存在するのか...当然理由がある。
この地に降り立った男性は、今を輝く日本黎明の会所属の衆議院議員である星城朱蒼であった。
彼は35歳と言う若さで国土交通大臣に任命された経歴を持つ。(最も30代での大臣任命は日本で前例が無いわけではない)
彼は純粋な日本人ではなく、とあるアメリカ人男性と日本人女性とのハーフであった...そのルックスからか国民の人気は高く、特にSNSを活用した宣伝活動は時に過激な発言が飛び出し、巷を沸かせていたのであった...野党から攻撃されることも多かったが、本人は歯牙にも掛けないと言った様子である。
彼の存在こそ日本黎明の会の存在理由と言っても過言ではなかった...ネット...SNSを活用した政治的戦略は数十年の時間を費やした壮大なものであったのだから...
そうだ...私の父は異世界を観測した時からこの青写真を描いていたのだ。
自分の血筋の者を日本政界へと送り込むため...黎明の会という政党すら実際には父の意向で動いているのだ。
日本人が多く利用しているSNSの買収から始まり、日本と言う国家の世論形成に干渉しようとした試みは成功を収めようとしていた...