ゴブリンの巣2
魔鉱石鉱山跡地
あのブロンドヘアーの女性の後に通る後には殺戮の痕跡が残るのみであった。
脱走に気が付いたゴブリンどもはいきり立ち武器を振り上げ鎮圧に乗り出したのだが...彼女はそんな愚かなモンスターをひと撫でで死体へと変えていった。
現在のこの廃坑につくられた巣には外征部隊たる精鋭のゴブリンたちは出払っており、まだ若いゴブリンや巣の防衛部隊が残っているのみでその数は多くはない...周囲の脅威となる人間や亜人は既に排除されており、防衛に戦力を回さなくてもよいとの判断だと思われる...
彼女はおおよそ人間とは思えない力でゴブリンどもを殺戮しながら廃坑の奥へと進んでいった。
数体の若いゴブリンたちが恐怖の表情を浮かべて廃坑の奥へと退避し始めたとき私達は他に囚われた女性たちを解放するために動き出していた...
ゴブリンの武器庫であった場所を彼女は制圧しようとすると、先ほどあの自らの手下を始末したゴブリン・ナイトがその手に持っていたロングソードを大きく振りかぶり襲い掛かってきたのだ。
上位種たるゴブリン・ナイトは力こそトロルよりは劣るが武器や防具を身に着ける知能を有しており、決して侮れない存在であった...無論トロルよりは劣るとは言っても人間の力などは遥かに凌駕しているのだ...
その一撃を彼女は恐ろしい反射神経を持って受け止めた...なんと彼女は片腕でゴブリン・ナイトの振り下ろされる腕を掴み、そのまま腕をへし折った...
おぞましい、そして悲痛なゴブリン・ナイトの絶叫が木霊する...倒れ込んだ上位種ゴブリンの頭に両手を回してその首を反対方向へと捻り処刑してしまったのだ...
私はその光景に圧巻されながらもゴブリンが持っていたロングソードを拾い彼女の後を着いていった...
「あんた一体...いや、そんなことを話している場合ではないな...なぁ!もういいだろう?脱出を優先したほうがいいんじゃないか?」
私の問いかけに彼女は振り向かずに答えた。
「この場所を制圧する、逃げたければ勝手に逃げろ。」
制圧...?確かに彼女は強い...だがそれはあまりに無謀ではないか?外征部隊が出払っているとは言ってもまだまだ連中の数は多い...それにこの騒ぎで例のゴブリンの王の親衛隊が動き出すだろう...
かつて討伐部隊を率いてこの廃坑に突撃した私達は廃坑の深部にまでは到達することに成功していたのだが王を護衛する親衛隊...ロイヤルガード・ゴブリンに敗れ去ったのだ。
私とて連中に雪辱を果たす機会を望んでいたのだが、今は退却して人員や装備を整えてからと考えるほどに冷静さを失ってはいない...奴らに受けた辱め忘れはしない...連中にされた悍ましい行為の清算は必ずするが、無謀な行為で命を捨てるような愚かな行為はするつもりはなかった。
「確かに貴女は強い...それは認めよう。だがいくら何でもこの少人数で巣の制圧は無理だ!碌な装備も無しに...」
「このレベルの脅威相手ならば問題ない。お前たちは脱出して構わない。」
「貴女一人で十分だとでも!?」
「その通りだ。」
彼女は暗闇の中をどんどんと進んでいく...
廃坑は暗い...通路と部屋には少数の松明で光源が確保されているだけであり人間よりも夜目が利くゴブリンにはこの程度の灯りで十分なのだろうが...その暗闇を躊躇いもせず彼女は進んでいった。
解放された女性たちは誰一人として巣穴を脱出しようとはしなかった...逃げるよりも彼女に付いていった方が安全だと理解していたからだった。
彼女のその姿に勇気づけられ女性たちはゴブリンの死骸から入手した武器を取りどんどんと深部へと突き進んでいった。
基本的には廃坑を利用した巣ではあるがゴブリンたちが新たに増設した部屋と言うのも存在しており、その一つ一つを先頭に立った彼女は制圧していく...彼女たちの行進にゴブリンたちは恐慌状態へと陥り散り散りとなって敗走していったのだ。
とある部屋へとたどり着く...その内部には逃走してきたゴブリンと生まれたばかりの彼等の幼年体がひしめき合っている悍ましい光景が広がっていた。昨日までとは立場の逆転したゴブリンと女性達...手にした武器が彼女達を復讐へと駆り立てた。
恐怖の表情で許しを請うゴブリンに対して囚われていた村娘が鈍器を振り下ろす...また違う少女が地面を這いつくばるゴブリンの幼年体を掘棒で叩き潰し彼等の邪悪な血液が辺りに飛散した...
私はただその行為を茫然と眺めていた...私とて復讐を誓ってはいたがある意味では正気を保っており大多数の壊れてしまった人間の復讐に圧巻されてしまったのかもしれない...
私達に復讐の機会を授けたこの女性はまるで無関心だと言わんばかりの無表情で部屋を観察していた...
その時、彼女は部屋の片隅に何かを見つけたようで、ゆっくりと近づいてそれを拾い上げた...
金属で出来ていると思われるソレはおおよそ30cmほどの大きさで、その外観にとても重厚な印象を私は感じたのである...
ソレが一体何に使う道具なのか私には全く見当がつかなかった...ただ剣で言えば握る為の柄のような物がついていることから手に持って使う道具だと思われる...
重厚な金属製の塊のソレは、よく見ると何か大きな穴のようなものが存在していることが確認できた...
「その...奇妙な道具は貴女の物なのか?」
「そうだ、ここに潜入する際に没収された。」
彼女はその金属の塊の上部を手で引くような動作をした...するとソレの上部が後方へとスライドして内部の作りが露出した...重厚で無骨に思われたその道具の内部は恐ろしく精巧な仕組みであり、私はその複雑さに目を奪われたのだ...
その見た目からは想像できないような精巧な作り...力強さと繊細さを併せ持つ一種の芸術品のように私には感じられたのである。
「それは一体何なのだ?」
「ジェリコン12.7mmオートマ。」