異なる世界
この世界について...地球とは異なる次元に存在する存在をイーデン・マリウスは2020年頃観測に成功していたという。彼は10年以上の年月を費やしこの世界を観測...言語や文化...技術レベルや地球には存在しない魔法と言う概念に関するデータを密かに蓄積していたのであった。そしてその成果は長年の夢であった火星移住計画を白紙にするほどの物であった...
異なる世界 帝国領 辺境 とある村
夜の帳が下り、星々が夜空に煌めくのと対照的に地上は暗黒が支配する時間となっていた。
しかしこの選ばれし者の村は灯りに照らされていたのであった...それは魔法ではない、人為的に起こされた炎の灯りであったのだ。
逃げ惑う村民の背後から鋭利な刃物が振り下ろされ鮮血が舞う...皮の鎧を身に着けたワーウルフと呼称される亜人種が人間に襲い掛かっていたのだ。
やはり正解だったようだな、このタイミングならこの村は貧弱な人間ばかりだ...魔法の使えるあの女さえいなければ恐れる者などこんな田舎の村にはいないだろう。
このワーウルフの男性がリーダーを務める野盗集団は以前よりこの村に目を付けていたのだが、村民の一人である強力な魔法を行使できる女性を警戒して襲撃が実行されることは無かったのだ。しかし例の選ばれし者...勇者が現れた為状況は変わった。
この村が選ばれし者の村と呼ばれるのには理由がある...勇者と呼ばれる者だけが扱えるとされる伝説が残る武具が保管されていたためだ...かつて世界の西方に存在した悪魔達をたった4人で駆逐したとされる勇者一行の伝説はあまりにも有名だ...そしてこの村にはその武具と勇者に同行したとされる魔法使いの血筋の物が暮らしていたのだ...
つい最近悪魔達が復活したとの知らせはこの田舎にも届いてはいたが、人々の関心は西方よりも東方に向いていたのだ...現在帝国とその東方に存在する諸国連合は一触即発の状態であり悪魔より人間同士の戦争に人々の関心はあるようであった...諸国連合の連中は飛竜に頼らない空中戦力を有しており最近の技術進歩とやらでその力は飛竜に追いついたとか追い越したとかの噂を聞いたことがある...
まあ、そんなことはどうでもいいがな...俺にとって悪魔達や諸国連合なんざどうでもいい、ただ俺たちは奪い楽しく生きるだけなのだから。
そんなことを考えていると背後から軽い衝撃と熱さ...鈍い痛みが襲い掛かってきた。
俺は振り返るとそこにはブロンドでショートヘアーの人間の女性がこちらに杖を向け、足を震わせながら立ち向かってきたのであった。
今の衝撃は恐らく初級魔法の類であろう...背後からの奇襲で一撃貰ってしまったが大した威力ではない...
そして2発目をこの女が放とうとしている隙に俺は懐に潜り込み剣ではなく拳で鳩尾の付近に一撃お見舞いしてやったのだ。
「ウッ!...」
女は杖を手放し地面に倒れる...馬鹿な人間だ、その程度の実力で立ち向かおうなど寿命を縮めるだけだと言うのに。
すると俺の手下である2mを超える巨漢のオーガとそいつとは対照的に1m程の身長のコボルトが近寄ってきたのであった。
ニヤニヤよ薄ら笑いを浮かべるオーガとコボルト...そしてその表情を見て絶望を浮かべる魔法使いの女は自らの運命を悟ったのかもしれない。
「お姉さまがいればこんな連中...」
苦し紛れにひねり出した虫にすら劣るような声量でこの女...いや年齢で言えば少女は呟いた。
なるほど、この少女はあの忌まわしい魔法使いの女の妹か...
選ばれし者の村に例の武具を扱える人間が現れたとの報告はつい数週間前この辺りでは有名な話となっていた...そしてその選ばれし勇者様と魔法使いの女は復活した悪魔討伐の為西方へと旅立ったとの知らせは俺達を狂喜させたのだ。
「そいつは残念だったな、だが心配しなくてもいい。あんたの命だけは取らないでおいてやる...命だけはな。」
俺はその少女の髪の毛を掴み、立ち上がらせる...その時だった。チビのコボルトの奴が村の入り口の付近から誰かが近づいてくるに気が付いた...
「あぁん?なんだの人間...こっちに近寄ってくるぜ!?」
妙に甲高い声を発しながらコボルトが指をさす...そのには確かに人間の男性がこちらを目指してゆっくりと近づいてくるのが確認できたのだ。...しかし様子がおかしい。
この状況で素手で近寄ってくる...いやなんだあいつは!?
その身長190cmほどと見受けられる人間にしては体格のいい男性はなんと何の衣服も身に着けず全裸でこちらに近寄って来るのであった。
「おいおい、なんだこいつ?ちょうど水浴びでもしてたのか...着るもんが燃えちまったんじゃねぇのか?」
コボルトがその人間に食って掛かるがあまり相手にしていないように...無表情でその男は俺達をゆっくりと見回した。
コボルトとオークの次に俺を見るや少しの間をおいてその男性が口を開いたのであった。
「君が着ている服と靴が欲しい。」